犬午前十一時半、錆びた校門に左手を掛けた葦宮は、ゼェ、と疲労感たっぷりの溜息を吐く。
背中にひしひしと感じる生徒達の視線が鬱陶しい。逃れることは難しくもないが、この男の前で余分な隙を見せたくはなかった。
「……」
雨でも降るのだろうか、燻る煙草の煙の向こうでは表情が窺い知れない。ちぃ、と思いの外大きく舌打ちが響き、白髪混じりの頭が揺れる。
とうに分かっていただろうに、さも今存在に気が付いたと言わんばかりに振り返る津詰は、こちらの神経を逆撫でする間抜け面を晒していた。
「おいおい、人の顔見て舌打ちは失礼だろ」
「うるっせえなア…お前さん霞ヶ関勤務だろうよ、何だってこんな頻繁に来やがるかねェ」
「お前さんが真っ当に生きてさえくれりゃ俺もお役御免なんだがな」
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