3/14一か月前の今日、奇しくも同じ月曜日。唐突な訪問があったのであれば次はこちらが待ち伏せしてやることにした。
製菓業界、それも小売の営業戦略だなんだといわれても、「もらったからにはお返しよね」なんて母さんが笑うから返礼品なんて用意されてしまっている。
踏切近くの直線道路。ああ、これが第二中里踏切か。Zギアの中に画像として保管された風景に感傷をおぼえながら待っていたら、柔らかい日差しと共に彼がやってきた。
えっ?なんでここに??と目を丸くしている。それもそうだ。だって自分は都内にはいないはずなんだから。
「『来ちゃった』といったらどうする?シン」
「いや来ちゃったってお前そんな…学校よかったのか?」
「どうせ二学期はろくに行けていないんだから変わらないさ。どうせこのあと大宮まで来るんだろう?そのまえにこれは終わらせたくてな」
そういって返礼品の入った紙袋を見せる。紙袋の中身は、「キャンディー」「クッキー」「ロールケーキ」の3つ。正直、物自体は市販品だからきっと口には合うだろう。
不安なのは、自分が試そうとしているこの事実を知られて幻滅されることだ。
蝉が鳴く頃から膨らんだ雀が解けるまで。この期間どれだけ諦念と無言と焦燥で彼らを傷つけたか。何なら一部の運転士たちには「自分という人物は裏切者である」という第一印象のまま、なし崩しにここまで来ているパターンの可能性が0ではない。
負い目、といえばそれだけであるがそう形容するには黒い感覚がまだまだ燻っている。
「ひとつ、『選んでくれ』」
「おれが選ぶの?アブトが選んでよ。アブトからのものなんだし」
「お前への物なんだからお前が選べ」
「えー…それじゃあ、おれは『アブトの選んだものが欲しい』な!」
なんたる殺し文句だ。まっすぐに見てくる蒼眸が自分の弱点を的確に射す。
都内の春の日差しは暖かいはずなのに指先が冷えてくる。
まごついている間に、ダメ押しのような一言が降ってきた。
「どうしても決めなきゃダメかー……『全部くれ』よ、それがいい」
「えっ!?」
「「大宮に行く前」で「数は全部で3つ」だろ?それならあとはハナビとタイジュの分じゃんか。その二人の分だったらエキナカで選ぼうぜ」
「何言って…」
「エキナカ店舗検索…おやつによさそうな品物であれば東京駅構内や大宮駅、周辺でも該当多数でありまーす。ワタシへのQRコードも忘れずにでありますよ?アブト」
「スマットまで!」
「行こう!」
するりと手をとり、駅までの道を二人でたどる。
頬に春の気配を含んだ空気が通り過ぎていく。
春一番よりも強く、自分の黒い何かが吹き飛ばされていくような。そんな感覚だけ残っている。
改札を抜けて、銀色の箱に揺られる。車窓から煌びやかな街の風景が遠ざかったころ、耳元でささやかれた。
「おれからもあるから、覚悟しとけ」
「ああ、わかった」
自然に口角が上がっていた。