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    seki_shinya2ji

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    おっぱい計画の侑北♀。
    カップルになる前の2人。

    強風が紺色と肌色を攫う風の強い一日だった。部活で行うロードワークの外周の時に先頭で走るのがかなりつらいくらいの横殴りな風だった。北は先頭ですみれの横を走っていたが、北が一番声を出さないといけないためにさらに辛いところがあった。肩で息をしてしまうが、歩いて息を整えた方が次のモーションに繋がりやすいのは知っている。汗で体が冷えるのを避けるために早々にジャージを羽織って「次!」と声を上げた。女子の甲高い声で返事があったのを確認して、先に1人体育館に入っていった。準備はまだまだある。一年がしなければならない、という強迫観念があまり好きではない。できない時だってあるのだから強制するものではなく、できる人間がやるものなのだ。北の場合は慣れというものはあるが。
    そこで感じた違和感。歩きだした時から感じていたその違和感。最近少し体重が増えたことも関係しているのかもしれない、と内心ため息が出た。体重の変化は月によって冬の時期というのは燃費が悪くなるものだ。その名残だ。
    気になってしまうと仕方がない。しかし人目が多い。グラウンドには野球部とソフトボール部、外周帰りのバスケットボール部も道場外にいる弓道部もいる。仕方ない、少し部室に戻ってそこで、と思った。
    「スマン、ちょっと部室に寄る」
    「どないしたん」
    ジャージを探しているすみれが北のことを見るために顔を上げた。今日も鬼らしく「外れるような体力無しはウチには要らんで!!」と声をかけてやりながら北の隣で走っていた。鬼だ。
    「なんでもない。ちょっと、うん。すぐ戻る」
    「なん。体調悪いん?」
    別に体調が悪い訳ではない。北の場合体調が悪ければ外周すらしない。とっとと帰っている。しかしどうにも言いにくい。言いにくいのだ。つい言葉を濁してしまい、失敗したと思った。
    「ぁ、っとな。その……」
    確かに言いにくいことだ。まだ初夜すら済んでいない18歳だ。無理もない。片思いの男がいるような可愛い女の子では言いにくいことだった。
    「下着がな……」
    もそ、と言った言葉にすみれは思考停止した。そしてキュルルルルと回り出した思考回路が焼き切れそうになるほどに恥ずかしくなってしまった。目の前にも頬を赤くした北と、デリカシーのないことを言わせてしまって自らも恥ずかしくなったすみれ。
    「ぉ、あ、おん!!行っといで!!!!」
    「声でかい」
    あり得ないほどに大きな声が出た。北の言う通りだ。しかしその言葉にホッとして北は小走りで部室に急いだ。揺れる胸は今は控えめだ。というかブラジャーが合っているのだろう。吸いつくように守ってくれているソレによって支えてもらっているように感じる。しかし今の問題はそこではない。
    (食い込む……)
    そう、そういうことだ。北のためにオブラートに包むと、食い込んでいるのだ。最近食べ過ぎた、というか寒さが身に染みてついつい悪い燃費を言い訳に少し多めに食べていた。それが下半身に来ている。そのせいで、下着がずれやすくなっている。
    部室に滑り込むようにして扉裏でサッと直す。しかしこの後練習に参加すれば絶対またずれる。それを思うと気持ちはさらに憂鬱に傾いていく。
    「やっぱな!?大は小を兼ねんねん!」
    聞き間違うはずのない声が聞こえる。それもかなり大きな声だ。言葉の頭から端までしっかり聞き取れてしまった。この言葉の後は走って離れた為か聞き取れなかった。しかし北の心にはしっかり聞こえてしまった。「大は小を兼ねる」と。恋とは面倒で、何でも都合よく聞こえるし何でも都合悪く聞こえてしまう。邪な思いを部活に引きづりたくないと頭を振って北は部室のカギ閉めを行って離れた。


    ✿✿✿


    「北さん!お疲れ様です!」
    最近よく待ち伏せされている。すみれと帰る日は来ないが、すみれがコーチと全日本のコーチの三人で居残り練習をする時に違う人間と帰るようになった。4月後半の夕方はまだ明るいためその髪が偉く眩しく見れる。
    「待たんでも、うちは一人で帰れるで」
    「あきません!これでもすみれさんから任せられてるんで」
    本当かどうかは知らない。この2人の不仲は学校の外、ユースのメンバーの中でも有名な話だろう。しかしどこかくすぐったい気持ちになるのだから、この恩恵をまだ味わっていたい。初恋は何味?と聞かれると北はレモン味と答えられない。スポドリの味だ。
    「今日風強いっすね~」
    スポドリはさっきまで飲んでいた。その余韻が未だに口の中に残っている。さっきまで搔いていた汗は一応拭いているが風によってさらに乾いていく。風が強いのは当たり前だ。風上に大きな壁が立っているのだから。ふわりと香る匂いは石鹸の匂いだった。
    「うぉ」
    「ッ」
    不意に風が吹いた。しかし髪を抑えたい思いを忘れるかのように、違う意識が沸き上がった。風が吹いた時には勘が働いていた。例えるなら、このボールを落としたらまずい、これはまずい。といった勘に似ていた。
    皺を伸ばすように巻き上げられた裾。靡いた裾から現れた太ももにぬる暖かい風が撫でていった。もう、まずいがほとんど反射で暴れた裾を抑え込んだ。しかしこれは果たして。間に合っているのか。間に合ったのか?間に合っててほしい。今日は食い込んでいることが気になることから始まっていたのに、もう羞恥で踏んだり蹴ったりだ。
    ジト目で隣を見てしまった。あとから「可愛げがなかったかも」と自責してしまったが、その時は「見てないよな?」という混乱じみた思いでいっぱいだ。
    「……大丈夫ですか北さん?」
    紺の下着なんて、侑は見ていない。


    #貝寄風
    太陰暦2月20日ごろに吹くかなり強い西の風。
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