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    とわこ

    @towako71

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    とわこ

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    トリコさんのお宅の酉尾先輩と。

    文化祭当日。
    前々から準備していた、クラスの出し物である喫茶店の店番を斗和は勤めていた。
    お客さんは正直多くはないが、皆楽しそうにしてくれている。
    「ねぇ、そろそろライブ始まるんじゃない?」
    「そうだね、ステージどこだっけ?中庭?体育館?」
    「中庭の特設ステージだよ、早めに行って場所取りしよ!」
    そんな会話をしていた二人組の女性客が、「すみません、お会計お願いしますー!」と手を上げ、クラスメイトのひとりがその席へと向かう。
    ライブかー、楽しそうだなー、と斗和がその背中を見ながら思っていると
    「聞いた?ライブやって。派手かねぇ」
    と隣にいたカタナがひそひそと話しかけてきた。
    「…店番の交代まで、あと15分くらいだし、間に合うかも。行ってみる?」
    斗和はカタナに提案した。カタナは目を輝かせて、「行く!」と即答した。

    シフトを終えた斗和がカタナと一緒に中庭に行くと、そこにはたくさんの観客がひしめいていた。
    ステージ上では、凝った衣装に身を包んだ生徒達が、それぞれ楽器を手にし、パフォーマンスを行っていた。
    その真ん中に居る、派手な髪色の生徒が、元気いっぱいに飛び跳ねて観客を煽っている。
    なんか、いいなぁ。
    と、斗和は我知らず笑顔になった。
    一緒に見に来たカタナは、「すごかー!良かねぇ、あがん衣装作りたかー!」とすっかり夢中だ。
    曲が終わる。
    万雷の拍手と歓声。
    斗和はどきどきしながら、自分もめいっぱい拍手した。
    大きく手を振りながら、バンドメンバーがはけて行く。
    入れ替わりに次のグループがステージに上がってきた。
    「来年はステージ衣装、俺に作らせてくれんやろかー!」
    「ね、凄いね!歌も楽器も衣装も!」
    「今のバンド、華やかやったねぇ」
    「うん。………すごくかっこよかっ…、わっ?」
    人波に押されて、斗和はバランスを崩す。
    今日は1日、色んなグループがこのステージでパフォーマンスをする。
    そのため、このステージ前は常に場所取りで賑わっているのだ。
    それにしたって。
    「ちょ、すいませ……っ!押さない、で、ください……!」
    斗和の声など熱狂する観衆には聞こえていない。というか、皆、自分じゃない誰かに掛けられた声だと思っているのだろう。
    人混みが得意ではない斗和は、目眩がしてきて、動けなくなってしまいそうだった。
    「カタナくん、どこ…!?」
    いつの間にか隣にカタナはいない。
    斗和が、苦しさに顔を手で覆った時。
    「きみ!大丈夫?こっちおいで!」
    と誰かに腕を引っ張られた。
    強く引かれるに任せて、斗和はふらふらと人にぶつかりながら、中庭のステージ前を離れる。
    気がつくと、人の少ない中庭の外れに連れてこられていた。
    「はぁっ、………はぁっ…」
    「大丈夫?気分悪い?」
    ぱっと掴まれていた腕から手が離れた。
    「いえ、…大丈夫、です。すみませ…ん、」
    斗和は大きく胸を上下させながら、その手の先を見た。
    「……っあ、」
    先程ステージで熱いパフォーマンスを見せていた、派手な髪の人が、そこにいた。
    「さっきのバンドの人…!」
    「うん、そーだよー!リーダーの燈紫酉尾だよー!」
    「リーダー……!」
    斗和はまた、胸がどきどきし始めた。
    まるで、コンクール前の舞台袖にいるかのような、高揚と緊張。
    だって、目の前にいる人はきっとすごい人だ。
    「あの、助けてくださり、ありがとうございました……!!」
    がばっ!と斗和は頭を下げる。
    勢いよく頭を下げすぎて、また目眩がしてふらついた斗和を、酉尾と名乗った目の前の人が、「おっと」と、支えてくれる。
    「すみません……っ!」
    「いーよ、大丈夫」
    「ほんとに、ご迷惑をお掛けしてしまい…」
    斗和が恐縮していると、ポケットでスマホが着信を告げてメロディを鳴らした。
    「あ、……電話、出なよ」
    酉尾に促され、斗和は画面を確認した。
    カタナだった。
    「もしもし、カタナくん?」
    『斗和!どけおっと?』
    「はぐれてごめん。中庭の端っこの方に避難してる。さっきのバンドの方に助けていただいちゃった」
    斗和が話すのを、じっと酉尾は見守っていた。
    後で教室で会おうね、と、ぷつりと通話を終えて、斗和は改めて酉尾に向き合う。
    「バンド、かっこよかったです。それに、ここまで連れてきていただいて、すごく助かりました」
    「ほんと!?かっこよかった?」
    酉尾は嬉しそうに、にっこーと笑った。
    いかにも人の輪の中心に居そうな、明るくて眩しい、屈託のない笑顔だった。
    可愛いな、と斗和は思った。
    すごいパフォーマンスを見た後にピンチを助けて貰って、酉尾に対して緊張感を持っていたが、この笑顔を見ると彼も普通の男子高校生だった。
    「あの…もし宜しければお礼がしたいです。オレこの後クラスに戻るんですが、うちのクラス喫茶店やってるんで、良かったら…」
    「喫茶店!アイスある?!」
    申し出た斗和に、ぱあっと酉尾は顔を輝かせた。
    「アイスありますよ!クリームソーダ、出してるので」
    斗和が言うと、酉尾は「やった〜♡」と両手を上げて喜んだ。
    「じゃっ、今すぐ行こう!」
    「はい!ご案内します!」
    斗和は先に立って歩き出す。
    酉尾はすぐに追いつき隣に並んだ。
    「そーいやさ、きみの名前は?」
    「あ。名乗りもせず本当に失礼致しました!…一年の、佐藤斗和と申します」
    「とわっちね!おーけーおーけー」
    名乗るなり、あだ名をつけられ、斗和は目をぱちぱちさせる。
    こんなに懐に入り込むのが上手い人、会ったことがなかった。
    「オレ、二年だけど、好きに呼んでいいからね」
    「好きに………と言われましても……」
    校舎に入り、階段を登りながら考える。
    斗和のクラスはもうすぐだ。
    「じゃあ、……酉尾先輩、でよろしいでしょうか?」
    初対面の歳上を、下の名前で呼ぶのは、斗和にしてみれば結構冒険だったが、「いーよー」とあっさり許可は降りる。
    「あ、ここです、うちのクラス。オレが奢るんで、なんでも好きな物頼んでくださいね!」
    二人して足を止めると、教室を覗き込む。
    落ち着いた雰囲気、と言えば聞こえはいいが、あまり賑わってはいない。
    「斗和ーーーーー!良かったーーーーー!」
    斗和を見つけたカタナが駆け寄って来た。
    「カタナくん!心配かけてごめんね」
    ひしと抱きしめ合う斗和とカタナを見、酉尾は「良かったね、とわっち!」と目を細めた。
    不思議なことに……というか、酉尾がステージ衣装のままの移動で目立ったからなのか、斗和のクラスの喫茶店に酉尾が来てから急にお客が増えた。
    最初は酉尾と一緒に席に着いた斗和とカタナも、
    「ごめん!佐藤と田中も手伝ってくれ!」
    とクラスメイトに頼み込まれ、一度当番を終えたにも関わらず席を立つ。
    「お相手できずすみません。ゆっくり寛いでくださいね、酉尾先輩」
    「気にしないで。それより、奢ってくれてありがとねとわっち!」
    「いいえ、お礼ですからお気になさらず」
    にこっと笑い掛け合う二人を、カタナが交互に見た。
    「珍しかね、斗和が蒼さん以外の上級生とおるの」
    こそりと囁かれ、斗和ははにかんだ。
    「酉尾先輩に、さっき助けて貰ったんだ。もう、オレにとってはヒーローだよ」
    「ヒーロー!」
    カタナが酉尾を振り返る。
    ん?と酉尾は首を傾げてカタナに向かい手を振った。
    カタナは愛想良く手を振り返し、同じく手を振る斗和の背を押して裏に入ると、表情を引きしめてエプロンを身につける。
    「よっしゃ、初めての文化祭、稼ぐばい!」
    「おー!」
    斗和も笑って、エプロンに手を伸ばした。
    ホールの方から、クラスメイト達の元気な接客の声が聞こえてきていた。
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