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    名実(メイジツ)

    @meijitsuED

    推しカプの小説置き場

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    POIPOI 17

    蔵不二。それぞれの学校でとある噂が回っていることを知った2人の話。

    Real Me 女子生徒から感じる視線を、近頃不二は不思議に思っていた。

     それはある日突然、教室の中や廊下、校内のどこかしらから感じるようになった。
     その目は決してマイナスなものではない。むしろピンクっぽく色めき立っている。しかし不二に思いを寄せているような秋波とは異なり、その桃色っぽい視線の中には黄色い好奇の意思が読み取れた。
     
     まるで恋愛の噂話に出てくる渦中の人物として見られているように。


    「知らないの? 不二ってば熱愛報道出てるよん」

     部室でジャージに着替えながら不二は菊丸にこの頃女子から”見られている”ことについてこっそり話すと、信じられない答えが返ってきた。

    「熱愛報道って……芸能人じゃあるまいし」

     全国クラスの実力を持つテニス部レギュラーの一員という知名度はあるのかもしれないが、大げさな表現に不二は苦笑した。
     菊丸も「アハハ! 『熱愛報道』はちょっと盛った」と笑っている。

    「この間クラスの女子が話してたのを耳にしたんだけど、」

     そこまで言うと他の部員に聞かれないようプライバシーを配慮してか、菊丸は不二の耳に手を当てこっそりと教えてくれた。

    「不二には彼女がいるらしいよ」
    「そうなんだ?」

     不二がきょとんとした反応を見せると「そんな他人事みたいに……」と菊丸から呆れた顔で指摘される。

     荒唐無稽な話に巻き込まれてはいるようだが、そのことを初めて知った不二は自分の身に起こっていることとしての現実感が湧いてこない上に、興味もなかった。

    「で、実際いるの?」
    「彼女なんていないよ」

     どうしてそんな噂が流れたのかまったく覚えはないが、とにかく不二は事実を口にした。
     そう。”彼女”はいないのである。


    ***

     
     火のないところに煙は立つ。今、白石はこの言葉を身をもって経験していた。

    「で、噂によると白石は他校に『加工アプリで撮ったような色白でピュアシャボンの香りがしてバーバリーのマフラーが似合う清楚系のめちゃくちゃ可愛い彼女』がおるらしいで」
    「どういうこっちゃ」

     何がどうしてそうなったのか。
     最近女子生徒から好奇の視線を感じると部室で謙也に相談してみれば、自分がまったくのでたらめ話の渦中にいることを教えてくれた。

     なぜそんな噂話が出回るのか。身に覚えはないが、きっと誰かがホラを吹き、それに尾ひれがついて、具体性を帯びた虚像を作り上げたのだろう。
     迷惑な話である。白石は小さくため息を吐いた。

    「実際どうなん?」
    「そんなパーフェクトな彼女なんかおらんよ」

     ほぼ当たってるんやけどな、という言葉を飲み込んで白石が事実を口にすれば、「せやんなあ。誰が言い出したんやろ?」と謙也は噂の出所に疑問を呈していた。

    「だいたい、バーバリーのマフラーなんてほとんどの人間が似合うんとちゃうん?」
    「そう思うやろ? でも女子の見立てによるとな、ウチの女子制服にバーバリーのチェックは絶望的に合わんらしいで」
    「……言われてみると、そないな気もするなあ」

     謙也と他愛もない話をしながら、白石は人の噂も七十五日と言うしいずれ有耶無耶になって自然と消えていくだろうと部活用のジャージに袖を通した。
     

     その日の夜、もはや日課となっている不二との電話で白石は今日謙也から聞いた話をすると、スマホの向こうで不二はフフッと笑っていた。

    『四天宝寺の女の子の制服って紺と黄色のワンピースだっけ? たしかにそこにチェックのマフラーはちぐはぐかもしれないね』 
    「な。目がチカチカしそうやんな」

     たしかに白石に”彼女”はいない。いるのは加工アプリで撮ったように色白でピュアシャボンの香りがし、バーバリーのマフラーが似合いそうな清楚系のめちゃくちゃ可愛い”彼氏”である。
     
    『でも、噂って本当にどこから発生するものなんだろうね』
    「そこが不思議やねんな。まさか不二クンにも同じような噂が流れとるなんて」
    『おもしろいよね。僕の架空の彼女はどんな人なのか、明日聞いてみるよ』

     毒草が趣味でカブトムシを愛してる人かな? 
     白石のことをからかうように不二が話す。声しか聞けないものの、茶目っ気たっぷりに話す不二の笑顔が白石の目に浮かび、胸が締めつけられた。

    「俺やん」
    『フフッ。僕たちのこと、誰が一番最初に気づくんだろうね』
     
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