告白「あー…まじか」
最悪だ。オオサカに出張の依頼を終え、いざ帰ろうというときに新幹線が止まった。
どうやら新幹線本体に問題があるらしくいつ運転再開になるか分からないらしい。
今から夜行バスを探すのも難しいだろうからネカフェにでも行こうと駅のホームに背を向け歩き出す。
「一郎…?」
最悪だ。今1番会いたくない奴に会ってしまった。
オオサカでの依頼を受けた時から多少なりとも会う可能性はあるだろうと思っていたが本当に会ってしまうなんて。
「親父…なんか用か」
「いやまさかこんな所で会うなんて思ってなかったからな。今からイケブクロに帰るところか?」
「今さっき帰れなくなったところだ」
いまいち状況がよく分かってなさそうな親父に電光掲示板を指差しながら答える。
「あぁなるほど。だからいつもより人多いのか」
「そういう事だ…もう行っていいか」
特に話す事もないし今更話したい事もない。
だから早く親父から離れたかった。
「まぁ待て。お前今から泊まるところ探すんだろ。なら俺の家来い」
「ネカフェ行くからいい」
「もう多分遅いぞ。今頃もうどこも空いてないだろうよ」
ほら行くぞと俺に背を向けて歩き出した。
それを見て何故か俺はついて行ってしまった。
「ほら乗れ」
多分高級な車の助手席に乗せられ俺はオオサカの夜景を眺めていた。
普段は人を小馬鹿にして大口を開けて笑っているのに、なぜか今日はえらく静かだ。
「なぁ親父、なんで俺に声を掛けたんだ?」
「…今日を逃したらもう2度と会えなくなるような気がしただけだ」
「なぁ親父、俺昔お父さんっ子だったんだぜ」
「そうか」
「親父に会いたくなかった」
「…そうか」
「俺さぁ、親父の事好きなんだわ」
「…そうか」
「だから会いたくなかった」
「なんでだ」
「だってアウトだろ、息子が親父を好きになるなんて」
「そうだな」
「初恋って叶わないって本当だなってずっと思ってた」
「あぁ」
「やべぇ話す事なんもないって思ってたけど結構あったわ」
「俺なんで親父のこと好きなんだろ」
「俺も同じ事思ってた」
なんだか声が震えて聞こえた。
あぁ、やっぱり気持ち悪かったのか。
きっと次の言葉で俺は親父に拒否されるんだろう。
そう思って夜景から親父へ視線を変える。
唇を噛みながら時折何か話そうと口を開く。
親父はそれを繰り返していた。
あ、二郎の癖だ。
あいつは何か言いにくい事を言おうとする時ずっとそうやっていた。
ここでもまた親子だという証拠を見せつけられる。
それが急に苦しくなった。
早くしてくれ。もう苦しい。俺を拒否するなら早くしてくれ。頼むから。そう思った瞬間、親父は口を開いた。
「俺もずっと思ってたよ。なんで息子のこと好きなんだろうって」
俺の方なんか一切見ずに真っ直ぐ前を見て運転するその表情は影が隠して見えなかった。