因果応報因果応報、よく聞く言葉だ。
善い行いをすれば善き結果を得られる。
悪しき行いをすれば悪しき結果を得る。
そこにその行いの理由は考慮されるのだろうか。
考慮された結果がこれならば笑えもしない。
「ってぇな…」
血も涙もない人間だとよく言われた。
そう言われても仕方がない。
それでも俺の体には赤い血が流れているし必要ないのに涙も出る。
「もう終わりか」
掠んでいく視界に映る地面は自分から出た血で染まっていく。
血も涙もない人間が血を流して死ぬ。
とんだ笑い話だ。
「因果応報自業自得、獣食った報い身から出た錆、零のためにあるようなので言葉やな」
本格的に死を覚悟し始めた頃、急に頭上から声が降ってきた。
「零死ぬん?こんな所で?」
「簓か…お前なんでこんな所にいんだよ…」
「そんなんずっと後つけてたからに決まってるやん」
ケラケラ笑いながらそう話す簓に零は底知れぬ恐怖を覚える。
ずっと後をつけていたという事はずっと俺の事を見ていて、それはつまり俺が刺された瞬間も見ていたという事だ。
何回も何回も執拗に刺される俺を見ながら何もせず、もうすぐ死ぬという所でケラケラ笑いながら話しかけてくる。
「なんで…」
「なんで助けてくれへんかったんかって?そりゃあなぁ…あんな小さな包丁であんな生ぬるい刺し方で零死ぬとは思わんかったからな」
だから助けなかったというのか。
「それに零を看取るのも悪ないなって思って」
やっぱ好きな子を看取るって憧れるやん?そう話しながら零の額を爪先で押す。
もう力の入らない体はそのまま床に倒れ込む。
ゴンッと割と鈍い音が鳴ったはずなのに不思議と体は少しも痛くない。
そういえば刺された所も痛く無くなっていた。
「盧笙は悲しむやろうなぁ…盧笙の悲しむ顔は見たないなぁ」
そう話す顔は本当に悲しそうで、余計訳がわからなくなる。
「おま、えは…?」
「ん?俺?悲しいよ?悲しいけどどうせ俺より先に死ぬんなら今死んでも変わらんやん。だからまぁ看取れる時に看取っとこうって思って」
訳がわからない。訳がわからないが
「因果応報。零悪い事ばっかしてた訳じゃないからな、来世はいい事あるわ」
まぁ、簓がそう言うならそうなのだろう。