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    くてる

    @Kuteru_39

    マシュマロ→https://marshmallow-qa.com/kuteru_39

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    くてる

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    没です。本当は後編書くつもりでした

    なんてことのない日々でした僕、神代類は孤独だった
    いつだって誰かと関わることもなく、人と距離を置き、幼なじみである寧々でさえ中学が違ったこともあり話はほとんどせず、昔馴染みの瑞希もまた孤独同士ほどよい距離感を保っていた

    人との距離というのは目に見えて見えないものだ
    物理的な距離は見えても心の距離までは図り知れず
    瑞希や寧々は心の距離の近さで言えば近いほうであると思う。えむくんは実際の距離も近いとは思うがこの場合、お兄さんがいる本人にとって僕は兄と近いような存在…なのだと思う
    だからみんな、心の距離は近くとも物理的な距離に関してはほどよくを保っているのだ

    ……たった一人を除いて

    天馬司という人物は物理的に距離が近いと思えば心の距離さえ近づけてくる天才である
    そんな彼だからこそ、人は皆彼を慕うのかもしれない。関わりやすいし頼れる。少し変なところがあるとは言えどやはり彼は兄であり座長であって、みんなの光なのだ
    僕だってそんな彼だからこそ物理的に距離が近くても気にしないし寧ろそうじゃないと変な感じがする。彼と距離があることに慣れていないからかもしれないが

    「神代類はいるかー!!」

    そんな声が教室のドアの方から聞こえてくる
    こんな風に呼び出すのはたった一人しかいない

    「おや、司くん。どうしたんだい?」
    「「どうしたんだい?」ではなーい!!お前が昼休みに演出の相談があるからと!」
    「あぁ、そうだったね。ごめんよ」
    「ほら、早く行くぞ!」

    目をキラキラとさせ、わくわくが隠せていない司くんを見ているとつい頬が緩んでしまう
    よっぽど僕の演出の内容が気になるのだろう
    こんな風に誰かに楽しみにしてもらえるのはとても嬉しいことだ
    屋上に着くと彼は楽しそうに次のショーについて話しだす

    「それでここのシーンは…」

    表情がわかりやすいくらいコロコロと変える彼を見ているのは飽きない。寧ろもっと見ていたいくらいだ

    「類?」
    「ん?」
    「な、なんだ…じろじろと見て……はっ!まさかまた突拍子でもないことを思いついたんじゃないだろうな!?」
    「ふふ、気になるかい?それなら……」
    「いや!いい!!聞くとろくなことにならんからな!!」
    「そうかい?それは残念だ…」

    わざとらしくしょぼん…としてみれば彼は「う゛っ……」と声に出す

    「し……仕方ない!話を聞くだけだからな!!」

    人に対して優しすぎる彼は時折心配になる
    彼のいいところではあるが悪いところでもあると思う。人を疑う、ということを知らないのかもしれない…司くん、あまり人を疑うということをしなそうだもんね……
    とはいえ、何だかんだで話を聞いてくれるらしいので新しく思いついた演出について話す
    司くんは目を輝かせながら聞いてくれた

    ───
    みんなに問いたい
    もしもだ。もしも人が告白されている現場に遭遇したときどうする?それが知り合いであったら?友人であったら?
    立ち去ることはできるが少し気になってしまうだろう。それが人間だ

    何故オレが今こんな話をしたのかといえば最近、オレの仲間であり友人である神代類が告白される現場を見たからだ
    それも何回も
    あいつがモテるのは元からだ。そう。元からである。確かに顔もいいし紳士だし、性格は……まぁ、個性的…ではあるが悪いやつじゃない。寧ろ好きなことには真っ直ぐで真剣で、人一倍思いが強い人物だとオレは思っている

    オレが初めて類が告白される現場を見たのはほんの数ヶ月前のことだった
    類を呼んでショーの話をしようとしたときにその現場に出くわした
    その後も度々告白される現場が見られた
    女子もよく諦めないよな…あんなにたくさんの人が振られても尚、告白するのだから…
    だが簡単に諦められるものでもないのだろう。恋愛というものは複雑だな……なんて考えたところであることを思いついた

    「これだ!!」

    オレの中で次のショーの内容が決まったのだった

    ───

    「恋愛もの?」
    「あぁ!ふと思いついてな!!どうだろうか?」

    一面が青空で広がる快晴の日。突然屋上に呼び出されたと思えば彼から告げられた次のショーの内容
    恋愛ものは滅多にやらない演目だ

    「…いいと思うよ。普段やらない演目をやってみるのも役者としての成長の種になるだろうからね」
    「よし!それじゃあ決まりだな!!
    次のショーは恋愛もので決定だ!!」

    少し、胸が苦しくなったような気がしたが気のせいだろう
    司くんは楽しそうにシナリオを綴っていく
    それを隣で見ていた僕は何故かあまりいい気分ではなかった

    ────

    学校が終わり、今日は練習がないので真っ直ぐに家に帰った
    ガレージに入り、ソファへと倒れ込む
    いいと思うと言っておいて今更だが、司のシナリオを見たくないような気もしてきた。知るのが怖い…のかもしれない
    ただ、何故怖いのかがわからない
    別にいいじゃないか。素敵なシナリオならば
    別にいいじゃないか。ハッピーエンドならば
    別にいいじゃないか。僕にはそう関係のないことだ
    別に………いい、はずなのに…何処かにモヤモヤとした感じがした

    ────

    「取り敢えず脚本自体はできた!!…のだが………」
    「おや、やけに珍しく自信満々じゃないね」
    「いや、思うところがあってな…その……“本当にこれであっているのか”と……」
    「納得がいかない、ということかい?」
    「納得がいかない…のだろうか…?」

    脚本を持ってそう告げる司くん
    これは困ったな…いつも自信満々で脚本を持ってくる司くんだが今回ばかりは違うらしい
    ましてや当の本人もあっているのかどうかわからない状態なのだ。致命的である

    「なんだろうな…恋愛要素?というものがない気がする……」

    言われてみれば確かに少し恋愛要素に欠けるところはあるが初めて書いたにしては上出来だと思う
    だが天馬司という人物は自分が納得のいくまでやる人物。納得がいかないままの台本で進めたくないのだろう

    「いっそ恋愛を経験出来たらよかったのだが……少女漫画だけでは限界があるな…」
    「ふむ……」

    恋愛を経験する、か……

    「本物の恋愛は無理でもイメージとして経験してみる、というなら出来るかもしれないよ」
    「どうやって…?」
    「例えば誰かに相手役をお願いして、一定の期間司くんのシナリオと同じシチュエーションで生活してみる…とか」
    「なるほど……確かにそれならばどのシチュエーションでどういった反応をするのかは理解できそうだな…」
    「だろう?だからやってみたらどうかな」
    「そうだな!それでは類!よろしく頼む!!」
    「うん。……………え?」
    「だーかーらー!相手役をお前に頼みたいんだ!」
    「え、………えぇーーー!?!?」

    ────

    「───と、いうことで!お前には彼氏役をやってもらう!」
    「え、君が彼氏役ではなく…?」
    「一番引っ掛かっているのは恋をしている人側の心情だからな…」
    「あぁ、そう、か……うん。わかった」

    まさかこんなことになるなんて……
    誰しも想像していなかっただろう?それはそうだ。僕だって想像してなかった。神様なんてものがいるなら今すぐ返答してほしい。どうしてこうなった?

    「えぇっと……まずはどうすればいい…?」
    「取り敢えず壁ドンを頼む」
    「うん。わかっ………壁ドン!?!?
    いったい何がどうなったらその展開になるんだい!?」
    「少女漫画にあったからな…」
    「少女漫画に影響されすぎだよ!!」

    真っ先に少女漫画から壁ドンを引っ張ってくるって司くん、実はめちゃくちゃ少女漫画に憧れでも持ってたりするのかい?
    司くんってそもそも少女漫画読んだんだね…いや、咲希くんに少女漫画を借りたのかな……待って…壁ドンって結構ハードル高くないかい?だって壁にドンッってやって相手を落とすあれだろう…?いや、出来なくはないとは思うけどそれを今やれって?屋上で?なに、神様とやらの悪戯かなにかかな?

    「るいー…」
    「わかった…わかったから少し待ってね…いい子だから」

    何を言っているんだろう…ねぇ、僕。司くんは小さい子供じゃないよ。同い年じゃないか。いったい何をしてるんだい?
    もういい…覚悟を決めろ神代類……役者なんだからできるだろう?あれ?というかそもそもなんで僕はこんなに動揺したり躊躇ったりしてるんだ?

    「…………?」
    「どうした?」
    「いや…なんでもない、よ…?」
    「何故疑問系なんだ?」
    「さぁ…?取り敢えず、壁ドン…すればいいんだよね…?」
    「あぁ!頼む!!」
    「……あの、そんなまじまじと見られると気まずいというか…恥ずかしいというか……」
    「…はっ!すまん!」
    「いいや、別にいいんだけどね…
    それじゃあ………」

    僕は覚悟を決め、司くんに壁ドンをした
    改めて近くで見ると司くんって童顔だなぁ、とか睫毛長めだなぁ、とか目大きくて可愛らしいなぁ、とかほっぺ柔らかそうだなぁ、とか思ったり……

    「類…」
    「好きだよ」
    「………へ…?」
    「え…あ、いや……そのっ、ちがっ!ほ、ほら!よく漫画で壁ドンしたあとに告白する展開ってよくあるだろう!?」
    「な…なるほど!さすが類だな!!」

    ごめんなさい。司くん……僕は嘘をつきました。本当はなんで「好きだよ」なんて台詞が出たのかわかりません。僕は無罪…わからないんだもん…仕方ないじゃないか……ほんとになんで?何を思って今「好きだよ」なんて台詞を吐いたんだ?全く自分の行動が理解できない……

    「………」
    「司くん…?」
    「その……やはり類のような人がやると効果は結構ありそうだな…実際ちょっと…いや、結構ドキッとしたぞ」
    「そ、そう……」
    「しかし壁ドンでドキッとするというのは事実ではあるみたいだが、ちょっとした仕草でドキッとするのはまだわからんな……」
    「ちょっとした仕草で…?」
    「ん?あぁ、実は咲希から借りた少女漫画に主人公が想いを寄せる人のちょっとした普段の仕草にドキッとしててな…その、そんな普段の仕草でドキッとするものなのかどうか……」

    あ、やっぱり咲希くんに借りたんだね…
    確かに咲希くんって少女漫画とか恋愛もの好きそうではあるからね…

    「ん~…恋した人は相手に恋のフィルターが掛かると言われることがあるからね…」
    「恋のフィルター…?」
    「想いを寄せる人にそれはもうフィルターが掛かったように他の人とは違うように見えるらしいよ。一つひとつの言葉にも反応してしまうくらいにはね」
    「だから他の人は特にドキッとしない場面でもその人に恋をしている人にとってはドキッとせざるを得ない……ということか…?」
    「まぁ、そういうことだと思うよ」

    恋のフィルターなんてもの、本当にあるのかさえ怪しいが実際に恋をすると掛かるらしい…
    そもそも恋なんてものに興味がない僕からすれば何故そんなものが…?と疑問に思うし寧ろそのフィルターとやらに興味がある

    「取り敢えず、今後もよろしく頼む」
    「え?まだやるのかい?」
    「やらねばわからんままだろう…頼む!」
    「別に、それはいい…けど……」
    「感謝するぞ、類!!やはり持つべきは友と仲間だな!」

    “友”、“仲間”
    その言葉に違和感のようなものを抱いたのは何故だろうか
    嬉しいはずなのに、何処かで“違う”と言っている

    「おかしいな…」
    「ん?なにがだ?」
    「ううん。なんでもない」

    これはただの気のせいだと、そう僕は信じた

    ────

    類に壁ドンをお願いし、実際に壁ドンしてもらった日あたりからオレはおかしかった
    類の名前が出ると今までと違う意味で反応してしまい、大変だった
    類へ恋心を抱く女子が話をしているのを聞いていると何故かモヤモヤした
    類を見掛けたとき話しかけたくてうずうずしてしまった
    類が寧々やえむと話してるのを見ると、またモヤモヤした

    「それって恋じゃないかな~?」
    「そんなわけ…」
    「お兄ちゃんはほんとーにそう言いきれるの?」
    「………」

    この気持ちを最愛の妹である咲希に相談したところ、それは“恋”ではないかと返答がきた

    「お兄ちゃんはるいさんのこと、友達!っていうよりずっと一緒にいたい!って思ってるんじゃない?
    役者と演出家としてじゃなくて、たった一人の人として」
    「…だとしたら、だ
    オレは類に迷惑を掛けることになる」
    「どうして?」
    「あいつは恋愛に興味ないからな」
    「ん~……それはどうかな~?」
    「?」
    「だってほら、るいさんが気づいてないだけかもしれないよ?まだ春が訪れてないだけかも!」
    「春……」

    ここで言う春は季節の春ではなく恋のことを表している
    あいつにもいずれ春が訪れるのか…まぁ、それはそうだよな。あいつも人間なのだから

    「あ!アタシ明日いっちゃん達と練習あるからもう寝るね!おやすみ!お兄ちゃん!!」
    「あぁ、おやすみ。暖かくして寝るんだぞ」
    「はぁーい!」

    恋なんて大人になるまでしないと思ってた
    役者として舞台に立ったそのあとのことだと、夢を叶えたその先のことだと思って生きてきた
    だがもしこの気持ちが本当に恋ならば、オレはこれから類とどのように接していけば良いのだろうか

    ────

    類は委員会があるため、類がいないうちにえむと寧々、そして今回の脚本のアドバイスを頼んで来てもらった旭さんを含め三人にオレが抱いている気持ちについて相談した

    「恋でしょ」
    「恋だねっ!」
    「恋だなぁ~」
    「意見一致か…」
    「まぁ、恋じゃないなら何?って感じだし」
    「うんうん!司くん春だね~!!」
    「けど類くんに告白する気はないって本当?」

    旭さんにそう聞かれ、「本当だ」と答えるしかなかった
    類に告白したところで意味がない。なんせあいつはオレにそういった好意を持ち合わせていないから

    「司くんがいいならいいんだ
    けどさ、それって司くんのため?それとも類くんのため?どちらかのためになるのかな?」
    「それは、どういう……」
    「告白しないことで何か守れるの?」
    「…関係、ですかね……」
    「…確かにそうかもしれないね…でもそれは恋を諦める理由になる?」
    「………」
    「ごめんね。他人の恋愛事情に口出ししないほうがいいのはわかってる。けど司くん、酷い顔してるから…」

    酷い顔、と言われオレの頭の中にはハテナが浮かんだ
    だがえむと寧々を見ると二人とも揃って旭さんの言葉に頷いた

    「司、なんか辛そう……なんなら泣きかけてるし」
    「司くん、全然笑えてないよ…しょぼぼーんだよ……」
    「………」
    「考え直したほうがいいと思うよ」
    「………はい」

    そう言われたが考え直すという考えさえオレにはとっくのとうになかった
    類が来て一通り脚本の手直しや軽く通しをやって、修正して…を繰り返しながら本日の練習を終了した
    家に帰り食事とお風呂を済ませ自室のベッドに身体を沈めるとどっと疲れが押し寄せ、すぐに眠ってしまった
    オレは恋をしてしまった。もう認めざるを得ない
    神代類という人物に、恋をした。してしまった
    どう抗おうとその事実に変わりはない
    だが類に告白することで類を困らせるのならば、告白しないのが最善だろう。そう思った

    ────

    司くんを見る度に何故か胸が高鳴るような気がした
    司くんを見掛けたとき、見つけたとき、話し掛けられたとき、話し掛けたとき。全てにおいて胸が高鳴るのだ
    そして幼馴染みの寧々に相談したところ返ってきた返答は

    「巻き込まないでくれない?」

    だった

    「そもそもなんで自分でわかんないわけ?」
    「え、いや…わからないから相談して……」
    「だーかーらー!!なんでどいつもこいつも!!あーーー!!!!ばっかみたい!!!」
    「あの…寧々、」
    「ずっと拗ねらせてると思ったら自覚してなかったとか嘘でしょ!?わたしはずっと類は司に告白するの躊躇ってるか、ただのヘタレなのかどっちかだと思ってた!!」
    「へ、ヘタレ……」
    「この鈍感ヘタレ馬鹿!!」
    「ぐえっ」

    何故か痛いくらいに突き刺さった言葉の刃
    ヘタレ…ヘタレ……ヘタレ、か…その言葉だけで十分に痛い

    「先に言っておくけど!人の恋愛事情に口挟めるほどいいアドバイスはできないからね」
    「うん。別に話さえ聞いてもらえれば………え?れ、恋愛…事情……?誰の?」
    「は?あんたの決まってるでしょ?ここまできてわかんないわけ?」
    「えぇ…と……つまり僕が気づいていないだけで誰かにそういった好意を持ち合わせている…ということかい…?」
    「“誰か”って……一人しかいないでしょ…」
    「?」
    「自分で気づきなよ。気づいたときに協力してあげる」
    「へ……?」

    そう言うと寧々は立ち去っていった
    僕が誰かにそういった好意を向けているのか、寧々にはわかっているようで……けれど僕自身は思い当たる人がいない

    いや、たった一人だけ思い当たる人がいた

    最近見掛けるだけで胸が高鳴ってしまう彼が…天馬司という人物が
    考えてみればただの友人にそこまで胸が高鳴るものだろうか?一つひとつの行動に、あそこまで胸が苦しいくらいに締めつけられるものだろうか?

    答えは多分「否」
    そんなこと、ただの友人に対して持ち合わせる感情じゃない。孤独の時間が長かった僕でもそれくらいはわかる
    もしこれが本当に「恋」ならば、僕が彼の書いたシナリオにモヤモヤとした感情を抱いたのも辻褄が合う
    きっと嫉妬に近いものだったんだと思う。彼の「恋」の気持ちが別の誰かに向くというのを想像したくなかった
    明日から、平凡な日々を送れるだろうか?そんなこと、できるだろうか?いや、今までが平凡すぎたのかもしれない
    僕のなんてとこのない日々は、もう戻らない日々になってしまったのだ
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