夕焼けサンセット!「バンドやろうぜ!」
文化祭を目掛けてバンドを組んだ俺たちの活動は、しいたけが言い放ったこの一言で始まった。こいつはいつも唐突だ。
「は?メンバーは?」
このフワフワした言い出しっぺに誰が着いてくるのだろう。半ば呆れつつ、聞くだけ聞いてみる。
「ギターは音感のよさそうなよねぞうがいい!こてっちゃんはボーカルな」
困惑する俺を他所に、『俺たちの文化祭』と表紙に書かれたノートに勝手に書いていく。名前を呼ばれたと理解したらしいよねぞうは俺たちが座っている席に近づき、しいたけの丸文字が並ぶノートの中身を覗き込んだ。
「バンドやんの!?」
「そうだよ!よねぞうはギターな」
「あれか!派手にかき鳴らす系の!」
「そうそう、いつもやってるじゃん」
「でもアレは鳴らないだろ?鳴らす方、できるかなぁ」
「ギター始めるとモテるらしいぜ」
「やります」
箒をギター、モップの柄をスタンドマイクに見立てて掃除の時間によくエアバンドをやってる2人が、リアルな楽器演奏などできるのだろうか。ドラムはしいたけ、ギターはよねぞう、何故か俺がボーカルに組み込まれた謎バンドは、残すところキーボードとベースのメンバーが空いている。
「校内掲示板で募集するか?」
「ならボーカルも違う人に…」
「「それはダメ」」
「えぇ~…」
「ここまで聞かれたらなめこも道連れに決まってるじゃん」
「そうそう!よね天才だな」
拒否権はないらしい…なんてこった。
でもまぁ、練習すれば何とか…なるとは思う…赤点ギリギリの内申点をどうにか上げる必要があり、評価がプラスされるならと俺はバンドに加わる決意をした。成功する確証はないし、上手くなれるかどうかもまた別の話だ。
それでも、なんとなく…青春、というものを謳歌してもいいのではないだろうかと思ってしまった。
「確か一年にベースできる奴いたじゃん!ほら、軽音部の勧誘を断ったやつ」
よねの言葉に今年の新入生を勧誘するための部活オリエーテーションを思い出す。三年の先輩から「楽器経験があるものは?」と問われ、真っ先に挙手したのが彼だった。一年生がずらりと並ぶ目の前で、彼は華麗なベースの指さばきを披露していた。しかし軽音部は「性にあわないから」という理由できっぱり断っていて、凄い一年が入学したもんだと当時話題になっていたのだ。
「…ああ…あいつ、同じ中学の後輩だよ。確かに中学ん時は吹奏楽やってたしなぁ」
「えっしいたけの知り合い?」
「知り合いって程じゃないけど、知らない相手ではないかなぁ」
どんな一年生なんだ。今から既に会うのが恐いような、楽しみなような…。
「よしっ!明日そいつのクラスに突撃しに行こう!」
「ならしいたけが一人で行けよな、おまえリーダーなんだし」
「リーダーはボーカルって相場が決まってんだろ」
「そうそう!」
よねも一緒に頷いている。もしや何も考えてないのでは…いや、そんな筈はない。彼は時々驚くような感性を発揮する。特に体育の授業では。
「…なら3人で行こう。これはリーダー命令だ」
「「えぇ~」」
…こうして前途多難なバンド活動が始まった。それでも、密かな楽しみになりつつあるのはまだ内緒だ。