第一章 第三話「遊戯」最初は僕と同じか僕よりも下の子供を館に誘い込んだ。そのぐらいの子は好奇心いっぱいで純粋だから躊躇せずに入ってきてくれた。それが間違いだとも知らずにね。その頃は魔力が無かったから自分の手で殺した。初めて殺した時、今まで感じた事がない程に体が恍惚感で溢れた。心臓がドキドキして興奮した。もっと殺したい。もっともっと。そんな気持ちが膨れ上がった。
そうして溜まった魂で魔術を使ったり、自分から行動したり、たくさんのパターンを作っては遊んでいた。この行動は彼ら人間にとっての最期には最悪なbat endなんだろうけど、僕にとってはただの遊びなんだよね。だから刺殺されようが、銃殺されようがもう驚かなくなった。そのせいで内臓がはみ出している肉の匂いにも慣れて、死体でも泥遊びのように遊ぶようになった。
外の世界では何処かの国の支配者が何人も変わった。戦争が始まって、終わったという記憶を何度も見た。この館に1人で住み始めてから数十年経っているのかな?もしかしたら数百年経っているかもしれない。なんとなく覚えているけど永劫の時を生きる僕には正確な時を数える必要はなかったと思う。
最初の頃に比べたら少しずつだけど大人も館に誘われるようになった。この館に訪れる人間の中にはわざわざ僕を殺しにくる人もいた。それでも僕は焦らずに楽しんだ。だって彼らが此処に来る度に華を咲かせる準備が整うから。そして彼らの死は外で残された人間に怒りや悲しみを与え、新たな人間をこの館に呼び寄せる。そんな無限の連鎖を僕は楽しんだ。
それでも大人が来る確率は変わらない。それどころか多くなった。どうして僕を殺そうと思うのかな?分からないから本人の頭に聞いてみた。抵抗出来ないように短刀を二本突き刺して両手を手錠で拘束しておいたけどね。そうしたら僕は悪い奴なんだって。罪もない人を殺すから悪。子供も大人も全員殺すから悪。だから殺さないといけないんだって。僕は今までして来た事、それからこれからするべき事を考える。確かに君達の目線からだとそう見えるよね。だとしたら僕の願いを邪魔する君達が悪だよ。だから殺すの。えっ?法律で禁じられてる?めんどくさいなぁ。僕は刺さっている短刀の他にもう一本刺した。別に何を理由に殺そうとも関係ないでしょ?だって、猫が気まぐれで虫を殺す事だってある。君達人間が知らない間に蟻を沢山踏み潰す事だってある。理由なんていつも些細な事だよ。そんな法律なんか作って勝手に決めつけて面倒くさい事をしているのは人間だけでしょ?ねぇ聞いてるの?いつの間にかその人はピクリとも動かなくなっていた。彼らが僕に何を言おうとも別に何も変わらない。僕は僕の欲望の為に君達人間を喰らい続ける。それのどこが悪いんだろう?人間が金という欲望の為に人間を殺すこともある。それと同じ。別に僕を確実に殺せる手段があればいいけど、無いなら僕の為に死んでくれる?
最初の頃からどのくらい経ったのかな?朝が来て夜が来て。森の植物は咲いては枯れて。沢山の春夏秋冬が来て。星は並びを変えずに位置だけを変えて廻り続けて。それでもゆっくりと、でも確実に時は流れていると実感した。
この前館に来た大人を殺したんだけどね?暇だったからそいつの記憶を見たの。そしたら前に森で殺さなかった子供だった。え?どうして殺さなかったのって?心の底から恐怖を植え付けて噂を広めるのには大人より子供の方が最適だからね。にしても子供が大人になるぐらい時が経過している。僕は成長しきった死んだ体と自分の体を見比べた。鬼は不老。そう言った爺やの言葉を思い出した。別に寂しいわけじゃないんだけどね。でも喋る相手がいないと言うのは悲しい事なんだと改めて思った。
今日はなんだか小さな筒のようなものを持った人間と棒を持った人間がやってきた。二人の記憶を軽く読み取ったら刑事と看守って言う役職らしい。本で読んだけど看守って確か刑務所で働いてるはずじゃなかったっけ?、、、ふーん。あの看守の刑務所で脱獄囚が出て、捜索途中でそいつらがこの辺りに目撃させたと。それでこの館に。あぁ。あの時の人かな?まぁおもてなしはしたけど。でも僕の知った事じゃないか。彼の話は面白かったな。久しぶりに会話という行為をして、今の外の世界の生活水準も知れたし。
リアムside
フォーグナー刑務所で6番を逃した罰として捜索を命じられた俺は、6番が最後に逃げた街で優秀(?)な刑事と組まさせる事になった。それが天乃。ビビリで生意気で癪に触るような奴だかやる時はやる奴だ。
最後に6番の目撃情報が出たこの森に建つ館は噂程度にしか知らなかった。だが必ず毎年数十人が消えるらしい。噂を信じる馬鹿は心底どうでも良いが目撃情報があった以上潜入しない手はない。森をすんなり通り館を見つけた。玄関は鍵が掛かっておらずそのまま侵入したが、一度入ると此方からは出られなくなった。流石に不味いと思い、玄関の鍵と6番を捜索する事にした。
「そっちはどうだ天乃?」
「特に何も。というか本当にこんな所にいたのかな?」
「目撃証言がある以上捜索するしかないだろう。二階に行くぞ。」
階段を上がり、二手に分かれた。念の為拳銃は全て装填しておくか。
「ゔ、、」
一つずつ部屋を開け、調べていると急に濃い血の匂いがし、顔を歪めた。一階の一室で手に入れたランタンでかざしながら見るとその部屋は辺り一面が血で染まっていた。なぜこんな部屋が?此処なら何かしらの手掛かりがあるかもしれん。気が進まないが調べるか。
「これは、、、?」
サイドテーブルにある血塗れの日記を読むとそこには。
ここにいたら
殺される
朝4時になったら
みんな死ぬ
そう書かれていた。もしや噂を信じた馬鹿の遺留品か?馬鹿馬鹿しい。鬼なんぞ存在する訳がない。だが、あいつなら信じそうだけどな。この日記は置いておくか。にしてもあいつ何処までいったんだ?
「きゃああああぁぁぁぁ!!」
突如悲鳴が上がった。この声はあいつじゃない。だが、だとしたら一体誰だ。
「リアムさん!」
「天乃!聞こえたよな?」
「えぇ、向こうの部屋から。」
「俺が開ける。構えとけ。」
「分かった。」
俺が体当たりをして扉を開けると、そこには。
「ゔぅ、、、」
「何だ、これ?」
そこはまさにこの世の地獄のようだった。先程の部屋よりも辺りは血の海と化し、恐らく人間であったとされる肉片が無数に散らばっていた。流石にこれは堪えるな。
「リアムさん無理しないで下さい。俺が調べるので部屋の外を見ていてくれますか?」
「あ、あぁ。」
職業上こういうのはあったのだろうか。肉片を見る目や血の匂いに慣れている。俺は部屋の外に出て、辺りを見回す。恐らくこの館の中にあの惨状を行った人物がいる。常に拳銃を構えておくか。
「リアムさん、終わりましたよ。」
「どうだった?」
「何も。鋭利な刃物で出鱈目に斬られたとしか。だけど刃の向き的に小柄な人だと思います。」
「なるほどな。次に行くか。」
「はい。」
そう返事をした天乃と別の部屋に行こうとした。だが、それは叶わなかった。
「危ない!」
「なっ!?」
曲がり角でふと刀が振り下ろされた。間一髪、天乃に腕を引っ張られたおかげで無傷だったが、あのままいたら首を切られてきただろう。
「誰だ!!」
一歩下り、向き直るとそこには”鬼”がいた。銃を構え、警告を出す。
「止まれ!」
天乃も拳銃を取り出し、"鬼"に銃口を向けた。俺は威嚇射撃で奴の足元を一発撃った。だが、止まる気配はなかった。心臓を狙おうとしたが天乃が先に脚を撃ち抜いた。
「ぅぐ、、」
苦しむように声を上げ、跪く鬼。警戒しながら近寄ると、突然何事も無かったかのように立ち上がった。これを見て嫌な予感がした俺は天乃に対して叫ぶ。
「天乃!殺すつもりで撃て!」
「分かった!」
それから下がりつつ腕や肩を撃つも怯むばかりか倒れなかった。このままだと弾薬が切れる。
「一度引くぞ!」
だが、それは叶わなかった。"鬼"の飛ばした短刀が天乃の右太腿に突き刺さったのだ。まるで糸が切れた人形のように倒れ込んだ。脚から血が出ていくのが分かる。痛みに悶えながら天乃がの自身の拳銃を俺に投げ渡す。
「天乃!?」
「逃げて!リアムさん!」
「だがっ!!」
「いいから!行け!!リアム!!!」
「っ!!」
倒れながらも真剣に、初めてさん付け無しで言うから俺はその場を走り去った。生きてここを出なければ。あいつが、命を張ってまで生かしたこの命だけは。
天乃side
俺は、ここで殺されるのか?右脚から血が止まらずに溢れるのが分かる。このまま何もしなくても俺は死ぬだろう。だけど、まだ駄目だ。刺さっている短刀を無理矢理引き抜き、"鬼"に向き直る。その時“鬼”は目を少し開いたと思う。まぁ短刀を抜いたら更に出血するからね。でも、これが俺の覚悟だ。近接は得意じゃないけど、時間稼ぎぐらいはできるでしょ。
「来いよ。相手してやる。」
あの人を、リアムさんを生かす為に。出来るだけ抗うんだ。
「がは、、、」
リーチの差のせいもあってあまり時間は稼げなかったけど、この距離ならいける。俺は密かに隠し持っていたもう一つの拳銃で"鬼"の頭、首、心臓、肩、腹、脚を連発して撃った。これでどうだ。だけど、俺も限界だ。視界がぼやける。このまま目を瞑って寝てしまいたい。背後にある壁に寄りかかり、座り込む。
「、、、はは。」
短い笑い声が聞こえた。顔を上げてみると。
「っ!?」
そこには無傷の"鬼"が立っていた。ごめんなさいリアムさん。俺は、どうやらここまでみたいです。"鬼"が俺に近づき、刃先を顔に向ける。もう隠してる武器もないや。
「言い残す事は?」
そうだな。まだまだ小さい弟を残して逝くのも、初めての恋人を置き去りにして逝くのも、一番の親友の元に逝けるのも、こんな俺と仕事をしてくれた仲間にお礼を、全部言いたい。だけど、これだけは。これだけは声に出して言いたい。
「リアムさんの、無事を祈ります、、」
そう言った。どうか、どうか無事に出られますように。刀が俺の首目掛けてくるのを見てから俺の視界は暗転した。そしてその視界は、二度と明るくならないだろう。
リアムside
「あった!」
書斎に保管されていた玄関の鍵。これを使えばここから出られる。だが。
「くっそ、、」
天乃は、どうなったんだ。あの時、刺されるのが俺だったら。、、、はは。俺がこんなにも感情的になるなんてな。、、、後悔は後でする。今はここから出る事を第一目標としよう。玄関に続く廊下を走ると不意に背後から気配を感じた。振り向くと、そこには血塗れの"鬼"がいた。左手には刀を、右手にはあいつがいつも身につけている黄色のスカーフを持っていた。だがそのスカーフは所々血飛沫がついていた。それが意味する事は一つだけ。
天乃は、死んだ。
それだけだった。今になって激しい後悔が俺の中で渦巻く。くそ、今は集中しろ。"鬼"が俺に刀の先を向けた。それと同時に拳銃を構える。膠着状態が続いた時。
「リアムさんの無事を祈ります。それが、最期の言葉。」
突然、"鬼"が喋り始めた。俺の無事を祈るだと。なんで俺なんかに。
「家族や恋人ではなく、君に対する言葉を最期にした。なら、その願いを叶えよう。君を特別に逃す。」
「は?」
「感謝してよ。僕は慈悲深いからね。」
突然、視界が館内から外へと変わり、何故か空中にいた。
「な、、」
そのまま体は重力に従って真っ逆さまに落ちていく。だが下は滝壺だ。これなら生きられるだろう。いつの間にか手に持っていたあいつのスカーフを握り締めながらそのまま滝壺に落ち、視界が暗転した。
やれやれ。まさかこんな事になるとは。魔術で適当な滝壺の上に瞬間移動させたから生きてるだろう。、、、食べるか。刑事だった死体の元へ行き、じっと見つめる。頭と身体が離れたその顔はどこか穏やかだった。こんな状況でも他人を思いやれるなんて凄いなぁ。僕には考えられない。僕の知る危機的状況に陥った人間は、生きる為なら仲間も蹴落とすかと思ったけど、自己犠牲する人間もいるみたい。なら少し、別の魔術も作り上げないと。だけどその前に、腹ごしらえしないとね。