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    スドウ

    @mkmk_poipoi

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    スドウ

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    【主明】11/16(水)夜にジャズバーにお誘いしてくれる明智 is わからん。週末お楽しみなのはわかる。
    カレンダーが一致してる今だからこそ書くぞ〜!して1日遅刻した。

    Wed. Nov. 16th, 20xx「まだ帰りたくない」
     グラスの中身を煽った後で、思い切ってわがままを言ってみた。
     頬がやけに火照っている。後頭部にナイフで切れ目を入れられ、中身を剥き出しにされるような冷ややかさを感じた。そこからじんじんと伝播していく痺れが、身体も思考も緩々と鈍らせる。
     酔っ払ったら、こんな心地なのだろうか。蓮はノンアルコールカクテルの味しか知らない。
     歌手が残した余韻と、暖房の温さだけではない熱を纏わせながら、蓮は向かいの男を見た。
     平日の週半ば。十九時半。画面上で指をひらめかせて言葉を綴り、自分を夜の街へ誘い出した他校生。お気に入りの店なんだと、高校生にしては背伸びな趣味のこのジャズバーを教えた一つ年上の男。週明けにはきっと、あっけなく断ち切れてしまう関係の好敵手。
    「別に良いんじゃないかな。好きなだけ楽しんでいけば。まあ未成年だから、二十二時を過ぎる前に退店させられるだろうけど」
     勇気をふんだんに詰め込んだ蓮の言葉に、相手は笑みの深さを変えなかった。その左手は、隣の椅子に置いたアタッシュケースを手繰り寄せている。あとは一人でご自由に。
     違う、そうじゃなくて。
     蓮は頭を振って、実際に声にも出した。
    「明智も。もう少し付き合ってくれ」
     明智は、えぇ……とあどけない困惑を見せた。満更でもないらしい。
     彼の手が荷物から離れるのを見留め、即座にマスターの無辺にドリンクのおかわりをお願いした。
     グラスを下げられ、まっさらになった机上に明智が頬杖をつく。傾いだ首筋に、髪が淡い影を作る。
    「仕方ないな」 
     今夜は珍しく、明智の方が聞き役だった。
     うん。それで。続けて。
     相槌を打ち、間接照明の夕陽色でより柔くなった色を乗せた瞳を細め、蓮をじっと見つめてきた。
     彼が目蓋を閉じた合間だけ、唇に視線を移す。君が嫌いだと、先週はっきり蓮に告げてきたその唇が三日月を描き、甘くほろ苦いカクテルで湿る。ほんの少しだけ外へ露出した舌が滴を拭った。
     君はどう思ったんだい? 明智が話の続きを乞う。
     蓮は頷く。触れたかった。

     まだ飲み終わってないからと、水の如く薄まったドリンクで粘りに粘ったおかげで、二人がバーを出たのは二十二時ちょうどだった。
     十一月半ばを越えた今日。夜は上着がなければ肌寒い。路地裏に吹き抜けた風は、腹に四杯分のアイスドリンクを収めた蓮の身体を震わせた。
    「飲み過ぎだよ」
     気持ちはわかるけど、と明智は苦笑した。結局、彼も三杯飲んでいる。
    「話していると喉が渇く。自明の理」
    「今日の君はよく喋っていたよね」
    「無辺さんのカクテルと、明智の誘導尋問のおかげで」
    「尋問って、人聞き悪いなあ」
     二人の間で、僅かな緊張が甦る。
     週末には、ターゲットの心を盗み出すため、歪んだ欲望と認知に塗れた異世界を駆け回る。
     その日を越えたならば――
     忘れたわけではなかった。忘れられないから、この時間を重ねておきたかった。蓮はそうだった。明智の方はどうなのか。
     隣の熱をこっそり拝借出来るよう、一歩、距離を詰める。さりげなく半歩、熱が遠のく。半歩、縮める。熱は引かない。
    「まだ、帰りたくない」
     もう一度、囁いた。
     獅子の如き勇気でさえも、ほんの微かに声の調子を狂わせた。
     名探偵はそれに気付いただろうか。
     本当はお前に言われたい言葉なのだと、悟っているのだろうか。
     心を侵食していく切なさから、詮無きことを切に願ってしまう。冬が近いせいだ。
    「――わっ」
     刹那、眼鏡のフレームを掴まれ、乱暴にずり降ろされる。ブリッジと弦を乗せた鼻と耳も、強制的に下へと引きずられていく。黒革に包まれた指先が目蓋の皮膚を掻いたから、反射的に目を閉じた。傷への恐れに先走った涙腺が眼球を潤す。
     湿った音。厚い前髪越しに温かな息がかかった。
     自分とは違う熱が引いていく。熱病を癒やすように、冬めく風が撫でていく。
     不敵な笑みが蓮に注がれていた。太いフレームに遮られたせいで、その瞳は見えない。
    「伊達だから良いよね?」
     眼鏡の位置を正す中、明智が問う。
     蓮は頷かなかった。全然、良くない。
    「帰ろうか」
     明智は靴音を立て、先を歩んでいく。
     二人で何度も通った帰途を、一つの黒い影が揺れる。  
     偽物のレンズに残った指紋が、その背中をぼやけさせた。


    2022.11.17
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