《とある手記》前編やぁ初めまして、だろうか。お前に会うのは恐らく初めてだろうが、こんな物を読もうとするお前は随分と変わり者なんだろうな。これを何処でどうやって入手したのか定かではないが、これの内容を簡潔に言うならば、これは俺の起こった出来事を忘れないようにする為に書き留めたものだ。この時点で思っていた内容と違ければ捨てろ。それでも読みたいのなら止めはしないがな。それでは内容に移るとしよう。
一番幼い記憶は深い森の中で狭い家に母と呼びたくない女と兄と一緒に暮らしていた事だ。あの女は前国王と愛人関係を持ち、その果てに俺達を身籠った。これをお前が読んでる年数は知らないが、これを書いている段階での現女王であるイロアス女王陛下と俺達は異母兄妹だな。まぁ、あんな女の血が混じらなくて幸運だな。
話を戻そう。そしてあの女は王の子を孕んだという重圧に耐え切れなくて逃げた。だからこそあんな山奥に暮らしていたのだと今なら理解できる。だからこそ、買い出しの帰りに山賊に襲われ殺されたのも自業自得だと言うしかない。
育手が居なくなった事により近場の村の連中の手によって俺達は孤児院に引き取られた。そこはぱっと見はしっかりしていてな。飯も3食、風呂もあって読み書き計算まで習わされた。当時としては珍しいしっかりとした孤児院だった。だがそれは裏で人攫いに売る為の手段でしかなかった。そして俺と兄は別々の場所に売られた。
まぁこの出来事で俺達の人生は分岐したな。兄の詳細は知らないが、ここには俺の体験してきた全てを話そう。どうせこれをお前が読んでいる時には俺はもう死んでいるからな。知らない誰かの過去を読むという変わり者でもいなければこれは朽ち果てるだけだからな。
おっとすまんな。俺は時々話を脱線させる癖があってな。話をするにつれてまた脱線するかもだが、つまらなければ捨ててしまえばいい。それでもなお読みたいお前はやはり変わり者なんだな。まぁ良いだろう。
人攫いに連れられた場所は国で禁じられている奴隷を使って希少価値のある鉱石を採掘する鉱山だった。そこには俺のように連れ去られた奴らが大勢いてな。男も女も子供も全員生きた屍だったよ。肉体は殆ど骨と皮だったり、まともに食事も与えられない。毎日重たいピッケルを持たされて掘り続ける。与えられたノルマをクリアしなければ食事を抜かれ、全身に鞭を打たれる。時折熱に炙られた鞭で打たれた事もあったな。今でも身体中痕が残ってる。食事を与えられたとしても殆ど残飯と言われるような代物ばかり。具体的には一部腐ったパンや食いかけの果物だったりが多かったな。だがそれを我先に奪い合う姿を見て、こうはなりたくないと強く願った。
外の景色を見る事が一切無かったからはっきりと分からないが体感で2年経ったある日、見張り人に呼ばれて連れられた場所は当時見た事のないほどキラキラした部屋だった。そこは本当に全てが輝いて見えた。そして今日初めて俺を攫った奴の顔を見た。そいつは俺の顔、いや俺の眼を見てこう言ったんだ。
「是非この眼をコレクションの一つにしたい!」
とな。もう分かるだろ。そいつは眼球コレクターだった。俺の眼の色はその国には珍しい、黒曜石のようにな純粋な黒い眼だ。お陰ですぐに左眼をくり抜かれて、一生右眼だけで生活する事になった。
初めは大分苦しかったな。左側が見えないから坑道に気付くのも遅れ、結局ノルマを達成出来なかった事が多かった。その度に鞭で打たれ、時折炙られた鞭や、酷い時は熱された鉄の棒を押し当てられた。その頃からいちいち感情を出すのを諦めた。本能のまま動く獣より、命令に忠実に従う人形の方がまだマシだった。
そしてまた体感で1年経ったある日、今度は別の分野の偉い奴の場所に一時的に滞在する事になった。そいつは俺の腕や脚を見るなり
「あぁ可哀想……まともに食事を与えられず、挙句の果てにはこんなに傷をつけられて………」
そいつは自分より酷い目にあってる奴を救出する事で生き甲斐を感じるクソみたいな外道だった。そいつのせいで鉱山より更に地獄のような日々を送る事になった。食事は俺に足りない栄養素だけが詰まった大量の食事。前までの細々とした食事で収縮してしまった胃では到底食べ切る事が出来なかった。それを見てそいつは無理矢理俺の口のなかに食事を詰め込んだ。勿論吐いた。食わされて吐いて、また食わされて吐いた。
そして、全て食べきれなかった罰として。いや、この内容は伏せておこう。書いてるこっちも読んでるお前も気の良いものでは無いからな。いやでも、俺の過去を忘れないようにする為に書くという目的に反するか。仕方がない。本当に簡潔に言おう。食べきれなかった罰として俺は性的暴行を加えられた。それだけだ。
その事態を確認した眼球コレクターは救出外道に俺を売り渡し、俺は仕事場を移る事になった。この場所は表向きは病院だが裏では臓器販売をやっていた。今の時代では臓器関係の手術は比較的簡単になったが、当時は死ぬ確率が高いハイリスクな手術だった。だが人間の臓器は一部の貴族では珍味らしくてな。移植以外で食事や鑑賞などの目的で多くの人間が訪れてきた。
そこでの俺の仕事は臓器を抜かれたモノの後処理だった。山に行ってモノを埋める。そこに墓石なんか無い。埋めた後はただ土が盛り上がっただけだ。そう思わなければいけなかった。
後編に続く