夕焼けサンセット! 第2話 放課後、1年生の教室前。ざわめく後輩たちを掻き分け、目当てにしていた彼の近くに歩み寄る。それも2年生の3人で。
「なぁ、その…いきなりなんだけどバンドやらねぇ?」
怪訝な顔をしてこちらを見てくる。なるほど美人というのは確かに言えて…じゃなくて。
「ベースがめちゃくちゃ上手いってしいた…椎屋から聞いてたんだ。どうかな」
よねぞうがとてもカッコよく勧誘している。通りすがりの後輩女子がキャーキャー言っているのが聞こえた。…かわいいとかなんとか…。
「たけるさん?」
オレとよねぞう、ちらりとしいたけを見る彼は、何か思いついたのか思い出したのか()口元に笑みを浮かべて
「いいよ」
と一つ返事で頷いた。
え?
「ほっ、ほんとに良いのか?」
「たけるさんとは中学の頃にちょっとね。それに面白そうだし」
とても爽やかな声で言う彼の横で、勝ち誇ったようなしいたけの笑顔を思い切り張り倒したくなる。しいたけが後輩の頭を撫でている様子に、本当に顔見知りなんだとようやく納得できた。
「よし、決まりだ!ついでに言っておくけど、俺とつゆ以外音楽経験ほぼないんだ」
「うん。何となくそんな気がした」
ぱっと見で音楽歴もわかるなんて、なんて後輩だ…。よねぞうも一緒に驚いていた。
「ギターやるとモテるってほんと?」
「がんばればね」
おまえの重要課題はそこか!
「よしっ!練習はじめるぞ!俺はよねぞう!こっちはなめこ!あとしいたけな!」
「おう!すげぇみんな食べ物っぽい!!」
すごく簡略化された紹介をして、気合を入れるよねぞうとしいたけ。外見を見れば、この二人は確かにそれなりにルックスがいい。俺は平凡担当だ。そして綺麗系な1年生、名前は…
「…水無月津由です。よろしく」
「よし!つゆちゃん、よろしくな!」
「バンド名は…きのこ雑炊?」
「「却下!」」
しいたけのネーミングセンスに全員で却下を下し、やいのやいのと賑やかに喋る先輩(俺たち)の後を追い、つゆがついて来るのがわかる。すごい大人っぽいけれど、俺たちに付き合ってくれるなんて良い奴なんだ。あっという間にメンバーは4人になって、これから本格的に練習が始まるのだろう。楽器を準備して、練習場所確保して…
…はたして秋の文化祭に間に合うのだろうか?
「早速バンド名決めようぜ!!」
「それ今言う~?」
「確かにバンドの名前は重要ですね」
ふと視界に入った廊下の窓から差し込む夕陽のオレンジが、やけに眩しく感じてオレは咄嗟に目を瞑る。
「もうこんな時間か…綺麗だな、夕焼け」
「そういや夕焼けとか夕暮れって何て言うんだっけ…えっと、サンセット!」
「お…」
「夕焼けサンセット…」
「いいじゃん!なんか響きカッコイイし!!」
サンセットも夕焼けって意味じゃ、と言い掛けたけれど…【夕焼けサンセット】悪くない。
オレららしいと言うか…その日見た夕焼けがあまりにも綺麗で、みんなで見蕩れていたから。
「よぉし!あとはキーボード担当だな!」
その一言が出てくるまでは。