「ふんふんふん」
魏無羨は厨に立っていた。もちろん料理をするためである。
その隣では藍忘機が真っ白になっているが、ご機嫌な彼は気がつかない。
「ふんふんふん」
厨には鼻歌と美味しそうな匂いが立ち込めている。
その日の朝
藍忘機は珍しく魏嬰の寝顔をゆっくりと見つめていた。
急ぐ案件もなく、たまにはゆっくりしようと勤めを全て片付けたのが昨日のこと。
今日は一日ゆっくり愛しい道侶と過ごすことができる。
驚かそうと魏嬰には内緒にしていた。
腕の中の黒狐は未だ夢の中。
巳の刻も過ぎようという頃、ようやく魏嬰が身動ぎと共にその瞳を覗かせた。
忘機が、そのとろとろと潤むニ藍の瞳を飴のようで美味しそうだと見つめていると。
「俺まだ寝てるのかな。らんじゃんが見えるぅ」
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