空港で僕は最愛のシュミットを待つ。
飛行機は遅延しているらしい。着陸予定時刻を過ぎたが、まだ到着のアナウンスはない。
仕事のために、一週間国外へ行っていたシュミット。彼が今日帰ってくる。この日を指折り数えて待っていた。
迎えなんていいよ、とシュミットは言うかもしれない……と思ったけれど、一刻も早く会いたくて空港まで来てしまった。
きっと疲れているであろう彼を早く抱きしめたい。キスをして、お疲れ様と労って甘やかしたい。
そんなことを考えていると、頬が緩んでしまう。
かなりの時間待って(それとも、僕の気持ちが一日千秋だっただけか)、ようやくシュミットの乗った飛行機が到着した。
ゲートから吐き出されてくるたくさんの人に混じっていても、僕はすぐにシュミットを見つけられる。彼の纏う空気は違う。
「シュミット!」
手を挙げると、シュミットが僕を見てにこっと微笑んだ。
「ただいま、エーリッヒ」
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
シュミットの手から荷物を引き受けながら、僕も笑いかける。
「それと。……お誕生日、おめでとう、シュミット」
ずっと直接言いたかった言葉をシュミットに伝えると、シュミットはぱちりと瞬きをしてから、
「こんなところで?ははっ!ありがとう、エーリッヒ」
と顔を崩した。
「早く帰りましょう、疲れてるでしょうから」
照れもあり、僕は先に歩き出す。シュミットは楽しそうな嬉しそうな顔をして着いてくる。
「なぁ、俺がいなくて寂しかったか?」
答えなんて聞かなくても分かるだろう問いを投げかけて、「どうなんだ?」とニヤつく彼に、「寂しかったですよ、それに」と僕は足を止めて向き合った。
「?」、と同じく歩みを止めた彼の耳元に顔を近づけて「早くあなたを抱きたくて、気がおかしくなりそうです」と囁く。
シュミットは息を飲み、それから僕の首に腕を巻き付けてきて、「分かってる。早く帰ろう」と囁き返してきた。
身を離すと、シュミットが目を潤ませて僕をじっと見ている。
ああ、もう、こんなところではキスもできないし、両手に荷物がいっぱいで手を繋ぐことすらできないのに。この人は何を期待しているのか、どれだけ僕の欲を煽るのか。
「家まで我慢なんて、地獄のようですよ」
「言うな、同じことを俺も思ってる」
それから僕らが早足になったのは言うまでもない。
シュミットが帰ってきたら、誕生日祝いにあれをしてこれをして……と色々考えていたのに、シュミットの痴態の妄想で頭がいっぱいになってしまった。
ようやく荷物を車に積み込み、シュミットを助手席に乗せてから僕も車に乗る。
「エーリッヒ」
エンジンをかける前に名を呼ばれ、キスされることが分かっていて顔をシュミットに向けた。
夢中で僕の唇を貪るシュミット。口を開けると、すぐに舌が入り込んでくる。
「ん、……エーリッヒ、んん、……」
僕の頬を両手で包み込み、名前を呼びながらキスに溺れるシュミットが可愛くて可愛くて……。
「シュミット、これ以上は……。我慢ができなくなります」
シュミットのキスを遮って、困りきって僕は言った。
「急いで帰りますから、もう少しだけ我慢していてくださいね」
前を向いてエンジンをかけ、アクセルを踏む。横顔に痛いほどの視線を感じていたけれど。
帰宅して、玄関に荷物を放り出したまま、寝室に籠る僕たち。
お互いに満足した頃には、シュミットはもう足腰が立たなくなっていた。
「離れていて寂しかったが、たまにはこういう事があってもいいかもな。お前がいつも以上に情熱的で、すごく良かったよ」
へろへろのくせにそんなことを言うシュミットの頬にキスをして、
「無理させてしまいましたね、すみません」
と詫びる。
「お仕事と長旅で疲れていたでしょうに」
しゅんとして言うと、シュミットは「いいや」と首を振った。
「したかったのがお前だけだとでも?」
「シュミットも僕としたかったですか?」
「……当たり前だろう?」
ふふ、と優しく笑うシュミットは美しい。
「あなたって、僕のことが本当に好きなんですね」
僕も笑って軽口を叩く。シュミットは「それもお互い様だな」と、今度は彼の方から僕の頬にキスをしてくれた。
「さすがに疲れた……少し寝る」
シュミットがもぞもぞと布団に潜る。僕はシュミットの髪を撫でて。
「おやすみなさい。……起きたら、改めてお誕生日のお祝いをさせてくださいね」
欲に流され忘れていたわけではない、シュミットの誕生日を祝いたい気持ちを告げると、シュミットは上目遣いに僕を見た。
「楽しみにしてる」
それから長い睫毛がとろけるように潤む瞳を覆い隠すのを見届けて。
すぅすぅと規則正しい寝息を聞きながら、シュミットの裸の肩を抱いて、僕も目を閉じ眠りに落ちた。