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    スドウ

    @mkmk_poipoi

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    スドウ

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    【主明】習作。バレなしロイヤル軸。
    文体の舵をとれ練習問題1

    なつになにかあった 夕方に扉のベルが響く時、少しだけ心臓が忙しくなる。レンズの向こうのその先に、頭で思い浮かべたままの姿があった時、胸の下から聞こえる音は耳にまで届く。
     昼から夜に切り替わるタイミングの挨拶は、昨日ワイドショーで聞いた声と相違なかった。連日連夜、テレビの中にある顔と声。熱を持って自分の目の前に現れる彼が、平面の中に居座るのはいつだって不思議な心地だった。

    「マスター、いつものを」

     前回は口にしなかった言葉でも、自分もマスターも意味を汲める程度に彼はカウンターに腰掛けている。
     彼が言うところのブレンドコーヒーをマスターが準備する中、自分はグラスに入れた氷水とおしぼりを彼に差し出した。うっすら汗が滲む彼の肌を見て、結露で濡れた自身の指がじわりじわりと痺れ出す。

    「今朝、君を駅で見かけたよ。随分慌てた様子だったけど、寝坊でもしたのかな?」

     彼の言うことは事実だったけど、自分を見かけたということは彼も同じではないのだろうか。あくまで世間一般の学生として生きているならの話だが。

    「夜、暑かったから中々寝付けなくて」
    「まだまだ残暑が厳しいからね」

     キンキンに冷えた水に喉を鳴らして、彼は濡れた指先をおしぼりで拭った。
     夕方になっても、東京の夏は熱気が衰えない。マスターがカウンターに差し出した淹れたてのコーヒーも、蜃気楼のように煙をゆらゆら揺らめかせる。冷めない内にカップへ手を付けた彼の項には、一筋の汗が伝ったままだ。記憶の熱を思い出して、頭はクラクラチカチカ、心臓の鼓動は先程よりも早まるばかり。
     対岸で、彼は睫毛をパチパチと瞬かせて、自分を見上げて微笑んだ。ブーブー警報音のように、ポケットの中でスマホが震える。呼び出すものの正体は、見なくてももうわかっている。
     脳裏に浮かぶ名前と相違ない彼の、さらさら触り心地が良い髪をかけた耳と指はうっすらと赤かった。


    22.08.13
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