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    rurisakagtn121

    kmt作業進捗とか。ぎゆたんor煉獄さん。

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    rurisakagtn121

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    大正軸無限柱稽古時空っぽい感じの付き合ってる義炭。冨岡さんの語り。
    炭治郎くんが冨岡さんに近づくモブに嫉妬している話ですが今のところのオチはそういう話ではないです。

    #義炭
    yiCharcoal

    蕾は胎動せし 守るべきものを、悉く失ってきた。俺に残されたものがあるとすれば、この命だけなのだ。鬼狩りという仕事柄、それさえもいつ失われるか分からなかった。今の俺には、何も無いのと同じだ。生まれてきた意味も、生きていく理由も、もう分からない。
     そんな風に、全てを諦めかけた時だ。まるで悪足掻きのように拾い上げたのが、竈門炭治郎という少年である。炭治郎は、屈託のない優しさでもって俺の懐に潜り込んだ。今や、己が命よりも大切なただひとりの相手だった。俺からどんな思いで見られているかも知らずに、俺の隣で笑っている。因果なものだ。俺はまた、失いたくないものを抱えるようになった。
     俺にとって、他人を心から愛しいと思うのは、ある意味で合理性に欠けた現象だった。余所事に関心はない。そもそも人付き合いの希薄な身で、好いた惚れたの話を耳にする機会も少なかった。このまま死んでいく他ない、つまらない男を誑かしたのは、後にも先にも炭治郎だけだ。
    「どうして、そんな風に思うんですか」
     それほどの存在である炭治郎が、目の前で泣いている。俺は焦っていた。瑞々しく光る両の目から、大粒の涙が滴り落ちる。炭治郎を悲しませたくはない。ただでさえ辛い運命を背負ったこの子には、笑っていてほしかった。
    「泣くな」
    「だって……義勇さんは、全然、分かってない。なんで、どうして……」
     しゃくりを上げて泣くので、炭治郎の言葉も聞き取りづらいものになる。俺は狼狽えるばかりだ。呆然と立ち竦んだまま、上がり框に膝をついている炭治郎を見下ろしていた。
    「俺が、間違ってるのかもしれない、けどっ……貴方がぜんぶ、初めてだから、分からないです。何が、どうするのが、正しいのか……」
    「お前は、勘違いをしている」
     勘違いが原因なのは、確かなのだ。とある藤の家の若い娘が、三日前、俺に会いにきた。平隊士とは違い、柱という要職にある者ならば、と思ったのだろう。跡目争いの末、家から藤の紋を下げる事になったという娘は、過去に鬼と出くわした経験があった。鬼殺隊との関わりが絶たれる事で、身の安全に不安を覚えたらしい。鬼と戦う術を持たぬ者ならば、致し方ない事である。
     その娘が町で声をかけてきた時、俺は炭治郎と歩いていた。炭治郎は気を利かせてか、先に屋敷に戻った。口下手が災いして難儀したが、俺は無事、娘から用件を聞き出す事が出来た。問題は、その後である。お館様に会わせろと無茶を言う娘を宥め透かし、便宜を図るべく動き回っているうちに、外泊を余儀なくされたのだ。本来ならすぐに帰宅する予定であったので、炭治郎は俺を待っていた。そして、今朝である。明け方になって帰ってきた俺を、寝間着のままの炭治郎が出迎えた。
    「あの娘は、俺自身に用があった訳じゃない。お前が嗅いだ女の匂いとやらは、恐らく偶然ついたものだ。初対面と変わらないような男に懸想するような真似は、分別のある女子なら有り得ないだろう」
     これはつまり、悋気、というものなのだろう。俺と藤の家の娘の間に、炭治郎が心配するような出来事は何もない。しかし炭治郎は泣き止まず、ますます悲しそうな顔になった。俺は三和土に膝を折り、炭治郎と目線を合わせる。
    「俺なんぞに言い寄る奴は居ない」
     円らな瞳が揺らいだ。早朝の肌寒さで、炭治郎に風邪を引いてほしくはない。早く落ち着かせて、部屋の中で話をしたかった。
    「分かったか」
    「分かりません……ちっとも、これっぽっちも。分かりたくもないですっ」
     俺は流石に面食らった。年の割に穏やかな物腰の炭治郎にしては、随分と激しい拒絶の言葉だ。子供じみた言い分に俺が反論するより早く、炭治郎が立ち上がる。
    「う、うぅっ……俺っ……暫く、お暇を頂きますっ」
     亭主に愛想を尽かした女房のような事を言い放って、炭治郎は廊下を走っていってしまった。俺はすぐに後を追おうとしたけれど、下足のまま板間に上がったなら、綺麗好きの炭治郎に叱られかねない。草履を忌々しく見下ろす。俺が行方を追った時には、炭治郎は勝手口から立ち去ってしまった。
     炭治郎が身を寄せる先は、分かっている。蟲柱、胡蝶しのぶの屋敷だ。妹の禰豆子が世話になっている事もあり、俺の屋敷に居ない時は、大抵そちらで時間を過ごしているようだった。平隊士の任務が限られている今、日が暮れた頃に出向けば、間違いなく捕まえられる。そうと知りながら、俺は炭治郎を迎えにいくきっかけを掴めずにいた。
     発端は誤解だとしても、何がこうも炭治郎を嘆かせたのか、俺には分からない。知ったかぶりが通じる相手ではないから、厄介だった。俺は自分の何もかもをあの子供に明け渡しているつもりだが、当の炭治郎は、捨て台詞を残して出ていく始末だ。どうすればいいのかと悩んでいるうちに、三度、夜を越えた。
     俺自身は、炭治郎の悋気を嬉しいとさえ思っている。何者をも受け入れ、他人を優先しがちな炭治郎が、俺を人にはやりたくないと感じてくれたのだ。俺が炭治郎に近づく者に向けるものと同じ気持ちを、無邪気な顔の下に抱えている。その事実を噛み締める度、仄暗い喜びで胸が熱くなった。明確な矛盾だ。他者から愛されるに値しないと自嘲しながらも、誰より大切な人に愛されていると知れば、ひどく良い気分になる。本当に、俺はどうしようもない男だった。

     夜明け前、俺は蝶屋敷に忍び込んだ。屋敷の主である胡蝶には俺の動きも把握されているだろうが、傷病者を起こすのは気が引けた。最も暗い時間が過ぎた今、闇の底は青白く輝いている。薄明を頼りに炭治郎を探した。
     炭治郎は、思いがけない場所に居た。忍び足で廊下を歩いていたところ、曲がり角で出くわしたのだ。炭治郎が声を上げようと口を開いたので、咄嗟に手のひらで塞ぐ。
    「まだ、寝ている者が居るだろう。静かにしろ」
     ぼそぼそと囁けば、病人着の上に羽織を纏った炭治郎は目線のみで頷いた。俺は炭治郎の腰を抱き寄せ、玄関まで向かう。炭治郎は俯いたままで、身体を強張らせていた。
     俺達は庭を通り抜け、門の外へ出る。人目を忍ぶような、妙に気恥ずかしい再会だった。


    エロにならなそうで心折れかけ
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    rurisakagtn121

    MAIKING大正軸無限柱稽古時空っぽい感じの付き合ってる義炭。冨岡さんの語り。
    炭治郎くんが冨岡さんに近づくモブに嫉妬している話ですが今のところのオチはそういう話ではないです。
    蕾は胎動せし 守るべきものを、悉く失ってきた。俺に残されたものがあるとすれば、この命だけなのだ。鬼狩りという仕事柄、それさえもいつ失われるか分からなかった。今の俺には、何も無いのと同じだ。生まれてきた意味も、生きていく理由も、もう分からない。
     そんな風に、全てを諦めかけた時だ。まるで悪足掻きのように拾い上げたのが、竈門炭治郎という少年である。炭治郎は、屈託のない優しさでもって俺の懐に潜り込んだ。今や、己が命よりも大切なただひとりの相手だった。俺からどんな思いで見られているかも知らずに、俺の隣で笑っている。因果なものだ。俺はまた、失いたくないものを抱えるようになった。
     俺にとって、他人を心から愛しいと思うのは、ある意味で合理性に欠けた現象だった。余所事に関心はない。そもそも人付き合いの希薄な身で、好いた惚れたの話を耳にする機会も少なかった。このまま死んでいく他ない、つまらない男を誑かしたのは、後にも先にも炭治郎だけだ。
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