第一章 第二話 「襲来」毎日嫌なのに何度も来る朝に怯えていた真夜中に窓が割れる音で目が覚めた。こんな事は生まれてから一度もない。ここから足音は一つだけ。
「大丈夫ですか坊ちゃん!」
僕の唯一の話し相手であり、執事長の爺やだった。何があったのって聞いてみた。
「賊が侵入した模様です。警備員が現在足止めをしていますが、いつまで持つか分かりません。ひとまずここから脱出します。」
そう言って僕を背負おうとした。
「そうは問屋が下さねーぞ。」
「がっ!」
爺やは賊に頭を何かをぶつけられ、前のめりで倒れてしまった。
「だっ、誰?」
爺やを殴ったそいつは僕の問いには答えなかった。でも、代わりにこう言った。
「へー。本当に存在したんだな。桃瀬家の息子って。なら心中の噂は嘘か。」
心中?どうしてそんな噂が流れてる?分からない。
「なんだ?知らねーのか?桃瀬45代目当主は戦死、そのショックで母親と息子が心中したって噂。」
もし、こいつの話を全て飲み込むとしたら、もう両親は存在しない?一番嫌な展開。なんで?どうして?嘘だ。絶対に。
「まぁそんなこと俺らには関係ねー。とりあえず証拠隠滅で死んでもらうぜ。遺言ぐらいは聞いてやる。」
「僕の、」
「ん?」
「僕の、両親は、、、本当に存在しないの?」
「あぁ。そーだよ。」
嘘だ。嘘ダ。うそだ。うソだ。ウそだ。ウソだ。ウソダ。
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウ、ソ、、、ダ、、、!
身体が熱い。気持ちが、溢れて止まらない。何かが。何かがこみ上げてくる。これは何?目の前が真っ赤に染まる。何処を見ても赤。朱。紅。赫。緋。何、これ?今何が起こっているの?そこで僕は眠るように意識を手放した。最後に見たのは赤く染まった賊の姿だった。
目が覚めるといつものベッドの上だった。太陽が真上よりも少し傾いて、開けられた窓から心地よい風が吹いていた。でもそれに反して室内は赤く染まっていた。床を見ると誰の赤で、誰の身体だったのか識別できないぐらい“それ”はぐちゃぐちゃになっていた。まるで猫に美味しいところだけ食べられた魚みたい。そういえば爺やは?あの時に殴られて。
コン、コン、コン
「坊ちゃん、起きましたか?入りますよ。」
ガチャリ
「お目覚めのようですね。貴方様に話さなければなりません。この一族とその力の関係を。」
爺や曰く、僕の一族は代々鬼の力を受け継いでいて、代を重ねるごとに弱まるはずの力が僕はその力を他の代の人よりも強く受け継いでいて、今回の件で目覚めてしまったらしい。鬼になってしまったなら、人間の生活は二度と行える事が出来ない。鬼の生命源は人間の魂で、適度に食べないとお腹が減って暴走するんだって。さらに人間の魂は魔力の源でもあるらしく、多ければ多いほど沢山の魔術や強い魔術を使いこなせる。その力で足を治す事が出来て、外の世界を見る事が出来る。でも、わざわざ相手の有利になる場所で魂を回収する意味は無い。ここにずっといて、森を操って誘えばいい。そしてある一定量の魂が貯まるとなんでも願いが叶う華が咲くんだって。でも誰も咲かせた事がないらしい。だったら尚更、沢山の人間を森に誘って僕の館の中に入れて、沢山殺さないといけない。爺やにどうしてこんな細かい事まで知ってるの?って聞いたら父上から聞いたらしい。
大まかな説明が終わった後、爺やは僕に最初のご飯をくれた。とても美味しかった。今まで食べて来たものが色褪せるくらい。もっともっと食べてみたい。だから、頑張らないと。僕の欲望の為に。