【北組】素麺と鯵の南蛮漬け思った以上に夏は、夜になっても寝苦しいくらい暑い。日中雨が降っても湿気の多い日本の夏は夜まで暑く感じる。西日がよく差し込む台所に居たのは治だ。
治は料理が好きだ。料理人のように料理ができる訳ではないが、北組の中では台所の責任者である。衛生法を気にすることなく、好きな料理が出来るのは自由で楽しいのだ。いうなれば自由業の人間が極める自由が、料理なのだ。
毎日料理をしている訳では無くても、この時間は直接的に北にも侑にも関われる時間だ。自分が好きな人は侑、そしてその侑は北が好き。好きという高校生同士の恋愛のようなモノではなく、魔獣を飼い殺しているような気持ちだ。治としては出来損ないの哀玩具が感情を持ってしまって魔獣になっているだけ、と理解している。そのため防波堤として料理があるのだと思っている。料理にはたくさん手順があり、没頭しやすい。アレをあ~してこ~して、とアレコレ考えている間に時間は過ぎてモノは完成する。そして完成したモノでみんなハッピー。怠惰を極めた料理で満足感を覚えるくらい、自分は駄目な人間になってしまったんだ、と諦めるのだ。
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