“好き”が“嫌い”になってしまう話類のことが好きな司が『類のことを嫌いになれたらこんなに苦しくなかったのかな…』と思ったせいでセカイに影響が出て「好き」が「嫌い」になってしまう両片思い類司
ふと、思った。もし類のことが嫌いになれたなら、こんなに苦しい思いなんてしないのではないか、と
そう思ったのは昼休みにオレが類の教室に行ったら教室に類はいなくて探していたときに人通りの少ない廊下で女子に告白されている現場を見たことからだ
類は「ごめんね」と断っていたがその後に告げた言葉がオレにとっては衝撃的だった
それは───
「僕、好きな人がいるんだ」
「好きな人…か………」
類に…好きな人……?……検討がつかない…
一番ありえそうなのはえむか寧々…
「………全くわからん!!」
「おや、なにがわからないんだい?」
「え、…?」
誰かと思い振り返ってみるとそこには類がいた
噂をすれば、というやつか……
「いや、別になんでもない……」
「?それならいいのだけれど……なにか悩みがあったら相談に乗るよ?」
いや、悩みの種はお前なんだが……?
そもそもの話…
「なんでここにいるんだ…」
「酷いじゃないか司くん…君が僕を呼び出したんだろう?」
「あぁ…そう、だったか…?」
「ほんとに大丈夫かい?」
記憶がない……いや、待てよ…たしかに呼び出した………ような気がする……?
「うむ、思い出せん…」
「司くん、病院に行ったほうが…」
「そこまでではないだろっ!!」
「ふふ、まぁまぁ」
「むぅ……とりあえず思い出せたらまた伝える」
「うん、わかったよ」
このときのオレは何も気づかなかった
既にこの時点でセカイに変化が訪れていることなんて
「それでは今日は次のショーの練習だ」
「と~ってもわんだほい!なお話のだねっ!」
「ふふ、そうだね。今回はいつもとはちょっと違った内容だから楽しみだよ」
「うん、頑張らないと」
「寧々、今回は相手役としてよろしく」
「こちらこそ、類の相手役を演じるってなんだか不思議な感じだけど…」
「たしかに…いつもは司くんが相手役だからね」
「そういえば、司くんはなんで今回主役じゃないの?」
「私も気になってた……」
「あぁ、それは……」
理由なんてひとつだけだ…
「今回の主役は類のほうが映えると思ったからだ
ほら、主人公と類はどことなく似ているだろ?」
嘘だ。本当はただ、類が告白するならどんな風にするのか気になっただけ
類が恋に落ちて惹かれて、幸せだと笑う顔が見てみたいだけ
叶わない恋だからこそ、というどうしようもない言い訳だった
「たしかに!主人公さんと類くん、なんだか似てるよねっ!」
「そうかい?」
「うん…言われてみればなんか似てる…」
そう、似ているのだ。主人公と類は
しぐさもそうだが恋をしているかのような目が特に似ていた
「だからまぁ今回類が主人公なわけだ
ほら、練習を始めるぞ」
「はーい!」
「うん………類?」
「え…あ、あぁ…なんでもないよ………」
────
『ずっと、君が好きだった
たとえ君が今、僕のことを意識していなくても、きっと意識させてみせるから』
「っ………」
やっぱり、類は恋をしている
あの目、優しい声、振り向かせるという決意と意識させると自信に溢れた視線
そんな風に見てるやつにオレが所詮勝てるわけないんだ
「どう、だったかな……?」とこういう台詞をあまり言い慣れないのか恥ずかしそうに聞く類
「いいんじゃない?まさか類がここまでできるなんて思ってなかったし…
正直予想以上かも…」
「うんうん!類くん、なんだかほんとにヒロインが好きなんだなぁって伝わってきたよ!」
「…………」
「司………」
「……よかったと思うぞ
寧々と同じく、まさかあそこまでできるなんて予想以上だった」
ほんとに、“ある意味”予想以上だった
類をこんなに輝かせられるほど、笑顔にさせられるほど類の好きな人はすごいらしい
類のあんな顔、オレは見たことなかった
───類を一番笑顔にできるのは、オレだと思っていた。けどそれは、ただのオレの勘違い。オレはただ哀れで馬鹿みたいで、どうしようもないやつだ
───
いつから好きだったのか、と聞かれればいつからだったけな、という回答になる
“彼”に惹かれたのはいつの間にかで気付いたら好きになってて、どうしようもなく愛おしくて、大切にしたくて、でも独り占めしたくて、でもやっぱりみんなを笑顔にして笑顔になる彼が好きで
“天馬司”という人物は星のようで太陽、光そのものである
そんな彼に救われた孤独な錬金術師
それが僕、神代類だ
「………この主人公は、まるで僕みたいだね…」
好きな人のためならなんでもしてあげたい、好きな人の笑顔が見たい、好きな人を守りたい、好きな人を大切にしたい
そんな気持ちはまるで僕自身を写したような感じだった
プルルル…
「ん?……司くん?
もしもし?」
『あ、……』
「司くん?」
『…………えっと…』
「なにか用があったんじゃないのかい?」
『そ、そうなんだが……』
どうしたのだろうか。司くんの様子がおかしい
「何かあったのかい?」
『いや、なんでもない……のだが……』
やっぱり、いつもはハキハキしている彼がここまで曖昧な返事をするなんておかしい
「ねぇ司くん、なにかあったなら教えて欲しいな?」
『……………本当に、なんでもないんだ…
ただ、類の声が聞きたかっただけだから…』
「え………?」
『じゃ、じゃあなっ!!』
プツッと電話は切られてしまった
『声が聞きたかっただけだから…』その言葉が嬉しかった
僕も司くんの声が聞きたかったし、なにより…
「変な期待、してしまうよ………」
僕は君が好きなのに君は僕のことをそういう風に見ていない。それなのにそんな風に期待させるようなことをされてしまったら、多少の期待はするだろう?
ほんとに彼は罪深い人だと思う
「はぁ……僕と同じ気持ちじゃないのは、わかっているんだけどねぇ…」
少しなら、少しだけなら期待しても許されるだろうか…
────
『司くーーん!!』
「うおっ!な、なんだミクか……どうした?」
『今すぐセカイに来て~!』
「セカイに?」