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    🧁の健全な小説、🔈🧢がこっそりと何かしているところを🍰くんが気にかけていて…?
    uiga(@wg_6251)さんの https://poipiku.com/600098/6630048.html こちらのイラストの上から6枚目と7枚目をお借りしました!
    🔈🧢が何を作っているのか、クイズと思って良かったら皆さんも考えてみてください(?)

    ありがとうの音を込めて 人工的な闇に包まれ、人工的な光に照らされている電子の世界、サイバーワールド。その世界の内の一つの土地、サイバーフィールドの一角に一際目立つ店が経っている。三人組の音楽ユニット、スイート・キャップ・ケーキのジャンクショップだ。普段は店内から騒音や賑やかな会話、惹き込まれる音楽等が聴こえるが今はそれらも大人しい。その静けさを象徴するのは、照明に照らされた制作室に籠って何やら作業しているスイートとキャップの姿だ。スイートはパソコンと向き合って打ち込み、キャップは床に座って箱型の物体に色を付けている。然程大きくもないキーボードのタイピングと無地の茶色い箱を彩る為に絵の具で塗る筆の音は、操作している者が沈黙を貫いていることもあり室内でハッキリと響き渡る。
    「スイート、交代してくんね?手が疲れた……」
     キャップは口を開くと、筆をパレットに置いてから体を伸ばして腕を上げる。彼の言葉の裏を、スイートはすぐに読み取る。面倒臭いしそっちの方が楽そうだ、と。作業を押し付けるように要求してきたキャップに呆れて溜め息を吐きながらも、スイートは打ち込む手を止めることはしない。
    「オレなら完璧にできると得意げに言い張っていたのは誰だ?」
     作業の分担を決める際、工作なら任せろとキャップは自信満々に自ら役割を担ったのである。作業開始日序盤まではハミングを口遊む程度には余裕をアピールしていたのだが、日に日にその鼻歌は聴こえなくなった。本格的に集中し始めたのだろうかとスイートは感心したが、悶々とした様子を表す声をキャップが漏らし始めたことでその考えはすぐに撤回した。始めてすぐに投げ出さなかっただけマシだろうと思ってはいるが、それを口にすればキャップは調子に乗るかもしれないとスイートは敢えて口にしていない。
    「何の為に作っているか、それを思い出してもっとやる気を出せッ」
    「あのなスイート、その為に作っているからこそデリケートなこの作業はより気力を消耗するんだよ」
     喝を入れようとするスイートの発言に、キャップは屁理屈をこねる。キャップが現在進めている作業は慎重且つある程度速く手を動かせる器用さを必要とするものだ、コンピューターを使った作業と異なり巻き戻しという巻き戻しができないのが彼の神経をすり減らしているのだろう。スイートはキリのいいところでタイピングする手を止め、回転椅子を動かしキャップに振り返る。
    「自分からやると言っておいて言い訳をするな。それに、そんなにも綺麗に塗れているじゃないかッ」
     ここまで来たのだから交代するよりキャップが最後までやり遂げた方が良い出来になるだろう、とスイートは続けて発言する。彼の視線の先は、キャップが持っている箱型の物体だ。内側の着色にはブラックをメインにブルーとバイオレットも使用されている。暗い色ならば多少は利くであろう誤魔化し、それがないと一目で分かる程丁寧に色付けされている。ブラックが他色を塗り潰してしまわないよう、余程気を遣ったのだろう。
    「褒められるのはいい気分だけどよ、この作業ずっとしてて疲れたのは事実なんだよ」
     キャップは側に置いてある水の入ったバケツへ筆を入れ、軽く揺らして洗う。揺れの動きに合わせて水面も揺れ、そして色を少しずつ変えていく。洗浄に何回も使用したことで水は当然濁っており、半透明の状態だ。その濁り具合はキャップの疲れを反映させていると言っても過言ではないだろう。
    「なら休憩すればいいだろう、別に休むなとは一言も言ってないぞ」
     二人が現在手に付けている作業は、仕事でも趣味でもない。だが、仕事でも趣味でもどちらとも言えない作業でも休憩は必要だ。休憩なくして捗る訳がなく、スイートはキャップに体を休めるよう促す。しかし、キャップはそういう訳にはいかないと首を横に振った。
    「ほら、ここ最近はこの部屋に籠ってる時間なげーじゃん?だから、さっさと終わらせないと──」
    『ただいまー』
     ある声がスイートの真横の壁に設置されているスピーカーから通す形で割り込み、キャップの発言を遮る。割り込んできたのは、K_Kだ。売り込みから帰ってきた知らせの声が制作室内に流れたその直後、スイートとキャップは慌てて作業に使用したものを片付ける。スイートは打ち込みをしていたファイルを上書き保存して画面を閉じ、キャップは部屋の隅で厚紙を床に敷くと、物体の絵の具が乾いている側面を下に向けて慎重に置く。そして、【オレ以外開封厳禁】と書かれたシールが貼られている箱型の蓋を被せた。
    「オレが先にK_Kを出迎える、オマエは使った物を片付けてから来るんだ!」
    「わりぃ、サンキュー!」
     スイートの指示を受け、キャップは雑に筆が突っ込まれたバケツや塗装用の道具を持ち出すと急ぎ足で整備室へ向かっていく。スイートはその他にも使用された小道具を簡単に片付けてから制作室を飛び出し、廊下を駆けていく。長い通路にはK_Kの姿がなかった為そのまま真っ直ぐ走り売場に顔を出そうとした、その時だ。重量の金属と思わしき何かがぶつかった音が、売場から鳴り響く。
    「わッ何だ何だ」
     何が起こったのか、突然の轟音にスイートが目を丸くしていると、K_Kの横向き姿がやや不安定に揺れ動きながら姿を見せる。若干ふらついているその原因は、K_Kが持ち運んでいる分厚い鋼鉄板だ。横幅はK_Kよりも広く、およそ140センチといったところだろう。厚さは目視でも2センチ程で、高さは流石にK_Kを下回っているもののそれでも2メートル近くはある。薄くても縦と横の幅がとても広いのだ、バランスを取りにくいのも無理はない。
    「け、K_Kッ!オレも手伝うぞッ」
     スイートは、通行の邪魔にならないように若干距離を取ってから声をかける。一目で分かる程重量ある鋼鉄版を一人で運んでいるのだ、いくら身長が遥かに高いK_Kでも持ち運びに苦労するのは可笑しくも何ともない。
    「助かるよスイート~。ボク一人でこの板を運ぶから、こっちの袋持って倉庫のドア開けてー」
     そう言ってK_Kが差し出してきた手首には、袋が2つかかっている。硬貨のぶつかり合う音や薄い板が擦れ合うような音が聞こえることから、中に入っているのは収入金と売れ残ったCDベーグルだ。
    「分かった……!だが、ムチャはするんじゃないぞッ!途中で立てかけてもいいからなッ」
     袋を受け取り、スイートはK_Kを倉庫へ誘導する。鋼鉄板を共に運ぶことが一番したかった手伝いではあるが、一枚の大きさや重さから無理にでも手伝おうとすれば却って足手纏いになりかねないだろうと、スイートは己に言い聞かせる。二人分の足音と、時折聞こえる重い鋼鉄の地に触れた音が暫し不規則なリズムを奏でた。
    「スイート、お手伝いありがと~」
     倉庫からスイートに続いてK_Kが出てきて、ドアが閉じられる。途中でアクシデントが起こることもなく、鋼鉄板を倉庫へ収納することが出来た。問題なく事が片付き、スイートも安堵の息を吐く。
    「ところで、あの板はどういった経緯があって持ち帰ってきたんだ?」
     スイートは首を傾げ、持って帰ってきた本人に疑問を投げかける。K_Kによると、アドソンが店の在庫置き場の補強にこの鋼鉄板を利用したらしい。しかし、予備の板は使うことなく余ってしまった。誰も引き取ることがない為粗大ゴミとして処分しようとしたところ、K_Kを見かけて譲ってきたようだ。尚、頑丈でマシン造りの材料に向いている為お礼としてCDベーグルをいくつかアドソンに譲り交換したらしい。持ち帰るまでの距離は、“近道”を利用したことで問題なかったとのことである。
    「そうだ、スイートが質問してきたからボクもするね~。最近、キャップと一緒にこっそり何かしているけど──」
    「ッ」
     K_Kからの突然の質問返し、そして質問の内容に、スイートはK_Kが発言し終える前に動揺を露にする。何と答えるべきか、スイートは俯いて沈黙してしまう。実は、ここ最近制作室に閉じこもっている理由が長いのは彼に関係がある。間違っても害を及ぼすようなことではないが、今はまだ明かすタイミングではない。
    「…………」
     しかし、嘘を吐けばK_Kを騙してしまう。自分達の関係がギクシャクするのみで騙すメリットは一切なく、それだけは何としても避ける必要がある。K_Kは表情という表情を曇らせることなくいつも通りのマイペースな雰囲気で首を傾げているが、それが逆に気まずさを深刻にしていた。沈黙を長引かせまいと、スイートが必死で思考回路を巡らせているその時のことだ。
    「おー、K_K!売り込みお疲れさん!」
     バケツとパレットの片づけを終えたキャップが、ようやく出迎えに来た。来るまでの時間が若干長く感じたが、絶妙なタイミングで沈黙を破ってくれたこともあり、スイートは口出ししないことにした。
    「ただいま~、今日はなかなかの収入だったよー」
    「マジでスイート、ちょっと失礼」
     良くも悪くも資金稼ぎに一番の熱意を持っているキャップは、スイートが持っている収入金の袋を手に取って揺らす。少し籠り気味な、幾多もの硬貨と硬貨が接触する音が無音の廊下に鳴り渡る。少し音を響かせてから、キャップは口端を上げた。
    「ヘヘ……ヘッヘッヘ、K_Kよくやったいやーオレ達活動頑張ってますって偽りなく主張できるこの音、キモチいいもんだぜ!」
     キャップは、サングラス越しに満面の笑みでK_Kへグッドサインを向ける。K_Kもまた、いつもの緩い雰囲気で歯を見せつつ笑みを浮かべて親指を立てた。売り込みして稼いできたのはK_Kであり、普段ぼったくり価格で売っている者が偽りなくなどと言っても説得力がない。スイートはそう心の中で突っ込みを入れ、呆れながらキャップを見ている。
    「じゃ、今日の後のことはぜーんぶオレらに任せてK_Kは休んでな!メシの時はちゃんと呼ぶぜ!」
     袋の重さから伝わる収入の多さで上機嫌なキャップは、スイートの腕を引っ張ってその場から去る。スイートは強く引っ張り過ぎだと声を上げながらも、抵抗する様子はない。自分の質問を覚えており、疑問が晴れていないK_Kは遠ざかっていく二人を不思議そうにそのまま見つめるのだった。
     キャップがスイートを連れて入ったのは、点検やメンテナンス、大型のマシン造りをする時に使われる整備室だ。ここならば、先程自らが発した言葉を怪しまれることもない。二人はテーブルに袋を置き、キャップが室内の奥からスツールを運ぶ。並んだ二脚のスツールに腰をかけると、両者は安堵の息を吐いた。
    「スイートってああいう時ホンットーに不器用だよな。ま、K_Kのことを騙したくねーのはオレも同じだけどよ」
    「……聞いていたのか」
     片付けてから来るように指示したとはいえやけに遅かった理由が判明したこと、そして鋭い指摘にスイートは頭が上がらなくなる。キャップが見計らって割り込んでこなければ、K_Kの真っ直ぐな瞳に敵わずあの拍子に言ってしまっただろう。
    「そろそろ追い込みをかけなければ……」
     スイートは、申し訳なさそうにドアへ視線を向ける。当人からの質問に答えられなかったことを気にしているのだろう。対照的にキャップは何も言わずにテーブルに片肘をつき、お気に入りの帽子を外すと内側に手を入れて回す。K_Kは妙なところで鋭い、あの問い方からして大分前から分かっているのだろう。スイートとキャップは、長いこと共に過ごしている仲間の洞察力の鋭さを実感している。少ししてから、キャップは手の動きを止めて帽子を被ると口を開く。
    「追い込みをかけなければ……な。それって、多少のムチャは回避できねーことを覚悟の上で言ってるのか?」
     キャップの問いに対し、勿論だと口述の代わりに頷く動作でスイートは返答する。実際は既に無茶をしており多少睡眠時間を犠牲にしているのだが、このグループにとっては珍しいことでも何でもない。あの物体を完成させて好評の言葉を耳にした時、その無茶にピリオドが打たれることとなる。
    「オーケー、スイートがその気ならオレも徹底的にやるぜ」
     キャップは肘をついた腕とは反対の腕を少し上げると、拳を作ってスイートに向ける。サングラス越しに見える、満面の笑みとのセット付きだ。いざという時は決まって一段とかっこよくなる奴だ、と内心でキャップを褒めながらスイートも拳を作る。
    「言っておくが、交代はなしだぞ」
    「分かってるって、でも乾かしついでにそっちのチェックはさせてもらうからな」
     終わるまでフル稼働する覚悟があることを示すべく、スイートとキャップは軽く拳同士をぶつける。接する時間が減った分だけ──否、それ以上の物を仕上げるべく全力を注ぎ込むことを決心したのだった。

     ***

     K_Kと夕食を食べ終えると、スイートとキャップはすぐに制作室へ向かい作業を再開する。幸いにも、食事中にK_Kが例の件で問い詰めることはしてこなかった。やることは変わらないが、K_Kが売り込みから帰ってくる直前と比較して一目瞭然、集中力が格段に上がっている。目には優しいが、味気なさを隠し切れなかった箱型の物体に彩を与えるキャップの筆使い。彩りを与えられた物体に、流れを付与させるスイートの打ち込みの速度。全力を出している二人の手が道具を伝って鳴らす音は、同じ一曲を演奏していると言っても良いだろう。
    「どこまでいった?」
     暫しの時を経て、物体を染めた絵の具を乾かすついでにキャップはスイートに打ち込みの進捗を伺う。順調だ、マウスを動かしながら一言発したスイートは画面の再生ボタンをクリックする。聴こえてくるのは、金属のシリンダーが弾かれる音だ。金属というだけあって一つ一つの音が高く鮮明だが、耳障りと思わせることのない優しさを纏っている。コンピューターで作られたものでありながら、実物で奏でている状態と変わらない音色だ。長く聴いていれば自然と疲れを解し、心地好い眠りに誘ってくれるだろう。そう、現在試聴しているスイートとキャップがうたた寝している以上に。
    「……ハッ、危うく寝るところだった……!」
    「普段のノリとは違う物作ってるしな……ふわぁ」
     二人は頭を振り、必死に目を覚まそうとする。しかし、睡眠時間を削っているとはいえ試聴してうたた寝する程となれば、目的の物が仕上がりに近づいている証拠とも言える。この調子で完成させれば完璧な一作になるだろうと、両者は顔を合わせてグッドサインを向ける。モチベーションは上昇し続けている、その速度が下がることはないだろう。
     そして、翌日──。
    「おっし……できた!」
     ニスによる表面保護と乾かしの時間経過で、ついに箱型の物体の塗装が完了した。外側の正面にはSHOPと書かれており、隣には黒い円盤の絵がある。スイートとキャップ、K_Kにとってはほぼ毎日当たり前のように見る物、自分達のジャンクショップがそのままモデルになっているのだ。形状の都合で側面になったものの、あの巨大なスピーカーも描かれている。濃淡がハッキリしているはみ出しのない色塗りからは、キャップの大きな努力が伝わってくる。看板部分は蓋になっていて開けると内装が見える、デザインは勿論ショップの店内だ。再現度の高さに二人がうんうんと感心していた、その時のことだ。
    「し、しまったッ」
    「なっ、何だよ」
     突然、スイートが何かを思い出して大声を上げる。側で音量の大きい声が発せられ、キャップは危うく箱を落としそうになった。
    「今日は取引先へ向かう予定がある……流石にこれは外せない」
     スイートは訳を話すと、作業中の画面が映っているパソコンを気にするように見つめる。何故なら、打ち込み作業も大詰めだが彼がすべきことはそれだけではない。打ち込みで完成させた音楽をある物に記憶させ、出力できるように仕込む作業もしなければならない。
    「それは忘れちゃあいけないヤツだぜ……了解、寝れるところまで寝とけ」
     真面目故に過集中になったのだろうと、キャップはスイートを気遣って睡眠を勧めた。幸いにも、約束の時間まで余裕はまだある。仕事で失態を犯す訳にはいかず、スイートは素直に準備の時間まで寝ることにして作業中のプログラムを上書き保存する。備えとしての睡眠を取るべく横になったスイートの後ろ姿を少しだけ眺めてから、キャップは塗料に使った道具を片付け始めるのだった。
     それから数時間後、所狭しとスクラップや備品が置かれているこの場所は倉庫の中だ。灯りは点いているが仄かに暗く、良くも悪くも倉庫という空気を濃く纏っている。キャップは現在、ジャンクショップのカラーリングになった箱に本格的な役割を持たせるべく材料を探している最中だ。スイートは本人が先程話した通り、仕事で留守にしている。
    「電池ケースと単三電池、よし」
     キャップは目当ての物を見つけると、メモに書かれた該当する物の名前の横に丸を付ける。小型のスピーカーや炭素皮膜抵抗器、黒色のプリント基板に半固定抵抗、配線と必要なものを空き箱に入れる。次に棚の前に来て、三段の内真ん中の棚を引くと小物だらけのプラスチック製のケースを取り出して開けた。中に入っていたマイクロスイッチを取ると、必要な物はいよいよ後一つだ。引き続きケースの中を探るキャップ、だが探っている内に彼の表情は険しいものへと変わっていく。
    「ん、何処だ……?」
     どうやら目当ての物が見つからないらしく、小物と小物がぶつかり合ったりケースの底で弾む音が倉庫内で反響し続ける。材料が揃わなければ箱や曲を完成させても意味がないというのに──焦燥感に駆られ夢中で漁っているキャップは、ドアノブを動かす音に気付かなかった。
    「キャップー」
    「のわっ」
     不意に聞こえた自分の名前を呼ぶK_Kに、キャップは平静を失って驚きの声を上げた。すると、気が動転したことで手を滑らせ、ケースが真っ逆様に落下する。床に直撃した音と小物が散らばる音が同時に鳴り、そのボリュームはキャップの精神にまで響いた。蓋が空いて逆さの状態のケースと散乱した小物が視界に映り、やらかしたとキャップは引き攣った顔になる。
    「やっべ……」
     全ての物が散開した訳ではなく、大体の物はケースの下敷きになっている状態で済んでいるのは不幸中の幸いである。しかし、このケースに入っていた小物は音楽機材で主に使われる貴重な部品が多く、そういう意味では笑ってごまかせることではなかった。
    「ありり、驚かせてごめんねー。ボクも拾うの手伝うよ~」
    「いや、オレの不注意でK_Kは何も悪くねーから気にすんなって。もしそっちに転がっていたら、それは拾ってほしいけどな!」
     スイートがこの場にいたら何やっているんだと叱りつけてきただろうなどと考え事をしつつ、焦りは禁物という言葉の重さを痛感しながらキャップはひっくり返っているケースを戻した。落ちている小物を拾い、汚れたり破損していないかを確認しながら収納し始める。K_Kは入り口付近に小物が落ちていないか確認しようと、二歩進んでから屈む。だが探す前に、彼は一言こう放った。
    「キャップ、ムリしちゃダメだよー」
     K_Kの言葉に、キャップは目を丸くする。いつもならもうムリだから助けてくれ、とふざけて他力本願になるキャップだが、今はそうふざける余裕がない。隠していることの一部を突かれて驚いたキャップだがすぐに平常心を装い、普段のおちゃらけている笑みを浮かべて小物拾いを続ける。
    「何の話だ?スイートならともかくオレは──」
    「無理してる」
     誤魔化すキャップの発言を遮り、K_Kは言い切った。顔を合わせずとも、声のトーンから彼が本気で心配し本気で言っていることが分かる。
    「そんなに疲れているのに、二人にこれ以上無理なんてさせられないよ」
     K_Kはいつだって正しい。自身やスイートが時々口にする、彼への賞賛の言葉がキャップの思考回路を過った。スイートと方向性は違えど己も不器用であることをキャップは痛く実感する。限界を悟り、正直に話そうと決断した、その時だった。
    「あ」
     床に落ちている一つの小物兼備品が目に入り、キャップは声を上げる。探していた最後の材料、小型のワンチップマイコンが見つかった。思わず横に手をつけ、汚れや破損がないことを確認すると溜め息を吐く。
    「マジかよ……」
     見つかって安心した反面、先程探している時に見つけられなかったのはどういうことなのかとキャップは自戒せずにはいられない。ワンチップマイコンを空き箱に入れようと、横につけていた手を離す。しかしこの時、回収してから一つの大きなミスにキャップは気が付く。拾う時に自分が手をつけていたのは、壁ではなく2メートルもの鋼鉄板であること。
    「え……」
     そして、立てかけられていた鋼鉄板が押された反動で倒れてきたことに。キャップが己のやらかしに気付いたのは、鋼鉄板の影に完全に覆われた時だった。
    「キャップ」

     ***

     店内に角張った頭部と体格の影が一つ、スイートが取引先から戻ってきた。打ち合わせが想像よりもスムーズに終わり、少しでも多くの時間を作業に回せることに安心している。キャップとK_Kが今何をしているのか気になるが、まずは持ち込んだり持って帰ってきた物を片付けなければならない。製造室に向かい片付けようと通路へ足を踏み入れたその瞬間、スイートは確かに聞き取った。
    「ん……?」
     どこかの部屋から、物が勢いよく散らかる音と叫ぶようにキャップの名を呼ぶK_Kの声が聞こえたのだ。穏やかな様子ではないことを察し、スイートは慌てて駆け出す。すると、倉庫のドアが僅かに開いていることに気が付く。散乱の音と声が発せられたせられた場所は倉庫だろうと推測し、目的の部屋の前に着いたスイートは急いでドアを開いた。
    「K_Kッ」
     彼の単眼に、衝撃的な光景が映る。片膝を床につけて倒れてきた鋼鉄板を片手で必死に支えるK_Kと、倒れてはいるもののK_Kが間一髪で支えてくれたことで鋼鉄板の下敷きにならずに済んだキャップの姿だ。
    「キャップ、っ……ケガしなくて、よかった……」
     キャップが無傷で済んだことに安心するK_Kだが、片手で支えるのは長身の彼であっても厳しい。巨大で重量ある板を両手で持ってもふらつく姿を目の当たりにして収納を手伝ったスイートも、体力の消耗を語るK_Kの表情をその目で見ているキャップもその厳しさを既に理解していた。
    「ゴメンねぇ……ボクがここに立てかけたからっ……」
    「K_K、そんなことはいいって!スイート、この板を何とかするの手伝え」
     キャップの指示に、分かったとスイートは頷くと工具箱を速やかに通路の床に置いて急いで倉庫の中へ入る。キャップは現在の自身の態勢を利用して這いずり、板の左側に移動して板に体を接触させる。
    「助けてくれてサンキュー、K_K……!わりーけど、もうちょっとだけ待ってくれ」
     支える力が尽きそうになりながらも、K_Kはもう少しだけ踏ん張るべくキャップの言葉に応えるよう頷く。スイートはクッションフロアが巻かれた長い筒を持つと、散らばった小物に驚きながらも踏まないよう慎重且つ素早く板の右側へ来る。そして、二人は顔を合わせて合図を送るように頷き合った。その直後にキャップは体で鋼鉄板を押し、スイートは筒の先端を板の上部に押し付けて支える。立てかけて戻すことはできなかったものの、スイートとキャップの連係プレーによって少しだけK_Kの片手から板が離れて浮かすことに成功した。
    「よしッ、この板を戻すぞ!」
    「オッケ~!」
     体力的な負担はまだ残っているものの、スイートとキャップの機転のおかげでK_Kは力尽きてしまうことがなかった。K_Kは少し屈んだ格好で板と向き合い、両手をつける。三人は息を合わせ、傾いている鋼鉄板の角度を垂直へと近づけていく。板の置き方をどう変えるか、それを考えるのは一先ず再度立てかけてまだ散乱したままの小物を片付けてからにしようと全員が決めたのだった。
     その後、小物の回収が完了し全てケースに仕舞い終えた。同じアクシデントが起こらないように対策すべく、鋼鉄板は他の道具を離れたスペースに置き、クッションフロアを敷いて広い面積を下に向けて置く形で保管することになった。尚、キャップが探していたワンチップマイコンはしっかりと空き箱に入っている。
    「板のこと色々と手伝ってくれてありがと~、迷惑かけちゃって本当にゴメンねー」
     そんなのお互い様だと言わんばかりに、スイートとキャップは首を横に振った。板に気付かずうっかり押したオレの不注意だから気にするなと、加えてキャップはフォローする。そして、決意を伝えるべくキャップは隣にいるスイートに顔を向けた。
    「スイート、あの件言うことにした」
    「……そうか、構わないぞ」
     これ以上無理なんてさせられない、先程K_Kが口にしたあの言葉と真剣な気持ちを蔑ろにするなど不可能だ。スイート自身、例の作業をK_Kには隠し続けることに躊躇いがあった。それを明かすとキャップから告げられたことで自分を縛りつけていたものが解かれ、スイートは心底から安心する。キャップはサングラスを外し、深呼吸すると顔を上げてK_Kと目を合わせた。
    「あのさ、K_K……最近、避けるような感じで一緒にいる時間短くなって本当にごめんな」
    「K_K、本当にすまないッ」
     キャップが謝ると、続けてスイートもK_Kに頭を下げて謝る。相手がいつも通りのマイペースさを崩していない表情だからこそ、緊張も大きい。重く圧し掛かるプレッシャー兼沈黙に両者が堪える中、K_Kはゆっくりとしゃがむと頭を下げたままの二人に手を伸ばす。
    「二人が元気にいつも通りでいてくれるなら、それでいいんだよー」
     二つの大きな手は、スイートとキャップの頭を優しく撫でる。K_Kがスイートとキャップに向けている表情は、少しの曇りも感じられない穏やかなものだ。自分としっかり向き合って謝ってきた二人が悪事を働いたり理由もなしに負担がかかることをする筈がない、そう信じてくれているのだ。K_Kの反応にスイートとキャップは緊張から解放され、彼の心の広さに感謝した。
    「実はK_Kにサプライズプレゼントを用意しててさ、その準備でずっと制作室に閉じ籠っていたんだ」
     キャップは、関わる時間がここ最近短かった理由を話した。説明を受けたK_Kはこれまでの二人の動きに納得し、水差す質問を昨日してしまったことをスイートに謝る。K_Kのあの質問は自然なものだから、と質問された当人はフォローを入れた。
    「でも、何を渡すかはまだ言わないぞッ!」
     プレゼントが何かは受け取ってからのお楽しみだとスイートは笑顔で続けて言うと、隣にいるキャップが悪戯に笑ってサングラスをかける。自分にとってかけがえのない存在であるスイートとキャップからのプレゼントと知り、K_Kは楽しみな様子を隠すことなく首を縦に振る。
    「オッケー、完成するまでしっかり待ってるよ~。でもね」
     ご機嫌に答えて一呼吸置いたかと思えば真顔になり、スイートとキャップは思わず笑顔を引き攣らせてフリーズする。そんな二人に、冗談とK_Kは笑ってから続けてこう言った。
    「スイートもキャップもいっぱい疲れているから、今日は早く寝る。それからムリはしない、それだけ約束して~」
     常に元気であってほしいという願いを約束という形で示し、K_Kはスイートとキャップの手を包むように握る。冗談を振られた当人達は普段穏やかなK_Kの怒りや豹変程怖いものはないことを知っており、飛び出したソウルが戻らなくなりそうな思いをして冷や汗を流す。
    「お、驚かすなっつーの……でも、その約束は守るぜ」
    「オレも約束するぞッ、K_K!」
     K_Kとの約束を守りながらプレゼントを完成させるという決意と、二人からのプレゼントを完成するまで邪魔しないように待つという決意をそれぞれ抱く。最初は心配や焦りでしかなかった時間の流れが、この瞬間を以って楽しみへと変換された。普段は微かに暗さを残しつつ倉庫を照らす明かりが、今だけはまるで彼らの気持ちを表現しているかのように明るく感じられる。倉庫の電気を消すと三人揃って清々しい気持ちで倉庫から出る、寝室へと入っていくスイートとキャップをK_Kは優しく見送った。

     ***

     日付が変わった後の制作室、昨日までと変わらずK_Kへのプレゼントの制作作業に取り組んでいるスイートとキャップ。しかし、今までと異なっている点が三つある。一つ目はキャップがフェルトを使った手芸をしていること、二つ目は倉庫から持ち出した部品をスイートが組み立てていること。三つ目は、二人はとてものびやかにリラックスした状態で作業していることだ。
    「スイート、交代してくんね?手が疲れた……」
     キャップは口を開くと、ニードルを専用のマットの上に置いてから体を伸ばして腕を上げる。彼の言葉の裏を、スイートは読み取ることはしない。
    「休憩しろ、今のオレ達はもう時間に縛られていないんだ」
     いつぞやと全く同じ要求をされたことに呆れながら、スイートは作業の手を休めて回転椅子を回してキャップと向かい合う。だが、あの時とは違い余裕の姿勢が保たれている。K_Kとの約束を守っているからか、互いに疲労という疲労を感じることはない。
    「ははっ、そうだったな」
     キャップは体の向きを変えてから帽子とサングラスを外し、クッションを頭が乗る位置に敷いて寝そべる。少しだけ距離の空いた彼の隣には、何かのパーツとも言えるフェルトがいくつか置かれている。その形は四角い箱型の物や明るい線の入った細長い物、紫色の小さな山の形が上に乗っている楕円の物と複数ある。作り手のキャップは勿論、同じ空間で作業しているスイートにとっても一番馴染みある見た目だ。スイートは部品の隣に置かれているドーナツボールの乗った皿へ目を向け、添えられているフォークを手にしてドーナツボールを一つ刺すと食する。
    「……うむ、ウマいッ」
     このドーナツボールは、K_Kが用意してくれた差し入れである。あの約束以来、K_Kは食事の時間になったり差し入れを用意してくれた時に制作室の前へ来るようになった。その際は必ずノックして外から呼び掛け、スイートとキャップが部屋から出てきても中を覗くことはしない。K_Kもまた、スイートとキャップからの約束を誠実に守っているのだ。
    「急ぐ必要はねーけど、明日には完成させたいところだぜ」
    「そうだなッ、約束が大事とはいえオレとしてもあまり待たせたくはない」
     プレゼントを完成させない限り、いつまで経ってもK_Kと共に過ごす短いままである。スイートとキャップの中で、K_Kに一人の時間を多く過ごさせてしまっているという罪悪感までは流石に拭えていないようだ。いつだって正しいK_Kとの約束、それを守ることを第一になるべく早く完成させよう。この後のペースアップに備えてスイートとキャップは心の中でそう誓い、休憩時間をゆっくりと満喫する。三人での食事や作業の休憩、睡眠を欠かすことなく可能な限りまで作業を進めて今日という一日を終えるのだった。
     更に翌日、現時点で作業は最終段階へと移行している。スイートはワンチップマイコンへ曲を書き込む為に楽譜をデータへ変換し、キャップは細いニードルでフェルトの各パーツを浅く満遍なく刺して表面を綺麗にする。どちらも最後の作業というだけあり、余裕の顔色に変化はないが今までの作業の中でも一番真剣だ。
    「「…………」」
     両者の沈黙と作業で手掛けている物への真っ直ぐな瞳が、本気を物語っている。だが三人での食事は今日も欠かさず、休憩を怠ることもなく、K_Kからの差し入れもありがたく頂いている。つい先程K_Kから提供されたのは、白桃やパイナップル、ナタデココがふんだんに盛り付けられているレモンゼリーだ。舌触りの良いフルーティーな酸味と、バランス良く織り交ぜられている瑞々しい甘味が二人の頭の中をスッキリさせてくれる。スイートとキャップは時間の流れに惑わされず、作業をそつなくこなしていく。書く毎に行が一段ずつ下がる音階と音調の入力、表面の整ったフェルトとフェルトを組み合わせして繋げる作業を繰り返していった。
     これらの作業にどれほどの時間がかかったかなど、二人は把握していない。スイートはケーブルを片手に、組み立てられた部品へ視線を注いでいる。隣にいるキャップも同じく、組み立てられた部品へ目線を合わせていた。今からスイートが曲を書き込むが、後は流れる曲に違和感がないか視聴する必要があるのだ。
    「よし、流すぞッ……」
    「あぁ」
     手への物理的な負担はキャップの手作業より少ないが、これが上手くできていなければ苦労が水の泡になる。最重要で一番プレッシャーのかかる作業を、スイートは担っていたのだ。基板の目印に合わせてケーブルを接続すると、今度はマウスを操作して曲のデータを専用のファイルへドロップする。直後、ミュージックが部品のスピーカーから流れ始めた。
    「「!」」
     スイートもキャップも、今度は流れる曲を意識する。一度聴き終えてからコメントするのか、どちらも今は何も言わない。流れている曲は、スイート・キャップ・ケーキ全員がお気に入りのサウンドだ。自分達の曲といえば、をテーマにしたら三人揃って合致する程である。金属のシリンダーが弾かれる音は安らぎを秘めており、聴くものを癒してくれるだろう。一周し終えたことを確認すると、スイートは指でマイクロスイッチを押して曲を止める。曲が静止した直後、キャップは息を吸って一言告げる。
    「……完璧だぜ、スイート!」
     キャップからの絶賛に、スイートの一つ目が笑みを作る。凄まじい集中力を発揮したことで二方は疲れてはいるものの、心なしかスッキリしている。しかし、気を抜くのはまだ先だ。完成したフェルトと部品を、箱型の物体の内側にセットすれば出来上がる。それでも、K_Kが喜ばなければ意味がない。作っているスイートとキャップ自身も出来上がることを楽しみにしながら、セット作業に入るのだった。

     ***

     寝室にて、K_Kはベッドの上で待ち望んでいたものを迎えるかの如く待機している。スイートとキャップから、プレゼントを持ってくるからここで待ってほしいと言われ、その瞬間を待ち構えているのだ。何をくれるのだろうと想像を膨らませあらゆるものを思い浮かべていたその時、ドアが僅かに開かれる。
    「K_K、入るぞッ!」
     隙間から聴こえてきたのは、スイートの声だ。
    「おっと……その前にちょっと目を閉じていてくれ、開けていいと言う前に開けるなよ~?」
    「オッケ~、顔面から食べれるおっきなクリームパイかなー」
     目を閉じたK_Kのコメディな発言に三人で笑い合うと、違う違うとスイートが返した直後に静かになる。明かりは感じ取れるが何も見えない視界の中、二つの足音が近づいてくる。それに合わせ、K_Kの期待が少しずつ膨らんでいった。足音が二歩三歩と近づき、止まったその瞬間にスイートが声を上げる。
    「よし、目を開けていいぞッ!」
     K_Kが閉じた目を開くと、スイートとキャップからのプレゼントがその目に映る。
    「わーお、これな~に?」
     K_Kはプレゼントを受け取ると、不思議な様子で凝視する。自分達のショップの外装が、長方形のボックスに描かれている。手描きと分かる着色はとても精密で、六面全て一切はみ出していない。K_Kでも片手では収まりきらないが、両手なら余裕で収まるサイズだ。
    「なぁK_K、看板のところ持ち上げてみてくれよ」
     キャップに言われ、中に何か入っているのだろうかと気になりながら箱を開ける。すると──。
    「わぁ……」
     開いたその瞬間、K_Kは口を綻ばせる。自分だけでなくスイートやキャップも気に入っているサウンドが、オルゴール調で流れる。蓋が開いた瞬間に流れるよう、基板は内側の側面に固定されている。それだけではない、箱の中は店の内装が描かれている上にスイート・キャップ・ケーキのフェルトも入っている。一曲流して盛り上がっているシチュエーションを連想させ、楽し気な表情のフェルトは今にも動き出しそうだ。スイートとキャップが作っていたのは、電子オルゴールだった。落ち着きを与えてくれる旋律と賑やかだが可愛らしさもある形の小さな自分達及びショップを、K_Kは暫くじっくりと楽しむ。
    「ん~……」
     鑑賞を終えたK_Kがゆっくりと蓋を閉じた姿に、スイートとキャップの胸の内が高鳴る。蓋が閉まったことで音楽が途切れ、その直後に発生した沈黙は大きな緊張も生み出す。気に入ってくれたかどうか、感想を伺おうと二人が口を開く前にK_Kの口が開かれる。
    「ボク、このプレゼント好き~」
     小柄な二人へ向けられたのは、大満足したK_Kの温かい笑顔と温かい言葉だ。過程を積み重ねて作った大きな結晶がK_Kの心へ響いたことに、スイートとキャップは明るい表情を浮かべて顔を合わせる。
    「K_Kッ!」
    「K_K」
     再度K_Kの方へ向き直した二人は、満面の笑みでK_Kに飛びつく。K_Kは自由自在に伸縮できる腕を操り、オルゴールを持った片腕を伸ばして小棚に置く。伸ばした腕の長さを戻すと、K_Kはスイートとキャップを抱きしめた。
    「こんなにイイ物を作ってくれてありがと~!大切にするね~!」
     喜悦に満ちた表情でK_Kは礼を言う。自分達が喧嘩した時の仲直りや背の高さが足りず困った時にサポートしてくれる等、日頃世話になっているお礼がしたいという意見が合致したことをきっかけに作ったようだ。家族同然の大切な仲間故に些細なことへの見返りは一切求めていないK_Kは、気にしなくていいのにと謙遜の一言を言いそうになる。しかし、二人が純粋に自分達の意思で用意したお礼を控えめな言い方であっても否定するのは失礼だと考え、口にすることをやめた。
    「最初はオレ達の性に合わないんじゃねーかって、思ってたんだけどさ……」
    「ハンドメイトと塗装を合わせれば、オレ達の路線とは違う音楽も楽しく聴けると閃いたのだッ」
     二人の発想から生まれた世界でたった一つだけのオルゴール、どんなに腕の良い職人が真似たところで自分にとってこれ以上に魅力的なオルゴールは作れない。だからこそ失くしたり壊さないよう大切にしようと、K_Kは心の中で強く決心する。
    「二人とも、いっぱい頑張ったし今日も疲れたでしょ~?今、お礼のスイーツを持ってくるねー」
     K_Kはそう言って二人を離すと、ベッドから降りる。スイートとキャップが差し入れを用意してくれたのだから十分だ、と止めようとする前に彼は部屋から出て行った。
    「これはこれで、K_Kに気を遣わせてしまったみたいだな……」
     申し訳なさそうにドアを見つめるスイートの言葉にそうなるなとキャップは苦笑いしながら、K_Kが喜んでくれたオルゴールの蓋をキャップが開ける。優しい音色が再び寝室に響き渡ると作った当人達は床に座り、完成までの思い出を振り返りながら鑑賞し始める。明日からはまた普通の日常に戻る、どんな一日になるだろうかと考え事をしながらスイートとキャップは目を閉じ、お気に入りの曲を安らかな音色で浴びるのだった。
    「~、~~」
     K_Kは、ホイップクリームと音符型のチョコが飾られているカップケーキが二つ乗ったお皿を持ち、ご機嫌にメロディを口遊む。自分達の名前とよく似ているこのスイーツを、スイートとキャップへのお礼に作っておいたのだ。寝室の前に着くと、プレゼントを受け取ったこともあってK_Kはノックせずにドアを開ける。
    「お待たせ~、スイーツ持ってきた……よ~」
     オルゴールの蓋が開いてミュージックが流れている、それは全く問題ない。スイートとキャップが作ったのだから、二人が聴くことは不自然でも何でもないのだ。体力的な疲れが一気に押し寄せてきたのか、スイートとキャップが床に寝転がって眠りに落ちていたのがK_Kの言葉が途中で途切れた理由である。
    「スイートもキャップも、お疲れ様~」
     K_Kはタンスの上に皿を置き、起こさないように二人へ小声で労いの言葉をかける。クローゼットを慎重に開くと毛布を二枚取り出し、小さな寝息を立てているスイートとキャップにそっと被せる。オルゴールの流れる空間で眠っている両者の寝顔は一見普段と同じように見えるが、どこか安心した様子を垣間見せている。
    「そういえば、さっき言い忘れちゃったなー」
     オルゴールが流れ続けている中、K_Kは引き続き小声のまま独り言を呟き始めた。熟睡しているスイートとキャップの頭を、優しく撫でる。
    「このプレゼントも好きだけど……」
     そこで発言を一旦止め、頭を撫でながら二つの寝顔を眺める。スイートとキャップは自分をお手本にしてくれ、自分もまた二人をお手本にしている。己にとってかけがえのない存在であるスイートとキャップに、心穏やかな笑顔でこう言った。
    「スイートとキャップのことも、大好きー」
     K_Kはそう言い残すとカップケーキを戻しにお皿を持って立ち上がり、再度寝室から出て行く。大好きといった直後に、偶然か否か二人が嬉しそうな笑顔を浮かべたことにK_Kは気付いていない。再生されたままのオルゴールは、まるで彼らを見守るように流れ続けていた。
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