静寂を纏うきみ ぱらり、と紙を捲る音がする。がり、とシャーペンの芯が紙と擦れる音がする。読書スペースに行けばいいのに、本棚の間にその大きな身体を折りたたんで黙々とメモを取る男がひとり。
杉下京太郎は、意外にも図書室に入り浸る。読む本といえばもっぱら園芸関係のもので、どの時期にどの種類の野菜を植えるのが適切なのか、肥料は、水の量は、だとか、大体考えていることが想像つくラインナップだった。図鑑やエッセイを読んでいるときもあるし、雑誌を読んでいるときもある。
夏の暑さにうんざりしている桜は、クーラーの効いた図書室に涼みに来ていた。本を読む習慣などなかったけれど、適当な小説を取って、二年の先輩が突っ伏して寝ているカウンターを通り過ぎ、本棚が並ぶ一角に足を踏み入れる。
静寂があった。真夜中の空のような、包み込むような静けさがそこにはあった。
「……行っていい?」
桜がポツリと溢すと、真夜中はきろりと月を桜に少しだけ向けて、何も言わずに本に視線を戻した。
──好きにしろ、ということらしい。
少しだけ効きすぎる図書室の空調は、長く滞在するとひとりでいたら寒いのだ。いそいそと杉下の隣に腰を下ろすと、肩をぴたりとくっつける。薄い夏服越しに少しだけ高い杉下の体温が滲む。
実は桜に本を読む気なんかなくて、この静寂とこの体温を感じたくて図書室に来ていた。おそらくそれはバレている。でなければ、来んなと嫌悪感丸出しにして睨みついてくるはずなのだ。それでも隣を許してくれるというのは……
少しばかり自惚れても、良いのだろうか。