わかってるくせに。※文舵練習問題7-4
潜入型の作者視点で、複数人が何かしている出来事を書く。会話文は極力書かないようにする。
お互いにとって感動の再会の筈だ。レイとムゲンは、ようやく紫のアルティメットの気が晴れると期待していた。久しぶりにレイの元へ戻ってきた紫電も、自分のアルティメットのことだから昼は厳かに、夜は熱烈に再会を祝してくれるだろうと思っていた。そんな主二人とドラゴン一匹の予想に反して、アルティメット・ベルゼビートの胸には複雑な感情が渦巻いている。かつて幽霊船で出会った時のように、自身の心象風景を具現化する程度には。
赤い花弁めいた光を咲かせる銀河に、ベルゼビートの姿はない。その景色に、レイとムゲンはだめか〜と頭を掻く。彼の気難しさを理解してはいたが、ここまで来ると単純に面倒くさい。紫電もなんとなく事情を悟り、思わず溜め息を漏らそうとして、すんでで我慢する。そして、レイから事情を聞いた所で、今度こそ大きな溜め息を吐いた。
レイが究極のゼロになるのと引き換えに、6色のゼロの力を失ってから約半年。新しいマジダチが増えると同時に、赤、緑、黄の力が戻る中で、ベルゼビートが機嫌を損ね始めた。レイやムゲンは彼が「紫の力はいつ戻るのだろうか」と拗ねているように見えた。スピリットたちにとって、使い手が自分の色の力を宿してバトルで振るうということは、様々な特別感を得られる。それは力が溢れてくるような高揚感であったり、主と自分がお揃いになった嬉しさであったり、主が自分の色に染まってくれたという優越感であったり。要はテンションが上がるのだ。バトルでの心構えも違ってくる。スピリットのやる気が伝わったならば、その使い手にも気合が入るものだ。だから、ベルゼビートが気落ちしているのは、レイにとって由々しき事態である。それ以前に、マジダチが落ち込んでいたらなんとかしてやりたいと思って当然だ。
紫のカードの情報を集めに集め、銀河を駆け回り――そして今日、レイは紫の力を取り戻した。これで紫電の姿を見れば、ベルゼビートの機嫌も戻るだろう……と考えていたのだが。
紫電は思う。このアルティメットがそんな単純な感情を抱くわけがない。レイに本当の事を話さないのは、拗ねた理由が自分でもあまりに女々しいと感じているから。
実際、紫電の予想は当たっていた。ベルゼビートは、自分専用のレイが――つまり紫電が自分以外のアルティメットだかスピリットを引き連れて、戻ってくるのが不満だった。それは小さな女の子が、大好きなお母さんが自分だけに誂えてくれた人形を友達に取られ、自分の趣味ではないリボンやらボタンやらをつけて返された時の感情と似ている。一部界隈の言葉で「僕が最初に好きだったのに」というものもあるが、シチュエーションなど諸々違うので使うのは適当でない。だが、ベルゼビートにとってはそれと同じくらいの衝撃であったし、心象風景に再び引きこもる理由として十分すぎるものだった。紫電を目にした今、執着、嫉妬、焦り、哀しみ、怒りが混ざり合った感情に、喜びが一つ垂れる。レイも紫電も、ついでにちびドラゴンも、ベルゼビートに心を砕いてくれた。それでも杞憂は晴れずにいる。自分にはその色のレイ――紫電だけで、相手にもそう思っていてほしい。
アルティメットが隠したその感情を、紫電が種明かしした時。ムゲンは「面倒くさい彼女かよ」と小さく呟くし、レイも紫電も同意する。既に限界だった感情に羞恥を足されたことで、アルティメットは暴走する。彼が与える第二の試練も、主たちは無事切り抜ける。そして夜には、アルティメットは紫電のもので逆も然りだとその身をもって「わからせられる」のだが――、今は誰も知らない話だ。
2022.09.09