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    (塩)

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    (塩)

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    ジュンブラの無配②になるはずだった蘭武でした。内祝シールに灰谷のハンコ押した自己満足な装いでご用意していたので、次の10月のイベントにて頒布したいなー!と目論んでおります。紙で欲しいと仰ってくださる方はよろしくお願いします。

    #蘭武
    lanwu

    ハッピーブライドマリアージュ「竜胆、今週の土曜、いける? つーか、空けといて。タケミチ来るから」
    「は? わざわざ言うのめずらしーじゃん。いつもは勝手に遊びに来ンのに。その日ねー……夜は予定あるからそれまでならいーけど」
     神妙な表情を浮かべて、蘭が竜胆へ告げたのは月曜日の夕方のことだった。兄がオキニのガキンチョを家へ呼ぶのはよくある日常と化していたので一々弟にお伺いなんて立てられたことはない。竜胆は訝しんだが、ケータイのスケジュールアプリを確認しながら素直に答えた。蘭は続け様に言いかけて、少しだけ口籠もる。
    「ケッコン、」
     その単語を聞いた瞬間、竜胆の脳内では最初漢字変換ができなかった。
    「え?」
    「籍、入れようと、思って。その挨拶」
    「……は、はあぁぁ⁉︎」
     視線を逸らされながらも言われた言葉を噛み砕いて咀嚼して飲み込んだ。理解したと同時に竜胆の口から溢れ出した叫び声はリビング中に響き渡った。
     
       *

    「ほ、ほほほんじつはお日柄もよく……‼︎」
     決戦は金曜日、ならぬ土曜日。ダイジョウブと三回手になぞって飲み込んできたかのように武道はいつになく緊張した顔つきをしていた。普段よりほんの少し早く起きてきた蘭の表情はいつもと変わらず、しかし格好はスウェットではなく、シンプルな黒の布地に浅紫と銀色の花の刺繍が入った上品なセットアップ。先月、長年慣れ親しんだ長い髪を短くカットしてきて黒のショートを披露したかと思えば、今は紫へと染めてオールバック。バチギメである。リビングに置かれたソファに腰を下ろした蘭の隣をガチガチに固まったタケミチが座る。こちらは対のように浅緑と金色の刺繍が施されている。花は同じ、蓮の花。一本の茎に二本の花が咲いている双頭蓮が二人の胸元を美しく飾っていた。大変めずらしく吉祥花と云われているが、竜胆は知らぬことだ。この二着はタカシミツヤブランドによる完全オーダーメイド。蘭語録による依頼は当時の三ツ谷を大変イラつかせたのだが、
    『二つの新しい星が生まれるようなさァ、誕生バースを感じさせるデザインにしてよ、三ツ谷。それぞれに似合うカラーはオマエなら分かンだろ?』
    『人間の言語を喋れ。●ね。タケミっちの頼みじゃなかったら秒で断ってんぞ、テメェこれからの人生、オレという存在に感謝しながら生きていけ。でなきゃ●ね。お前のカラーなんて思い付かねぇわ、オレンジ?』
    『人から感謝の念を抱かれるのは寧ろオレの宿命だって知らねェ? 三ツ谷の色彩センス死んでンね。ロイヤルパープル♡タケミチはペールグリーンな』
    『●ね』
    『これからタケミチと共白髪まで生きる♡』
    『死ね』
    『三ツ谷くぅん⁉︎』
     今は全く関係ないことだ。数ヶ月かけたセットアップスーツは無事に完璧に納品され、限られた場面にだけお披露目されている。つまり、めちゃくちゃマジの結婚のご挨拶なのである。竜胆はずり落ちそうなメガネをかけ直した。
    「あー……いや、まァ、予想に反して何年も付き合ってたからこうなるんじゃねーかとは思ってたけどさァ……ここまでキッチリしてくるなんて考えてもみなかったわ」
    「だってゴカゾクにはケジメつけてーじゃん」
    「ん? ということはハナガキの両親にも挨拶するってこと⁉︎」
    「それは先に済ませた。先週の日曜に」
    「……あ! 髪切って黒にしてたの、そのため⁉︎」
     それが済んだから紫に染めたのか、竜胆は呆れたように天井を仰いだ。まさか、あの兄が。真人間みたいにジョーシキ的な行動をしていただなんて。
    「真っ黒な蘭くん、新鮮だったんスけどね。今のもカッケェけど」
    「オマエのオカーサンに気に入られるためならこれぐらいするわ。……ママ、帰ってからオレのこと何か言ってた?」
    「何かってなんスか。逆に蘭くんの黒髪にびっくりしてましたよ。いつもの髪色じゃない⁉︎ って」
    「こーいうのは見た目が大事だろーが」
    「そう思ってオレも黒くしてきました!」
     じゃん! と武道が自分の頭を指差す。ヒヨコみたいな金髪は鳴りを潜めて今は至極真っ当な黒髪だった。バカだ、竜胆は思ったが、口には出さないでおいた。ここまでするか、という気持ちでいっぱいのこちらとしてはそんな軽口を叩く余裕がなかったとも言える。
    「ということなので、お兄さんを幸せにします‼︎」
     いつものバカそうな笑顔から一変、キリリと大きな瞳でジッと竜胆の目線と合わせた。瞳を覗き込まれる。その力強さに抗争で相対した、かつての武道が想起させられた。窓の外は吸い込まれそうなほどの真っ青な空が広がっている。雲一つない快晴。太陽の光が差し込んで青色の瞳がキラキラと乱反射していた。竜胆にはひどく眩しかった。
    「……兄貴がさァ、結婚の挨拶に来るからって言ったの今週の月曜でさ。普通五日前に言うか⁉︎ って感じしねぇ?」
    「だってェ、キンチョーしちゃってさァ。前日よりはマシだろ?」
     眉間に皺を寄せて、恨めしそうに向かいの蘭を睨み付ける。本人はどこ吹く風と自分の指を隣の武道の手に絡ませて遊ばせながら悪びれることなく言い放った。弟の抗議なんて毎回些細なことだからだ。武道は黙って聞いているように見受けられた。
    「聞いたオレが最初にどうしたと思う?」
     数日前まで雨ばかりの憂鬱な日々だったくせに、ここ数日は梅雨晴れが続いていた。兄ちゃんって晴れ男なんだよなァ……どうでもいいことが頭に浮かぶ。武道は見当もつかないのか首を傾げている。
    「結婚の挨拶に出しても大丈夫な料理って何か検索したんだよ」
     よく分からなくて、とりあえず普段よりちょっと豪華なのでいいやって落ち着いたけど。竜胆はなんだかふいに気恥ずかしくなって二人から少しだけ視線を外した。ちょうどその先にあった壁掛け時計の秒針を見つめる。
    「どーせなら素材からこだわりたくて、オレ翌日朝の六時から築地に殴り込んだんだわ」
    「え⁉︎」
     とても忙しない週だった。早速火曜の早朝に知り合いのツテを通じて、青果と水産関係の仲卸から一番の食材を購入した。水曜には品川の食肉市場でいつも高ランクの枝肉を競り落としている業者に繋がりのある飲食店のオーナーを顔見知りに紹介してもらった。兄はともかく武道は魚より肉派だ。サラダに使う予定のローストビーフはグラム当たりン千円、メインであるステーキ肉はそれ以上。付け合わせのジャガイモとニンジンは北海道産と千葉県産。新鮮なエビやホタテはシーフードアヒージョとしてふんだんに使う予定だ。
     その道中で九井と乾に出会ったことを思い出した。何故か築地の魚河岸で。向こうは旬の穴子やイサキ、初鰹を吟味しているところだった。
    『ココ、花垣にはこれとかいいんじゃねぇか?』
    『イヌピーが言うなら間違いねぇよな。オイ、コレもくれ』
    『……何してンの』
    『灰谷弟? ……嘘だろ、オマエ何でこんなとこにいんの?』
    『何だっていいだろ。ちょっと入り用なんだよ』
    『……とうとう花垣は決心したんだな』
    『マジかよ。ということは今度の休みにでもボスがテメェの兄と結婚するって挨拶に来んのか⁉︎』
    『何で分かンだよ‼︎』
    『ウワァ宇宙で一番趣味悪りぃなボス灰谷兄は死ね』
    『花垣が幸せならオレは灰谷蘭でもいいぞ、花垣本人が納得してるならな』
    『イヌピー聖人君子かよ感動しかしねぇボスはイヌピーとオレと幸せになるべき灰谷兄は死ね』
    『ココ、早く済まそう。花垣の胃袋掴みにいくんだろ』
    『イヌピー……灰谷みてぇな港区男子なんてどうせ程々の肉食わしとけばいいって考えだろうしな。こっちは最高級の和食でボスを持て成そうぜ灰谷兄は死ね』
    『聞き捨てならねーんだけど⁉︎ ハナガキはオレの手料理の虜だから早く諦めろや‼︎』
    『今時秒速離婚もめずらしくねぇよ灰谷弟も死ね』
    『ココ、花垣が穴子丼食いたいって』
    『この店で一番いい天然穴子三尾くれ‼︎』
     それはさておき。どうせならこだわるだけこだわろうとして、木曜には山梨へ移住した知り合いの知り合いが作り上げたピザ窯で自家製ピザでも焼いてやろうと足を運んだ。武道は灰谷家で食べる宅配ピザが大変お気に入りなのである。デリバリーより美味いの作ってやる。彼なりの意地だ。トマトとサラミ、バジルとチーズをたっぷり乗せたピザ生地を預けて、ホカホカに焼き上がった大判サイズのピザは今日の午前中に到着済み。
     竜胆本人は昨日から一日中キッチンに篭って準備に勤しみ、酒を一滴も口にしていない自分に驚いていた。料理酒はコップ一杯だけ。あくまで味見である。味見。あっという間、息つく間もなく過ぎ去った四日間だった。そんな苦労なんて蘭と武道は絶対に知り得ないし、竜胆も知ってもらおうとは思っていない。
    「普通は出前の寿司でも、ってネットにはあったんだけど、オマエはオレのメシの方がいいだろ?」
     ちなみに元々の予定もキャンセルした。身内の結婚のご挨拶以上に優先すべき用事なんてあるわけなかった。
    「竜胆くんのご飯がいいです! で、でもまさかこのテーブルにあるの全部……?」
    「めちゃくちゃ豪勢じゃん。サンキュー、竜胆」
     所狭しと並んだ皿の数に武道は目をキラキラとさせている。オニオンソースのかかったローストビーフサラダ、焼きたてバゲットとニンニクの匂い香る海鮮アヒージョ、バター醤油で味付けした厚切り肉のステーキ、牛乳とバターをたっぷり入れたマッシュポテト。酒は当たり年のシャトー・ランシュ・バージュ、お子ちゃま用のジュースは輪切りレモンを添えたジンジャエール。些か作りすぎた気がするが、一生に一度のことなので許してもらえるだろう。蘭と武道の表情を見ればここ数日の苦労も忽ち昇華されたように感じた。我ながら単純だと呆れてしまいそう。
    「あーあ、オレもとうとう一人暮らしかァ」
    「何言ってンの」
    「何言ってんスか」
     異口同音に紡がれた言葉に竜胆は怪訝な表情を浮かべた。当然のように彼の一人暮らし計画案はすぐさま廃案に追い込まれる道しかないみたいだ。
    「蘭くんを幸せにするには竜胆くんのことが欠かせないと思ってるんで、結婚しても三人で暮らすのは決定事項スよ!」
    「マジかよ」
    「寧ろ竜胆は今更一人暮らしできるー? オニイサマを放ってさ」
    「毎日が心配で死にそう」
     主に栄養面の。この二人、竜胆がいなければレトルトか出来合いかジャンクフードばかりになりそうである。せっかくこのオレが苦労して作り上げた兄の完璧な身体をみすみす不健康にさせてなるものか、ハナガキも長く生きてもらわなければ困る。自身の平穏のために。竜胆は意見を曲げたことのない蘭の顔をそっと窺った。薄色は綻び、竜胆の知らない表情を浮かべている。左手はさっきから隣と絡まったまま。見たことのない、兄の姿だった。
    「三人で楽しく暮らすのオレは大歓迎です‼︎」
     武道もそれを当たり前かのように受け入れていて、竜胆は二人はまともじゃなかったと改めて思い知らされてしまった。勿論悪い気なんてするわけなかった。
     
    「蘭くんね、オレの家に最初に遊びに来た時、梁に頭ぶつけたんスよ」
    「は?」
     お子ちゃまの手にはいつの間にか赤ワインのグラス。オマエのソレは葡萄ジュースじゃねーよ、と頭を抱えたが、後の祭りだ。事故だろう。諦めて武道のグラスにおかわりを注いでやった。蘭は出来上がりすぎて今はもうスヤスヤ夢の中である。盛られた料理は大半が平らげられて、空っぽの皿ばかり。竜胆は自分用にと追加で用意した生ハムとチーズの盛り合わせ片手に酒を呷る。頬を赤く染めた武道の口は止まらなかった。上機嫌に竜胆に笑いかけてくる。肩を組まないでほしい。兄ちゃん一生寝てて……切に願った。
    「オレん家、古い家なんで全体的に天井低いんですよね。ウチ、そこまで高身長の家系でもないんで困ったことなくて」
     ケタケタと笑い上戸を披露する武道の言葉に大人しく耳を傾けた。ワインが美味い。生ハムの塩気とゴルゴンゾーラチーズのマリアージュ! 最高! 竜胆も強かに酔っ払っているらしい。
    「でもそれも最初の一回だけ。あとは慣れたのか大丈夫だったんスけど……この前、挨拶に来てくれた時、またぶつけたんスよ。思いっきり。慣れてるはずなのに」
     武道は嬉しそうに、ゆるゆるに蕩けた顔で告げる。頬が赤いのは酒のせいだけではないと思えた。
    「オレその時、蘭くんのこと好きだなぁって惚れ直したんスよねぇ」
     キラキラと輝く笑顔に竜胆の口角が緩む。寝ているはずの蘭の口元も何故かゆるゆるだ。
    「オレもハナガキに言いたいことあるんだけどさ……」
     兄貴をよろしくな、とか、そんなありきたりで小っ恥ずかしいセリフなんて言いたくなかった。自分が言わなくても武道は蘭を幸せにするし、蘭も武道のことを離してやらないだろうから。
    「黒龍の奴らと食った穴子丼と今夜のメシ、どっちが美味かった? 絶対オレの方だよな?」
    「へ?」


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