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    緒々葉

    @aojiso_up
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    緒々葉

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    同棲計画に際して意思を違えるマサトキ。(心理描写など粗いのであとから改変するかもしれない)
    ⚠最初以外不穏です。
    (ふぉろわさんのネタを拝借しております)

    ##マサトキ

    同棲とは如何に?「一ノ瀬。……俺は、日々をもっとお前と共に過ごしたい。一緒に、暮らさないか」
     それは、真斗の元に一泊した日の晩。やや湿気の残る素肌を重ねながら余韻に浸っていた時に告げられた言葉だった。トキヤにとっても一番近くに在りたい想いは漠然と強まっていた自覚はあったから、やや重たくなってきた瞼もぱちりと全開になって相手の瞳を凝視した。
    「……本当ですか」
    「ああ。一応言っておくが、ただの突飛な出任せではないからな。……ここ最近、常々考えていたことだ」
     真斗が熱のこもった桔梗色で、真摯な心を伝える。トキヤの脳裏には、普段の生活の中に彼が存在する光景がいくつもちらちらと浮かんでは消える。
    「嬉しい、です」
     くすぐったそうにはにかんだ答えを聞いた真斗は、満足そうに瞳を細め恋人の腰を優しく抱き寄せた。

     翌朝、トキヤが起きてくるとテーブルに物件情報の冊子がいくつか並んでいて、より一層彼の発言が真実味を帯びて感じた。
     趣味が近く互いに理解が深いために、話し出せばキリがないほど内装の希望や必要な設備が湧いて出た。立場上厳重なオートロックは必須だろう、ベランダに小さな菜園が作りたい、キッチンは広く使い勝手の良い形で、事務所からの利便性も加味した静かな立地で……。
     それからしばらくは、二人の話題といったら引越し先の相談事で持ちきりだった。グループのメンバーには早々に報告し、社長たちにもひとまず許可を得た。
     翔やレンに時折呆れられるほど、真斗とトキヤは顔や態度に浮かれぶりが表れているようだった。見知った仲間にいくらそれを指摘されようが、当然ながら仕事中はきっちり表情や仕草も自制し期待以上の成果を見てせいるのだから、プライベートで少しくらい気を緩めていたって誰の迷惑にもならないだろう、と真斗たちは意に返さなかった。
     ところが、だ。これだけ浮き足立って新生活を計画している最中、思わぬところで歯車を掛け違えるとは、二人はまだ想像し得なかった……。

    「具体的に、部屋の数についてだが……」
    「そうですね……個々の部屋はそれぞれあった方が良いかと。それと、寝室は……」
     真斗たちは例のごとく、仕事後の夜に物件雑誌と向き合っていた。要望を擦り合わせ、外せない条件があらかた決まった頃。
    「寝室……、和室よりは洋室にベッドの方が良いだろうか」
     間取りを比較しながら部屋の位置などを考えていた二人だったが、不意に、トキヤの瞳が微かに曇った。
    「……やはり、同室ということですよね」
     ぽつりと心許ない声音で呟いたトキヤに、真斗の視線が怪訝そうに注がれる。
    「む? 同棲である以上、そういうものと考えていたが、違うのか?」
    「あぁ、いえ……それはそうです、けど」
     トキヤはどこか慌て気味に返事をしたけれど、その表情は固く、浮かない眼差しで相手を控えめに見遣る。すると、穏やかに破顔した真斗が、トキヤにゆっくりと語り聞かせる。
    「一ノ瀬。こればかりは、互いが納得する形で進めていきたいのだ。お前も、遠慮せずに気兼ねなく意見を述べて欲しい」
    「……はい」
     その思いやりが沁みてトキヤは無意識に口元を緩め、温かさに甘えて声を発しそうになる。だが、これを言ってしまえば真斗の方に無理をさせることになってしまわないか。ただの気の持ちようでしかない真意を話して、彼を悩ませてしまうのは本意ではない。なにより、こんなことは、完全に幼稚なわがままと同義だ。それを彼に知られるのは、単純に恥ずかしい。せっかく同棲という魅力的な道に踏み切ってくれた彼に、ここで語るべきは未来への不安などではないのだ。
     トキヤの思考はこの短時間で懸命に駆け回り、道理の通るだろう建前を組み上げた。
    「ほら……、私たちは毎日不規則な帰宅でしょう? 同じ部屋だと、お休みの邪魔をしてしまいますし、それに、時には、一人静かに眠りたいことも……あるかもしれませんし」
    「……つまり、お前は、寝室も別にすべきと言いたいのか」
     これまでどんな意思の齟齬があろうと向き合って真剣に語り合い、柔らかな口調だけは崩さなかった真斗が、初めて淀みを含ませた。トキヤの背筋にぴりっとした緊迫が駆け抜けた。
    「……、問題のない時はどちらかのベッドで一緒に眠ることもできるわけですし」
     引くわけにもいかず、トキヤが小さく頷き平静を装って続けるも、こちらを窺う藤紫はしかし混濁した感情を隠しきれていない。ああ、今の彼にはおそらく何をどう理屈づけたとしても、この案に同意してはくれないのだろう、とトキヤは直感で悟る。
    「まあ……、そうだろうが」
     ひとつも得心している顔ではなく、真斗は悩ましげな声を漏らして何やら考えている。想像するまでもなく、きっと恋人の意思を尊重したいがための葛藤を抱えているのだろう。トキヤはじわりと手のひらに湿り気を覚えながら、既に僅かな反省を湧き上がらせていた。
    「すみません、あの……」
     好きあってから今まで感じたことのなかった、妙に不穏な空気。原因を作ったのは自分だからと、トキヤはいたたまれない気持ちで何か払拭できる弁解をしようと言葉を絞り出した。が、その先を語らせなかったのは真斗の単調な言の葉だった。
    「俺は……、単なる同居がしたいわけではない」
     そのひとことを耳にしたトキヤは、ただ音を飲み込むことしかできなかった。口先だけ笑んで一切の情も読めないその双眸は、すぐにふいっと逸らされてトキヤからは見てとれなくなった。
     今日はもう終いにしよう、と背を向けざまに述べると、真斗は玄関へと消えていった。
    「聖川、さん……」
     この身に宿っている独りよがりの憂慮や気がかりを見せまいとした結果、かえって真斗の気分を害してしまった。トキヤの胸がちくりと痛みを訴える。掠れた声でその名を呼んではみたが、静寂に響くドアの開閉音が返ってきたのみだった。

     その翌日は、幸いにも真斗と共通の現場がなかった。それを幸いだと感じる日が来るなんて、とトキヤ本人が一番驚いていた。しかしながら、これもある意味では必要なことかもしれなかった。昨日までは想い人と暮らす幸福にばかり意識を取られていたが、実際には、誰かと寝食を共にするということはメリットばかりではない。いくら気を許している相手でも、共同生活をすれば限られた交流では見えていなかった価値観や行動などを晒す場面が出てくる。そういったことも含めて、多少冷静な目で見据えなければならなかったのだ。
     となると、やはり……就寝時にも距離をおけるように、という取ってつけた言い訳もあながち詭弁ではなかった気がしてくる。昨晩言いあぐねていた最大の本音は、同じ布団で毎日真斗と眠る日常に慣れてしまうのが、こわいこと。情けないものだが、うっかり想像してしまったのだ。片方がしばらく家を空ける場合というのはこの仕事をしている上で多々ある。長期ロケや、深夜の撮影など、これまでの経験からも容易に想定できる。そんな時、空気のように当たり前に傍に居た真斗が、そこに居なかったら、寂しさに呑まれて息ができなくなりそうだった。
    「はぁ……」
     思わず重たい溜め息がこぼれてしまった。気が進まないけれど、別室にしたいという意見を聞き入れてもらうべく話をしなければならない。そう決意してトキヤは身を引き締めた。
     この日の現場を終えるとすぐに、トキヤの指はスマホアプリを起動する。すると、メッセージを送ろうとしていた相手から既に通知が届いていた。
    『お疲れ様。仕事が済んだら連絡して欲しい』
     そう記されている画面を見て、今日初めての安堵を得た。きっと、今度は落ち着いて歩み寄って話ができる。トキヤはそう念じて、彼へ向けて了解の文字を打った。

     向かった先は真斗の家だ。同棲を決めてからは、念には念をと人に聞かれる心配のない場で会うようにしていた。
    「昨夜はすまなかった。俺の中で勝手に決め込んでいたところがあったゆえに、あのような態度を取ってしまった」
     玄関から中へ上がったトキヤを前にして、真斗は開口一番そう述べた。その姿は昨夜よりも平素の和やかさを取り戻したようで、眉を下げ申し訳なさそうに苦笑した。
    「いえ……私こそ、良くない言葉選びをしてしまって、すみません」
     トキヤは密かに胸をなで下ろし、ほのかに口角を上げつつ謝意を返した。
    「それで、一日考えていたのだが……まだ、やめておくべきかと」
     しかしながら真斗のその発言を受けた瞬間、トキヤの頬がすぐさま強ばる。
    「やめる……」
     それは、何を? 漠然とした言い回しはトキヤの鼓膜を滑るように落ち、結果その口からは出せたのは、咄嗟のおうむ返しだけだった。トキヤの頭の中は一周まわってまっさらになった。柄にもなく唇を半開きにして、間の抜けた顔で身動きできなくなる。そんな恋人をどこか淋しげに一瞥したかと思うと、斜め下へ視線を俯け達観したような口調で続けた。
    「どうやら……お前は俺との同棲に、さほど特別な魅力を抱いていないようだからな」
    「……!」
     トキヤは思い切り目を見開くしかなかった。よりによって、どんな早合点か。今すぐに心の内をすべて見せつけてしまえたら、解ってもらえるのだろうか。トキヤは灰青の瞳をじわりと滲ませた。
     誰よりも愛おしくて、いつ何時でも傍に居たくてどうしようもないくらいに溺れてゆく。奥に嵌れば嵌るほど、それを手放す日が来てしまったらどうなる? と胸の奥で何かが囁く。際限なく惹かれるからこそ、最後の崖を飛び越えられずにいるのだと、いうのに。
    「……たし、わたしは」
     両手の指を、爪が食い込むほどに握りしめて、トキヤは苦しげに吐き出す。
    「聖川さんを、愛していて……。今でもこんなに好きでたまらないあなたと、これ以上溶け合うようになればいつか、失った時、どうすれば良いんです……」
     こんなことを、今言って何になるのだろう。そう思ったところで、トキヤの胸中はあらゆる感情が一緒くたに混ざり合って収集がつかない。
    「な……」
     真斗の面食らった音が、やや上の方から聞こえる。トキヤにもそれは分かったけれど、ひとたびあふれ出した切実な心情は塞ぎ方を知らない。
    「だって、そうでしょう……幸せなゴールなんてどこにもない。私たちは、例え生涯の約束をしても何の保証にもならなくて。それなのに、どこまでもあなたの存在が濃くなってしまうのが……こわくて」
     顔を上げられないままに、トキヤは我を忘れたように震えた想いを吐露していた。うっかり涙が落ちそうになったが、きつく瞼を瞑って堪え忍んだ。
    「一ノ瀬」
     ごく僅かな静けさが訪れたと思えば、真斗がぽつりと呼ぶ。その声色は、昨日のそれよりも更に少し彩度を失って聞こえた。
    「……っ、」
     そこでようやく、これまで重ねてきた自分の大切なものをも丸々否定したことに思い至る。トキヤは途端に自責の念に苛まれたが、後の祭りだ。その縮めた肩のすぐそこで、大きな手が半端な高さまで浮いたものの思い直したように下ろされたことを今のトキヤは知る由もない。
    「それが本心なのか。……良くわかった」
     真斗の声は、妙に落ち着いていた。心を切り離したかのように静かで、トキヤには末恐ろしささえ感じられた。憤っているのならいっそ素直に声を上げてくれた方がまだましだった。しかし、真斗はトキヤを責め立てる素振りもないまま、名残惜しいほどに後腐れなく引いていく。
    「やはり、期を見誤ったのだろう。申し訳なかった。……この話は、白紙にしよう」
     それきり、真斗は押し黙って足下を見つめていた。当然ながら、自身には反論する資格などない、とトキヤはただ項垂れた。
     これ以上ここに長居していても、互いに息苦しい時間でしかない。冷静さを欠いているトキヤにもそれだけはかろうじて理解できた。
    「すみ、ません……今日はもう、失礼しますね」
    「ああ……せっかく来てくれたのに、すまない」
     引き留めても更に拗れるだけだろう、と考えたかは定かでないが、真斗はそのままトキヤの力ない足取りを見送ることに終始した。

    続く?
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