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    rurisakagtn121

    kmt作業進捗とか。ぎゆたんor煉獄さん。

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    rurisakagtn121

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    大正軸つきまとい四日間後の義炭。「葬りて春」の前日譚。煉獄さんの話をちょっとだけする。ぎゆたんは付き合ってなくてもロマンスなんだよぉ!!!

    知りたいの理由を 何故あの時、竈門家の者達を救えなかったのが俺だったのだろう。たまたま管轄区域に戻る途中だったからだとか、何かと理由をこじつける事は出来るが、この期に及んで己が無力を思い知らされるのは、あまり良い気分ではない。
     俺は無力だった。数えるのも嫌になるほど鬼どもを狩ってきたが、手のひらから取り零してきた命もまた多く、数えきれない。俺の剣に誰かを救う力はないのだと、いつからか気づいてしまった。
     竈門炭治郎とその妹、禰豆子を生かしておいた事も、彼らを救ってやったなどとは思えなかった。かつて炭治郎の処分について柱合会議が開かれた折、俺は炎柱の煉獄杏寿郎にこう声をかけられた。
    「君は随分、情け深いたちなのだな」
     俺は黙っていた。炭治郎を鬼殺の道へ誘導したのは、謂わば流れる血を増やしただけだ。情け深い人間のする事ではない。
    「俺と君では、見えているものが違うのだろう。きっと、導き出す答えも違うのだ」
    「全ての鬼を滅する。答えなど、それ以外に持ちようがない」
     ぼそりと答えた俺に、煉獄はそれもそうだ、と笑った。そんな煉獄も死んだ。俺は煉獄の導き出した答えとやらを聞きそびれたのだった。
     鬼殺隊の者は、それぞれの事情を抱え、それぞれの志で戦っている。同じものを見たところで、胸に湧き起こる感情はまるで違っていた。俺は柱でさえない半端者だ。立派な、気持ちの良い男であった煉獄の心など窺い知れない。
     どんな半端者にもやるべき事がある。そう思い至って振り返れば、揶揄かと疑った煉獄の言葉も、別の響きを持って思い起こされた。
    「若い芽は摘ませないと、以前、煉獄さんはそう言っていたんです」
     四日目の夜、俺はまだ炭治郎と共に居た。もうじき足の包帯も取れ、柱稽古に向かうのだという。俺が命懸けの荊道へと誘った少年は、しぶとく、しなやかに生き残ってきた。
    「そうだろうな」
     俺は相槌を打つ。管轄区域の見廻りへ行く前に、炭治郎は茶を淹れてくれた。朝までには蝶屋敷へ戻るらしい。こうしてゆっくり話が出来るのも、恐らく今夜が最後だ。
    「柱であれば誰であれそうする、と。俺にはあの時、俺自身にそれほどの価値があるのか分かりませんでした。今でもまだ、半信半疑です」
     縁側の隣で爪先を揺らしていた炭治郎は、くりくりと円らな目をこちらに向けた。
    「でも、不思議なんです。義勇さんはどうして、土の中で眠る種でもない俺を助けてくれたんでしょう。義勇さんには、俺と禰豆子がこうなる事、分かっていたんですか」
     まさか、と言いかけて、口を噤んだまま熟考する。確かに炭治郎と禰豆子は鬼殺隊の悲願を引き寄せる存在だった。しかしそうでなくとも、俺は禰豆子を殺せなかったような気がする。
     打算でないのなら、情けだったのだろうか。はたまた、別の何かか。考えてみても、適切な言葉は思いつかない。
    「分からなかったよ」
     俺は炭治郎と視線を絡め合わせたまま、答えた。
    「俺に、お館様のような先見の明はない」
    「じゃあ、どうして……」
    「過ぎた事を、どうしてそう気にする」
     炭治郎はぐっと唇を噛む。稚い顔は、そういう表情をすると、いつにもまして子供じみて見えた。
    「救われたと、そう思ったからです」
     高い夜空に抜けていきそうな、澄んだ声だった。
    「勘違いだ」
    「そうだとしても。俺が今此処にあるのは、義勇さんと出会ったからです。あの雪の日に出会った時だけじゃなく、命を賭して俺と妹を信じてくれました。俺は、貴方の事を知りたいんです」
     俺は炭治郎が思うような人間ではない。救いなんて大仰なものは、与えたくても持ち合わせていないのだ。俺が目を細めて炭治郎を見下ろしていると、仄かに赤みがかった瞳が濡れて光った。なんて事のない朧月夜にも、よく輝く目だった。
    「茶が冷めた」
     俺は手のひらの中でぬるくなった湯呑みを持ち上げ、ひと息に茶を飲み干す。炭治郎がぽかんとした顔をした。
    「お前の話を聞いていると、どうも時が経つのが早い」
     湯呑みを置いて、俺は庭に立つ。炭治郎はへんてこな顔をしていた。拗ねているようで、何処か俺を甘やかすような、優しい顔だ。
    「義勇さん、今じゃなくていいんです。いつか……教えてください。貴方の心を」
     俺は傍に置いていた刀を腰に差す。いつしか自分自身の心の在り処さえ見えなくなっていたのに、なんだか今宵は、妙に視界が明るい。月とはこんなに眩しいものだっただろうか。
    「そうだな」
     いつか、この捉え難い心に触れられる日が来るのだろうか。その時には、炭治郎と陽の下に立ちたいと思った。炭治郎が満足そうに笑う。叶うかも分からない約束を拳の中に仕舞うようにして、俺は鎹鴉の呼ぶ方へ立ち去った。


    つづくよ
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    rurisakagtn121

    MAIKING大正軸無限柱稽古時空っぽい感じの付き合ってる義炭。冨岡さんの語り。
    炭治郎くんが冨岡さんに近づくモブに嫉妬している話ですが今のところのオチはそういう話ではないです。
    蕾は胎動せし 守るべきものを、悉く失ってきた。俺に残されたものがあるとすれば、この命だけなのだ。鬼狩りという仕事柄、それさえもいつ失われるか分からなかった。今の俺には、何も無いのと同じだ。生まれてきた意味も、生きていく理由も、もう分からない。
     そんな風に、全てを諦めかけた時だ。まるで悪足掻きのように拾い上げたのが、竈門炭治郎という少年である。炭治郎は、屈託のない優しさでもって俺の懐に潜り込んだ。今や、己が命よりも大切なただひとりの相手だった。俺からどんな思いで見られているかも知らずに、俺の隣で笑っている。因果なものだ。俺はまた、失いたくないものを抱えるようになった。
     俺にとって、他人を心から愛しいと思うのは、ある意味で合理性に欠けた現象だった。余所事に関心はない。そもそも人付き合いの希薄な身で、好いた惚れたの話を耳にする機会も少なかった。このまま死んでいく他ない、つまらない男を誑かしたのは、後にも先にも炭治郎だけだ。
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