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    名実(メイジツ)

    @meijitsuED

    推しカプの小説置き場

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    POIPOI 17

    謙侑。いろんな人が出てくるラブコメディ

    レンキョリエンアイ スマホの向こうから聞こえる侑士の声はいつもよりぼんやりしていた。
    「侑士、なんかあった?」
    『え?』
    「今日、声がどんよりしとるやん」
     日課と言っていいほど定期的に連絡をとっているため、声の調子に変化があればすぐにわかる。かすれて疲れ気味の声。ゆっくりと喋る眠たそうな声。自慢したがる時の生き生きとした声。今の侑士の声は、何か迷いがある時の声色だ、と謙也は勘づいた。長い間ずっとそばで耳にしてきたからわかるのだ。
    「何か悩んどることでもあるん?」
    『……まあ、悩んどるといえば、悩んどるわ』
    「どないしたん? 話してみ。相談乗るで」
     悩み苦しんでいるのなら助けてあげたい。それに侑士は思い詰めていてもあまり表に出さず、人に悟られないよう我慢するタイプである。だからこそ何か余分に抱え込んでないか心配であるし、このたび従兄弟から彼氏に昇格した謙也は恋人がつらい時に救ってあげるのが自分の役目だ、と強く思っていた。
    『相談するほどのことでもないかもしらんけど……』
     遠慮する侑士に「そんなん言うとらんと話した方が楽になることもあるで。悩みなら一緒に解決したるから」と謙也は優しく諭す。テニスのことだろうと人間関係であろうとどんな悩みでもどんとこい、とかまえていた。
    「侑士が1人で悩んで苦しんでる方がつらいねん」
     謙也がそう本心を口にすると、侑士のフッと柔らかく笑った声が耳をくすぐった。
    『おおげさな悩みとちゃうけど』
    「そんなん気にせんって。ええから言うてみ」
     先ほどから何回も話を促すもなかなか打ち明けようとしない侑士にせっかちな謙也は若干の苛立ちを覚えたが、もしかしたら話すのもためらわれるようなデリケートな悩みなのかもしれないし、この先も侑士との付き合いを続けていくには時に侑士のペースに合わせる必要もある、と瞬時に考え直し、冷静に侑士の言葉を待つことにした。
    『ほんなら相談なんやけど、』
     ようやく本題に入ろうとする侑士に謙也はドキドキと待ちかまえていた。
    「おう。なんでも聞くで」
     どんなことでも侑士の力になってやるのだと意気込み、スマホを握る手に力を込める。


    『……おおきにな。
     なあ、友達からクリスチャン〇ィオールのパーカーをもらったら、お返しに何あげたらええと思う?』

    「…………えっ」
     耳にスマホを当てているはずなのに『俺もうめっちゃ悩んどるねん』と悩ましげに話す侑士の声が遠くに聞こえた。

     
     つまり話はこうだ。
     その日、侑士は跡部の家に招かれお茶をご馳走になっていたらしい。その途中、跡部宛に大量の荷物が届いていることを執事が知らせに来て、一体何が届いたのかと気になり見せてもらったそうだ。
     届いたのは跡部が展示会でオーダーしていた洋服の数々で、それはもう名前だけしか聞いたことがないような高級ブランドの箱が数多積み重ねられていたという。
     展示会に行ったのはけっこう前のことだそうで日々忙しい跡部は自分がどんなものをオーダーしていたのか記憶が定かではなく、届いた荷物を手近にあった箱から開けていった。
     その隣で侑士は高級ブランドの圧に内心おびえながらただただ眺めていたが、その視線をどう思ったのか跡部は
    「せっかくだから、1着やる」
     1枚のパーカーを侑士に差し出した。それが今回悩みの種となったクリスチャン〇ィオールのパーカーである。
     もちろん侑士は受け取りを断った。しかし跡部に「遠慮すんな」と押し切られ、友達の純な厚意を無下にするわけにもいかずもらって帰ってきてしまったのだった。
     人から無償で物をもらったからには、何かお返しをあげなければならない。それが礼儀の1つである。侑士はそう考え跡部にパーカーのお礼を渡そうと決めたが、はたして自分が買える物の範囲でどんな品をお礼にすればクリスチャン〇ィオールとつり合いがとれるのか、まったく思いつかないのであった。

    「それは……たしかにムズイな」
    『せやろ。もう悩みすぎて頭割れそうやねん』
     予想もつかない相談内容に謙也は戸惑いを隠せなかった。否、どんな重めな相談でもなんでも来い! とかまえてはいたが正直『え、そんなこと……?』と拍子抜けしてしまった。
     しかし侑士は跡部へのお返しに頭が割れるほど悩んでいるのだと言う。恋人がそこまで悩んでいるというのならなんとしても力になってあげたい。彼氏としていいところを見せたいのだ。謙也の心は折れていなかった。
     そうは思っても今一番気になるのは。
    「なあ……クリスチャン〇ィオールのパーカーって、どんなかんじなん? やっぱ普通のパーカーとちゃうの?」
     高級ブランドパーカーのスペックだった。
    『めっっっちゃ触り心地ええ』
    「もう着た? ちゅーか、それいくらするん?」
    『こわくてまだ着られへん。値段は……えげつないで』
    「なんぼ?」
     侑士の告げた金額に謙也は卒倒しそうになった。とても庶民が手を出せそうな服1着の値段ではない。そんな服を自分の恋人が手に入れた事実がおそろしいものに感じられてきた。
    「そんなんもうはよ質屋に売りに行き!」
    『あほか! 友達からもらったモンをそない心無いことできるか!』
     侑士の言い分がもっともである。もらった物がどういうものであれ、侑士にとっては大切な友人からもらったパーカーなのだ。謙也は自分の失言を反省し、侑士に詫びた。
     それからは侑士とともに跡部へのお返しを考えたが気の利いたアイディアは浮かばず、「明日、他のヤツにも相談してみるわ」と話を持ち越し、今日の通話を終えた。

    「なあ、友達にクリスチャン〇ィオールのパーカーをもらったら、お返しに何あげたらええ?」
    「そんなんもろたん!? 一体誰に!!??」
     登校中にばったり会った白石に謙也は相談すると、白石はたいそう驚いたリアクションを見せた。しかも白石は謙也がパーカーをもらったものだと勘違いしている。ひとまず誤解を解き、経緯を説明した。
    「なるほど。つまり、跡部クンへのお返しを考えればええんやな」
    「せやねん。どないしたらええ思う?」
    「うーん……もらい物の値段なんか気にせんと、跡部クンが喜びそうなものをあげるんがええんちゃう? お返しって気持ちやから」
    「でも跡部やで? クリスチャン〇ィオールのパーカーを買うようなヤツが喜ぶものって金かけんとないんちゃう?」
    「俺やったらカブリエル愛用のプロテインゼリーあげるけどな。『これでカブリエル強くなったで。また対戦よろしくな』って」
     それから白石は夏に繰り広げたカブトムシの大会で跡部と競った一戦の思い出を語りだしたため、謙也は遠い目をしながらもおとなしく耳を傾けるしかなかった。

    「白石が言うにはな、金かけんでも跡部が喜びそうなものがええんちゃうかって。どう? なんかある?」
    『……1個だけ候補ある』
    「ホンマに?! 何なに?」
    『ヒート〇ック』
     謙也は絶句した。クリスチャン〇ィオールからヒート〇ックとは。高低差がありすぎて耳がキーンとした。
    『前に跡部とUNIQL〇行ったときな、』
    「ちょい待ち。跡部って……UNIQL〇行くん!?」
     衝撃だった。ハイブランドの展示会に行くような金持ちがファストファッションブランドに一体何を求めて行くのか想像がつかなかった。
    『俺がUNIQL〇にインナー買いに行かなあかん言うたら、興味あるっぽくて一緒に行ってん。俺と行ったときが初めてやったらしいけど。
     俺はエア〇ズム買ってんな。暑い時季やったから。そしたら跡部が興味津々にエア〇ズム見とったから「それ着ると涼しいで」って勧めたら1枚買って。で、試したらえらく感動したらしくて早速他の商品も買ったって次の日話しとったわ。
     ほんでその時「冬になったらあったかいのも出るで」って教えたら「出たら教えろ」言うとったから。せっかくやしプレゼントしてみよかな思うんやけど、〇ィオールとつり合いとれへんような気がして迷っててんな……』
    「もうごちゃごちゃ考えんと、ヒート〇ックでええ思うで」
     のんびりとした侑士の話を聞き、意外と跡部も庶民的な嗜好があることに驚きつつ、それならもうUNIQL〇でいいではないかとなんだかもう真剣に考えることが面倒くさくなっていた。答えは案外近くにあった。というか最初から答えは侑士の中にあったのではないかと思わないでもない。
     しかしヒート〇ックの何の商品にするか決めていないというので、今度謙也が東京へ遊びに行った際に一緒に選ぼう、という話になった。
    「デートやな」
     謙也が茶化してそう表現すると、スマホの向こうで侑士の『……せやな』という小さな声が聞こえた。照れている時の声だ。笑いそうになるのをこらえて「おやすみ」と返し、今日の通話を終えた。

     
     侑士の部屋に上がり、早速例のパーカーを見せてもらった。胸に「CHRISTIAN DI〇R」の刺繍が施されている。
    「めっちゃ触り心地ええやん……! もう着た?」
    「もったいなくて着てへん」
    「俺着てもええ? 試着するだけやから」
    「ええで」
     侑士に許可をもらい、袖を通す。これが高級ブランドの着心地なのか、肌触りがよく体に馴染んだ。そしてこれも高級ブランドのマジックだろうか、身に纏うと謙也は自分の人としてのランクが上がったような気になり、気持ちが高揚していた。以前買い物に行った際「謙也さんて、5900円のジャケット着ても1900円に見えますね」などとディスってきた財前に自慢してやろうと、侑士に何枚か写真を撮ってもらってから、元の服に着替えた。
    「そういえば俺が送ったシャツ着とる?」 
     不意に思い出し尋ねると、侑士は「……着とるで」と多少の間を置いて答えた。
     跡部に対抗するわけではないけれど、服のプレゼントを先に越されたことは男として悔しい。いや、跡部は侑士に友人としてプレゼントしただけ、とわかってはいるのだが。
     そこで謙也も侑士に似合いそうな服を自身のファッションセンスをもとに選び、侑士にプレゼントした。本当は今日会った時に直接渡そうと思っていたが、侑士の反応が待ちきれず、郵送した。気に入って今日着て来てくれるかもしれない、とワクワクしていたが、駅まで迎えに来てくれた侑士を見ると、送ったシャツを身につけておらず、謙也は一瞬ショックを受けた。
     シャツのことは何も話に出ないままUNIQL〇へ行き、跡部へのお返しを何の商品にするか黒色か白色かでさんざん迷う侑士に苛立ちを露わにしないよう笑顔で付き合い、以前跡部と一緒に食べたという立ち食いそば屋で昼食をとり、侑士の家に来たわけだが、今の今まで「プレゼント」「シャツ」は一言も出てこなかった。
    「侑士に似合う思うて買ったんやで」
     もしかしたらこのパーカーのようにもったいなくて着られないのかもしれない。せっかくプレゼントしたのだからいっぱい着て出かけて欲しいのであるが、着る時を選んで大切にしているのだろう。そんな侑士の心中を慮り、かわええな、と謙也はひとり胸を温かくした。あくまで謙也の妄想であるが。
     すると、コンコンと部屋の扉がノックされ返事をしないうちに侑士の姉が入ってきた。手に何か衣服をたずさえている。
    「侑ちゃんの部屋着がなぜか私の洗濯物に混ざってたで。はい、これ」
     手に持っていたカラフルなシャツを侑士に渡すと、侑士の姉は颯爽と部屋を出て行った。

    『部屋着』と呼んで侑士の姉が手渡したシャツは、謙也が侑士にプレゼントしたシャツだった。
     
     侑士が心を閉ざしたような表情をしている。謙也の高揚していた気分も急速にしぼんできた。

    「……それ、俺が送ったシャツやんな」
    「……」
    「部屋着、として着てくれてるんやな。……おしゃれ着、として送ったんやけど」
     シャツはけっこう着てくれているのか、シワが寄ってよれよれだった。まるで今の謙也の心のようだった。
     1本の糸がシャツから不自然に伸びている。裏地の糸だろうか、ほつれて長く飛び出ていた。先ほどはしゃぎ話題にしていたパーカーと比べると謙也の送ったシャツは一段みすぼらしく見えた。
    「……そりゃあ高級パーカーと比べたら、俺が送った安物のシャツなんか部屋着で十分やんな」
     ぞんざいな気分になってしまい投げやりにものを言うと、侑士が謙也に反抗するような視線を向け、一息に口にした。
    「こんな派手でダサい虹色のシャツ、どこに着て行くっちゅうねん」
     侑士の低い呟き声は、喧嘩を売ってる時の合図だ。
     よれていた謙也の心にカチリと火がついた。
    「ダサいやと!? スタイリッシュでカッコええやろがぁ!!」
     謙也の咆哮に侑士がすぐさま噛みつく。
    「どこがスタイリッシュでカッコええねん」
     完全に馬鹿にしたような侑士の言い方に、謙也の怒りのボルテージは急上昇していった。
    「カッコええやろ?! セール価格やったけど値段もそれなりにしたんやで!?」
    「はあ? ここ見てみ? 糸ほつれとるやろ? 洗濯するたびにどんどん出てくんねん! なんやこの安物!!」
    「知らんわ!! 糸なんかハサミで切れえ!!!」
     プレゼントシャツ部屋着問題を発端にした口論は話の焦点がずれながらもどんどんヒートアップし、お互いとるに足らない小さなことをネタにしては罵り合った。怒りに怒った謙也は
    「もうお前なんか知らん!! 出てったるわ!」
     部屋に侑士を置いて外に出た。
     
     怒りのままに歩いていたが、なにぶん慣れていない土地なので、歩みを進めるにつれ道がわからなくなっていった。現在地を調べようにも勢いで出て来てしまったためスマホも何も持っていない。元来た道を引き返そうかと思ったが、それは侑士に負けたような気がして嫌だった。
     不貞腐れたように歩いていると
    「あれ? 謙也じゃん」
     侑士の親友である向日岳人が目の前にいた。
     
     スーパーに寄った帰りだという向日に謙也は侑士と喧嘩して家を飛び出した出来事を話すと、向日はけらけらと笑っていた。笑いすぎて涙を浮かべているほどだった。謙也にはどこに笑う要素があるのか不明だったが、第三者に話を聞いてもらったことで怒りの気持ちは少し和らいだ。
     道がわからなくなってしまったため向日に道案内をお願いしようかと思ったが、家に戻って侑士と顔を合わせる気にはまだなれず、向日の家に立ち寄ることにした。
     向日の家が営んでいる電器屋に入り、新作の家電やゲームを見せてもらったあと、部屋に上がり対戦ゲームがあったので遊んだ。白熱したバトルへ夢中になっていると、窓の外は夕暮れが近づいていた。
    「もう夕方だけどいいのか? そろそろ帰んねえと侑士も心配するんじゃね?」
    「せやなあ……あいつさびしがり屋やからな」
     向日と話し遊んで気分転換ができたからか、謙也の中で侑士への怒りの気持ちは静まってきていた。といっても、プレゼントしたシャツを部屋着にされていたショックは癒えたわけではないのだが。
     向日が何も言い出さないのでどうしたのかと本人を見ると、驚いたような、初めて見るものに出会ったような、不思議な表情を浮かべていた。
    「どないしたん?」
    「侑士ってさびしがり屋なのか? 初めて知った」
    「え、いや、だってそう思わん?! しかも甘えたやし」
     侑士と親交の深い向日に同意を求めたが、向日は意外だという顔をするばかりだった。
    「へえー。やっぱり彼氏の言うことはちがうな」
    「やめろやその言い方。めっちゃ恥ずいねんけど」
     たしかに彼氏ではあるが、口にされると照れくさい。面映ゆい気持ちに変な汗をかき、体をかきむしりたくなった。
    「つうかそれ、謙也の前でだけじゃね?」 
     向日の言葉にはっとすると、ピンポーンとチャイムが鳴った。向日が「ちょっと見てくる」と部屋を出ていく。やっと来たか、という呟きが聞こえたような気がしたが、謙也は向日の放った『謙也の前でだけ』という言葉の方に気を取られていた。
     俺の前でだけなんかな……。
     じんわりとした優越感に浸っていると、向日に名前を呼ばれ、玄関へ降りた。すると、そこには侑士が立っていた。
    「え、侑士」
    「なに岳人ん家でのんびりしとるねん」
     向日がニコニコと謙也に振り向く。いつのまに侑士へ連絡していたのか。
     そして侑士のある変化に謙也は目をみはった。
    「あ! 侑士、そのシャツ……!」
     なんと侑士は謙也がプレゼントしたシャツを着ていた。ほつれていた糸もハサミで切ったのか見当たらない。胸に温かい気持ちが込み上げてくる。
    「まあ、よく見たら外に着て行けへんこともない思うてな」
    「いいじゃん。侑士そういうインパクトのあるカラー、似合うぜ」
    「せやろ!? やっぱ俺の目に狂いはなかってんな」
     誇らしい気持ちで胸を張っていると、侑士はフッと呆れたように笑っていたが気にならなかった。
    「謙也が世話になったわ。おおきにな岳人」
    「気にすんなって。あ、侑士って謙也の前だとさびしがり屋で甘えたなんだってな。さっき謙也が言ってた。ほら、早く2人で帰れよ!」
     向日家を出た直後、謙也も侑士も顔が真っ赤だった。赤く染まった顔をお互いからかいあったが、どちらも「夕日が当たっているから」と言い張った。その時2人が歩いていたのは、夕日が差し込んでいない日陰の道だった。

     ベッドに寝そべり財前から届いたメッセージに顔をしかめていると、隣で寝ている侑士が画面を覗き込んできた。
    「『謙也さんが着ると DI〇Rもニセモノに見えますね』……フッ」
    「ホンマにこいつは生意気やで」
     財前に『悔しかったらお前も着れるようになってみ!』と返信しトークを続けていると侑士が謙也の肩にグリグリと額を押し当ててきた。「かまえ」のサインである。
    「侑士もうちょい待って。こいつ倒すから」
    「『倒す』て。ゲームかいな」
     謙也は財前とのトークを『俺リア充やから〜』の一言マウントで終わらし、スマホを枕元に置いた。侑士が謙也の体へ巻きつくようにぎゅっと抱きついてくる。
    「締まるしまる! はなせえ!」
     謙也の抵抗に動じず、侑士は「んー」とおもしろがっている時の声音で生返事をし、さらにきつく謙也に抱きついてきた。顔を見なくともニマニマしているのがわかる。こうやって困らすように戯れてくるのが侑士の甘え方だった。
     なるほど。たしかにこんな侑士の姿は彼氏である自分しか知らないだろう。謙也は遠慮なく甘えてくる侑士を抱きとめる。が、そろそろ息苦しかった。
    「ええ加減にせんと、ちゅーすんで」
     謙也がいたずらめいてそう言うと、侑士は腕の力を緩めた。
    「ん、」
     謙也の前に顔を出し、眠ったように目をつむる。キスを待っている時の顔だった。
     素直な侑士の行動に内心、かわええな、とときめきながら、謙也はその唇へキスを落としたのだった。
     
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