浅き夢みじ 酔いもせずプロローグ
「勇作どん、アタイは大きくなったら勇作どんと義兄弟の契りを結びたかです」
まだ音之進の歳の頃が十のころ。花沢の屋敷からひど遠くない浜辺で、夕日を背に音之進が言った。
まだ幼い子どもの音之進の口からそんな似つかわしくない言葉が飛び出すなんて。背の高い勇作が音之進の着物の袖の上から、両腕を掴めばちょうど見下ろすような角度になる。小さい顎を上げて、上向きに見上げてくる音之進の姿は、まだ子どもといえど、ぷっくりしたと血色の良いその唇のせいで妙に色っぽく見える。夏の刺すような陽光のせいか火照るように熱を持った勇作の額にじんわりと汗が滲んでくる。
音之進は自分の言った言葉の意味を理解しているのだろうか。それは勇作には分からなかったが、年頃の彼はその言葉が指し示す意味をはっきりと理解していた。
2742