苦くて甘い 「ルシファーなんて、ルシファーなんて大っ嫌い!」
その言葉をぶつけたときのルシファーの顔は今でもはっきり思い出せる。驚いてまだ理解が追い付いておらず、どうしていいかわからない、という顔。初めて見たかも。そんな顔してほしかったわけじゃないんだけどな。でも、もう限界。私の心が小さかっただけかもしれないけど。
きっかけは些細なこと。殿下とルシファーが、あまりにも信頼しあっていて、お互いが一番大切なんだと言わんばかりの、そんな様子を見てしまったから。ほら、些細なことでしょう。なんてちっぽけ。でも、ちりも積もればっていうじゃない?そんな姿ばっかり見続けてきたらさ、やっぱり思ってしまうわけです。あぁ、ルシファーの一番にはどうしてもなれないんだろうな、って。そう思ってしまってからはダメだった。ルシファーが私を愛してくれるのは痛いほど伝わってくる。でも、脳裏をよぎる。よぎってしまう。あなたが一番大事なのは、私じゃなくて、きっと、殿下なんでしょう?
だから私は逃げ出した。大嫌いっていう、本当に伝えたい気持ちとは正反対な言葉だけを残して。だって、耐えられない。こんな面倒くさい感情を知られたら。
私のこの感情を知ったら、ルシファーはどんな反応をするんだろう。
自分の部屋まで走って。中に入ってカギをかける。本当は今日、夕食後に二人でゆっくり過ごそうって言いたかったんだけどな。目の前がにじむ。そのままベッドまで歩いて、腰掛ける。涙がこぼれる。なんであんなこと言っちゃったんだろう。涙が止まらなくて、本当はルシファーの方が傷ついてるはずなのに。
コンコン、と控えめなノック音で目を覚ます。そのまま眠ってしまっていたらしい。
「伊吹、起きてる?そろそろ夕食の時間だよ。早く来ないとベールが伊吹の分食べちゃうかも。」
「ありがとうベルフェ。でも今日はあんまりおなかがすいてないんだ。」
扉は空けずに答える。
「そう?わかった。」「でも、ご飯食べたらまた来るから。寝ててもいいけど、ちゃんと部屋、入れてよね。」
(以下、まだプロットです)
その後兄弟たちに「ルシファーとけんかした?」なんて聞かれて、一切合切話すことになる。
7「じゃあさ、ちょっとだけしちゃわない? ルシファーにしかえし。」
4「そんなたいしたことはしない。ただちょっとだけ、いままでよりもルシファー以外を優先するだけだ」
7「寂しかったんでしょ? それぐらい許されるんじゃない?」
盛り上がるアンルシ、悪ノリする35、「よくわからないが、伊吹と一緒に遊べるのは楽しい」のノリのベール、意外と静かなマモン。
その日から、他の兄弟と一緒にいる時間が増えた。ちょっとだけって言ってたのに朝から晩までいつも誰かが横にいる。みんなと話をしてると、楽しくて、ルシファーのこと、あまり考えずに済んでいる。だからほんとにルシファーと話をするタイミングが、ない。まぁあったところできっと逃げ出してしまうから、考えなくていいのはありがたいんだけど。
5「ショッピング」
3「げーむ!」 6「あ、おれも」7「じゃぼくも」 3「はぁ!?」
他の兄弟たちの用事を優先させてなかなかルシファーの時間を作らない私にしびれを切らしたのだろう、ルシファーが久しぶりに私に話しかけてきた。
「なぁ、少し君の時間をもらえないか。きみにしっかりとお詫びをしたい。今夜、一緒にリストランテシックスにでも」
「おあいにくだなルシファー、今日の伊吹は「俺との」予定があるんだ。」
「サタン」
「さぁ、いこう、伊吹。今日は俺と新作の映画を見る約束だろう? きょうはたっぷり息吹を堪能するからな」
その場を去る。伊吹からはルシファーの表情は見えない。
次の日の約束はマモンだった。なんかあんまり嬉しそうじゃなくてイメージと違う。そういえばマモン、この計画の相談してた時も静かだったな。
「あのさ。おまえ、ホントは無理してんだろ」
「え?」
「オレサマにはおみとーしだっつーの。普段よりげんきねぇよ、オマエ。それにさ、ほんとは、ルシファーにひどいこと言っちまった事謝りてぇんじゃねぇの」
「ルシファーもさ、なんかずっとイライラしてるし、それでいて本調子じゃなさそうでこっちが調子狂うし…」「ともかく、オレサマ的に、今のこの雰囲気はなーんかいやだっつーことだ。だから、さっさとルシファーのとこ行ってこい。オレのことはいいから。」
「マモン…」
「へへ、報酬はは特別に5千グリムでいいぜ!」「まもんさいてー! でも、ありがと」
「いーからいけって」
るしふぁーの部屋の前。いつもと違う緊張感。ノックする
「あぁ、君か。はいってくれ。」
あれ、いつもより、覇気が、ない?
「ルシファー、あのね」
「すまない。君に謝らなくてはいけない。」
「君をこんなに悲しませてしまった。ディアボロのことは確かに大事な親友だ。でも、本当は君を優先したいと思うときだってたくさんある。公務の都合上、かなえてやれることは多くないかとは思うが、それでも。それでも俺が君のことを何物にも代えがたい存在だと思っていること、わすれないでくれ。」