喫煙室早朝の喫煙室は人が少なくて静かだ。ついさっき情報システム部のデイヴがなかなか通らない稟議についてひとしきり愚痴をこぼして満足して出ていってからは、自分のタバコの紙が燃えるチリチリという音しか聞こえない。朝日を浴びてから、まだ覚醒しきらない頭で煙を吐き出す。何度か煙とともに深い呼吸を繰り返すと、少し頭が冴えてくる。
5m四方の部屋の中はシンプルなアイボリーの壁にグレーの磁器タイルの床、部屋の中心に四角形を形作るように4箇所スタンド灰皿が設置されている。壁は4面中、通路側の1つの面だけガラス張りになっていて、今の時間はほとんど人は通らない。
細く煙を吐いていると、ドアノブが音を立てて回った。
巨躯のてっぺんの黒髪が照明の光を青く照り返す。喫煙室に入ってきたその人は迷いなく定位置である入り口から壁に沿って真っ直ぐ、奥側の方の灰皿にたどり着くと白衣の胸ポケットからタバコとジッポライターを取り出す。タバコを口にくわえて火を付ける。
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