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    seki_shinya2ji

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    いつかに書いた人魚パロの1つの未来
    テーマ:花筏

    【治角名】赤いピンヒールは、そこで買おう夢と分かる夢を明晰夢と言うのは有名な話だ。
    治は滅多に夢を見ない。夢を見る体力を日中で使い果たしていることが多いためだ。特に今の時期は、スポーツ推薦で入学が決まっているバレーボーラーの卵たちが入学前にも関わらず練習に参加する。治や上のベッドで大いびきを掻いているその人も同じであった。当然角名や銀島もいた。先日卒業した先輩方がしてくれたように、最高学年になった治たちがその後輩の世話を、毎日している。主将となって自分のことで手一杯だからあまり気を使えない片割れに代わるように後輩のメンタルは治と角名が気にかける。新体制での連携も、一気に固めていかないとあっという間にインターハイは始まる。ゴールデンウィークの合宿で何人抜けるかにもよるが、駒はやはり選び抜かれた方がいい。なるべく今の段階でその芽を摘まないように大切にしていきたい、と言うのが治の考えだ。主将が何と思っているのかは言わずもがなだが、今年でバレーを辞めてしまう治の「ここでバレーのことを嫌いにならんといてほしい」というお節介が含まれていることを、承知してほしい。もちろん治も春休み練習に精を出してレギュラーであり続けられるようにしている。愛も変わらずハードもハードで、春なのにTシャツは2枚必要だ。
    そんなことをしていたら体力なんてあっという間に底を尽きる。ご飯を食べても埋められない体力の欠損は睡眠で補強していく。そうなると必然的に夢なんて見ない。
    しかし今夜は久しぶりに夢を見た。

    真っ黒な水面に、大量の桜の花びらが浮いている。治はその水面に浮かぶ箱舟に1人乗せられていた。真っ暗、と言うわけではないが、ただただ水面とその上に浮いている桜の花びらに呆然としてしまった。箱舟から身を少し乗り出して、その水に触れてみると、自らの手が水面に透けて見えた。どうやら果てしなく下にある底が暗いだけで、水は透明らしい。どれくらい深いのかすら見当もつかないほど深そうだ。治は腹の底が冷えてきたので、水面を覗くことをやめた。
    顔を上げると、男が乗船していた。
    驚いた治は肩を大きく揺らして箱舟を揺らせた。パチャン、波打つと桜の花びらが合わせて揺らめいた。
    「やあ、治くん」
    見たことのない顔だ。先生でも実家の近所でも、こんな男の人は見たことがない。年齢は60後半だろうか。白い髪に、広い肩幅は治が憧れたバレーボーラーのような大きさであった。治は目を丸くして固まってしまったため返事ができなかった。
    「私の名前は_____という」
    名前を聞いたのだが、なぜかうまく理解できなかった。それもあって脳内処理が追いつかない治はまた返事ができなくなった。
    「君に、頼みたいことがある」
    笑っているため見えなかった瞳が初めて見えた。その目は真っ青で、海のような色をしていた。吸い込まれるような瞳に導かれるように治は首を縦に振った。
    「ぜひ、リンタロウに、この花とやらを見せてやってくれ」
    お腹の中を掴まれた気がした。声がそうさせたのか、それともその言葉にそういう力があるのか。脳内が痺れるような感覚に襲われた途端、冷や汗と動悸がした。リンタロウ。リンタロウ。何度も頭をよぎるその名前に、治は吐き気がした。しかし男はそんな治の体調に気付けるはずもなく、また口を開いた。
    「あと、赤い、あれは何だったか……尖った……まぁ思い出してくれると信じて。それを是非、あの足に」
    パキン。音がした。水が凍っているのかと思うような、硬い音がした。鉄琴のようなその音は、パキン、パキ、ピンと音を次々と立てている。「ああもう時間か」そう言った男は箱舟を揺らした。治の目はもうすでにうねり回って歪んでいる。頭痛のピークと吐き気のピークが重なった時、吐瀉物を吐かないために口を手で覆い下を向いた。
    そこにあるのは、真っ青は魚だった。
    桜の花はピンク色。それに反するほどに真っ青な魚の鱗があった。
    「、グェ」
    えずきに耐えられなくなり呻いたが何も出てこない。ここで「そういえば夢だった」と頭の片隅が叫んでいる。その鱗は治が目を回しているからか、それとも生きているからなのか。動いていた。
    「もう会うことはないだろう。元気で、くれぐれもリンタロウをよろしく」
    リンタロウの「リン」が先ほど聞いた鱗が乾いて剥がれる音とリンクする。頭の中に木霊するその音と合わさるように、派手な水音がした。水面には大きな波紋ができて、透明な水の向こうには、青い尾鰭と真っ青な瞳が治のことを見ていた。




    治はその日の朝方3時頃に、上で寝ていた侑に叩き起こされた。侑がいうには何やら呻いたらしい。苦しそうで何度もハイ、はい、と頷いてそして泣いていたらしい。その声に起きた侑は只事ではないのでは、と心配して叩いて起こしたという。しかし体調には何も問題なく、すぐに眠気がやってきたので、そのまま眠りについた。
    それもそのはず、次に目が覚めた日は部活が休み。角名と買い物をする約束をしていた。途中で大あくびをする無礼さは治は持ち併せていない。楽しみではあるため寝れない気がしたがすぐに眠気に手を引かれた。

    明日行くのは桜が綺麗に咲いている、ショッピングモールだ。



    #【花筏】
    散った桜の花びらが水面に浮き、それらが連なって流れていく様子のこと。
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