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    カイムの故郷のモブ女性視点の話です。
    作中に中絶や実際の女性差別に基づいた描写があります。苦手な方はご注意ください。
    罪人イベ以前に書いたプロト版短編→ https://poipiku.com/3805122/8161067.html

    美しい村の話あるところに美しい村がありました。

    その村は辺境の片隅の、よくできた寓話に出てくるような美しい田園地帯にあり、おもに農業と酪農で生計をたてていました。
    大地の恵みは豊かではなく、畑でとれる作物はあまり多くはありませんでしたが、近くの小さな森ではフォレストベリーやネクタルの実やキノコなど様々な森の恵みが採れ、罠や狩りで獲物が獲れた日や家畜をしめる時は新鮮なお肉にありつけました。
    家畜の乳からはチーズやバターも作られ、それらの品で近くの村やキャラバンと細々と交易し、村人たちはお互いを助け合いながら暮らしていました。

    村の外れには広大な花畑が広がり、春になると色とりどりの様々な種類の花が咲き乱れました。
    花の命は短く日持ちがしませんが、乾燥させてドライフラワーやポプリにしたり、度数の高いアルコールに花びらや葉や根を漬け込みティンクチャーにすると長く楽しめました。
    草花の種類によって様々な香りや薬効があり、小さく軽く高く売れるティンクチャーは、たまに村を訪れるキャラバンや個人の行商人に卸すと村の女たちのいい小遣いや家計の足しになりました。
    花畑の近くにはミツバチの巣箱があり、働き者のミツバチたちが飛びかうなか、女たちがおしゃべりをしながら花粉まみれになったお互いを笑いあい、たまに巣箱から蜂蜜を失敬しながら花を摘む光景は村の春の風物詩でした。

    また、村の近くには川が流れており、その川が森を通る途中堰き止められてできた湖の向こう側、鬱蒼とした黒い森のそのまた向こうにある山々から流れてきていました。
    暖かくなるとその山の向こうから水鳥たちがやってきて、森の中の湖のほとりでつがい卵を産みました。その水鳥たちや巣材から少しずつ羽毛をもらい、厳しい冬を乗りきるための暖かな寝具を作るのも女たちの仕事でした。
    夏の青々と茂る木々や田園の緑のなか、白い大小の水鳥が点々と列をなす風景はそれは美しいものでした。

    夏が終わり大きくなった水鳥たちがすっかり飛び立ち肌寒くなると、村人総出で大地の実りを収穫し、冬に備え保存食を蓄えました。そしてすっかり緑が落ち着き秋色になった深い森に男たちがわけ入り、木を切り倒しては上流から丸太を流し、下流の村で片っ端から丸太を来年の冬の薪にするのが村の秋の恒例行事でした。

    薪割りと収穫と冬への備えがすっかり終わると、村人たちは冬を越す前に家畜をしめ、女たちがささやかながらご馳走をこしらえます。そしてにぎにぎしく村の広場にそのご馳走と葡萄酒を並べみなで囲み、食べ、飲み、歌い、踊り、これから訪れる寒さの厳しい冬の前の賑やかなひとときを楽しむのでした。


    美しい村でした。


    ーーーーーーーーーーーーーー

    あるところに女がいました。

    女は美しい村に住んでいました。

    女には大きな息子がいました。
    息子は村を出て遠い町で働いて一人暮らしをしており、ときたま便りをよこして無事を知らせてきました。
    親想いの優しい我が子は女にとって自慢の息子でした。

    しかし女は読み書きができませんでした。
    自分の名前は書けましたし、かろうじて簡単な字や単語はわかりましたが、手紙のような長い文章はお手上げでした。
    普段は本を読むことも文字を書く機会もなく、特に不便を感じませんでしたが、息子から手紙が届いたときばかりは少し切ない気持ちになりました。

    女は息子から手紙が届くたび、花畑の方にあるこじんまりとした家に住む赤毛の女を訪ねました。
    赤毛の女は村の外から嫁いできた「町」の女で、流行り病でこの村出身の夫を結婚後早くに亡くした未亡人でした。誰にでも分け隔てなく親切で優しい人で、いつも村の人々に囲まれ愛されていました。赤毛の女は村人たちの悩みや困りごとの相談にのるほか、町の学校へ行っていたため読み書きのできない者に代わり代読と代筆もおこなっていました。女もその常連のうちのひとりでした。

    赤毛の女はにこやかに女を質素ながら整理整頓の行き届いた居心地のいい家の中に迎えいれました。棚にはさまざまなティンクチャー瓶や薬草の瓶と一緒に、この辺りでは珍しく本がいくつか並んでおり、いつ行っても家中からなんともいえないよい香りがしました。
    赤毛の女は一杯の温かなハーブティーと、さくりとほどける手作りのクッキーで女をもてなしました。そして柔らかい声で朗らかに手紙を読み上げ、仕事が忙しく村へ帰れないが母である女の体を気遣っている旨の文面を指でなぞりながら、母親思いの息子を褒め、女へやさしく微笑みました。

    女は俯いてはにかみました。


    自慢の息子でした。


    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    【春】

    ある時、何回目かの手紙の代読を頼んだ日、赤毛の女は自分でよければ女へ文字の読み書きを教えることを提案しました。

    女は喜びました。
    息子の手紙を自分で読み自分で返事を書けると思うと、年甲斐もなく胸が躍りました。

    女は両親に「女に学はいらない」とろくに文字の読み書きを教えられず育てられました。薔薇色の頬の頃に嫁いだ夫に文字の読み書きを教えてほしいと乞い、その頬を打たれた時から学ぶ機会のないまま時が経ち、日々の生活に追われ気づけば老いていました。

    今でこそこの村も幼い子ども世代は日常生活に支障が出ない程度には文字の読み書き計算を教わりますが、その親や祖父母世代の中には文字の読み書きがおぼつかない人が珍しくありませんでした。また、この村に嫁ぐ前の女の生まれ育った故郷はさらに保守的で貧しく、女の母親は自分の名前を書くこともできませんでした。

    女は日々の家事や畑仕事の合間にこっそりと赤毛の女の家に通い、文字の読み書きを教わりました。村の集会所で読み書きを教わる子どもたちのように小さなお古の黒板に石灰で文字を書いては消し、書いては消しを繰り返し、一文字一文字を覚えてゆきました。それに赤毛の女は、女の手紙の代筆や自身の手仕事をしながら根気強く教え、褒めました。

    文字を一通り覚えたあとは赤毛の女の家にあった寓話集をもとに、読む練習もしました。
    赤毛の女が文字を指で追い柔らかい声で読み上げる各地の数々の寓話は、子ども向けながら教訓と示唆に富み面白く、また自分で文字が読めること自体の高揚から勉強はますます捗りました。本の中に出てきた単語も何回も練習しました。

    そしてついに、今まで赤毛の女に頼んでいた息子への返事の手紙を自分でしたためました。
    女がいつものように口頭で伝えた手紙の返事を赤毛の女が紙におこし、それをお手本に紙に書き写したものですが、女は生まれて初めて自分で「手紙」というものを書きました。
    その心をこめて書いた手紙は大事に折り畳み封筒に入れ、キャラバンへ託しました。

    赤毛の女は、女が家でも勉強できるようにと辞書を貸しました。
    それは見る人が見れば最新の版ではなくやや古ぼけており、携帯用の小さい簡易版のため、必要最低限の語しか載ってないとわかったことでしょう。しかし女の世界には「辞書」も、「辞書を引く」という行為自体もありませんでした。そもそも村にも故郷にもわざわざ高価で誰も読まず腹も膨れない書物に金をかける者などおらず、辞書などありませんでした。
    毎日新しい単語を覚えていく。わからなかった文字が読める。
    女は夫に隠れながら家事や手仕事や畑仕事の合間に夢中で勉強しました。

    赤毛の女がキャラバンと交渉しティンクチャーを以前より高く買いとってもらえるようになったので、へそくりから安物とはいえ自分のためだけの紙とインクを買えました。ペンは渡り鳥が落としていった羽の先を削って作りました。
    女は嬉しくて、覚えたての字と自分の言葉で息子にせっせと手紙を書いては、キャラバンが通りかかるたびに送りました。

    辞書も紙もペンも戸棚の奥深くにしまいこんでしまえば、家のことに無頓着な夫に気づかれることはありませんでした。

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    【夏】

    ある日、女が赤毛の女の家の方へ行くと、赤毛の女の隣にすらりとした赤毛の若い男がいました。
    赤毛の女の息子でした。
    赤毛の息子は幼い頃から賢く、普段はここから遠く離れた町の寮のある学校に通っており、長期休暇を利用したまに村に帰ってきておりました。

    赤毛の息子は相変わらず人を見下したような冷ややかな目をしていましたが、見かけるたびにうんと背が伸び、村の同じ年頃の子供たちの背をとうに抜かし大人の男に迫る背丈になっていました。
    母親に似た少女のようにも見える整った美しいかんばせと燃えるような艶のある赤毛、父親譲りの成長期のまだ骨の細いしなやかな長い手足、都会の暮らしで培った垢抜けた立ち居振る舞いは、将来見目麗しい美男子になることを約束されていました。屈託ない可憐な少女のように笑う母の横に並ぶと、まるで姉弟のようでした。

    にこやかに挨拶をしてくる赤毛の女と対照的に、赤毛の息子は女に気づくと顔だけ向けにこりともせず軽く会釈をし、また興味なさそうに顔をそむけました。
    夏の盛りの日差しの中、木陰にいるとはいえ短く整えられたうなじに汗のひとつもかかない涼しげな白い美貌はまるで上等な蝋細工のように人間離れしており、身じろぎのひとつも無いすらりとした優美な立ち姿はよくできた陶器の人形のようでした。
    辺境の鄙びた風景の中のあまりにも浮世離れした美しさは現実味がなく、自分の白髪ばかりの髪を揺らす夏の乾いた風がその子の艶やかな赤い髪を揺らし、木陰の隙間から差し込む眩しい日差しがきらきらと白いなめらかな肌と艶やかな赤い髪を照らしだし瞬かせていることだけが、その子が自分と同じ土の上にいることの唯一の証でした。
    母以外の村の者に見せる冷たい横顔すらも、ぞっとするほど美しい子でした。

    女は赤毛の息子が嫌いでした。

    その昔、産婆のお婆さんの手伝いで赤毛の女の出産に立ち会ちあった時。長いお産の末にようやく産まれ、泣きもせず、血と体液に濡れたしわくちゃの顔のなかで全てを見透かすように静かに見開かれたその子の「目」と、確かに目が合いました。
    その時から今に至るまで、全てを理解しこちらを見透かし見下しているような、子供離れしたその赤い冷たい「目」がどうにも気味が悪く、女はその子の事が好きにはなれませんでした。

    女が揺れる赤い髪を忌々しく見ていると、ふいに風に乗って遠くから赤子の泣く声が聞こえてきました。村の外にいた全員がその声の聞こえる方へ顔を向けました。
    少し離れた家で、子供が生まれた声でした。
    女より十も下の村の女には若い娘がおり、娘は一度近くの小さな町へ働きに出ていましたが村に戻り、村の若い男と結婚し、もう2人もわんぱくな男の子を産んでいました。

    きっとこの力強い泣き声も男の子のものでしょう。
    きっと年下の女は新しく生まれた孫の愛らしさを女に自慢げに話してくることでしょう。

    近くの茂みから渡り鳥がばさりと飛び立ち、雛鳥へ餌をやりに巣に帰るのか、湖の方へと飛んでいきました。白い羽根がひとつ、ぱっと散りました。

    女は微かに聞こえてくる産声を聞きながら、小さくなってゆく白い鳥をただ見ていました。





    女は家に帰ると、いつものように遠い町にいる息子へ手紙を書きました。

    お前の身を心配しているよ。
    早く嫁さんを連れて村に戻って、どうか私が元気なうちに孫の顔を見せておくれ。
    それかお前の住む町に私だけでも呼び寄せて養っておくれ。

    いつものようにしたためた手紙を封筒に入れ封をすると、通りがかったキャラバンへ渡します。

    息子からの手紙の返事は途切れ途切れになっておりました。

    女は心配でした。
    最近はこのあたりも人々を惑わす「異端」や「魔女」が出たり物騒だと聞きます。
    女は息子の身を案じました。


    自分の子供の身を案じない母親がどうしてこの世にいるでしょうか?


    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    【秋】

    森の中の湖や川縁を陣取っていた水鳥たちもすっかり飛び立ち、あたりが秋色に染まり穂も垂れてくると、山を越えた先の町へ鉄鉱石の採掘の出稼ぎに行っていた幾人かの若い男たちが収穫と薪割りのために帰ってきます。
    村のあちこちで久々の再会を喜び、抱きしめ合う家族の微笑ましい様子が見られました。

    また、赤毛の息子は町の学校で優秀な成績が認められ、この秋からはるか遠くの王都の学校へ推薦で入学し、授業料も寮費も全額免除されると噂が出回りました。村の人々は口々に赤毛の女に親孝行の自慢の息子だと褒め、女も謙遜しつつもその輪の中で幸せそうに笑っていました。
    女には学校というものも、それに入るのがどれだけすごいことかもよくわかりませんでした。それでも、あの若さで女が苦労して読んだ寓話集のいくつものお話も、辞書の中のたくさんの言葉もすっかり覚えてしまっていることは確かで、それだけで女にはとてつもなく途方がないように思えるのでした。

    先月また村で子供が産まれました。
    男が出稼ぎから戻り冬支度がひと段落した秋から雪に閉ざされ娯楽のない冬にかけて、若い夫婦は子作りに励みます。だからこの辺りでは夏から秋にかけて生まれる人が多いのでした。
    これでこの辺りで同世代で孫がいないのは女の家だけになりました。

    女は息子1人しか産めませんでした。
    なかなか子供ができなかったり、何度か身籠ってもうまく育たず流れてしまい、ようやく息子を出産した時にはこの辺りの地域では年齢が遅い方でした。
    夫は子供ができない原因は女にあると言い、女を罵倒し打ちましたが、女は離縁したくはありませんでした。自分の名前さえ碌に書けない母のいる大地の恵みの貧しい閉鎖的な村に帰りたくありませんでした。そんな中なんとか息子を出産できたのは幸運なことでした。

    そして女は知っていました。子供ができにくかった原因は夫にあることを。
    実際に年下の女の娘が夏に産んだ子供は明らかに相手の父親似でした。
    夫とあの娘の関係は、女にはろくに内容がわからないだろうと夫がその辺に放っていた娘からの手紙からわかったことでした。

    昔、自分も村の男と浮気をした時のこと。今まで夫との間であの手この手で涙ぐましい努力をしたのが嘘のように、違う男と数度寝ただけでいともたやすく身籠りました。村の男は女が孕んだと知ると、本当に自分の子供か疑い、やがて女から身も心も離れてゆき他人のふりをするようになりました。
    女は夫との間の子として産もうかとも思いましたが、その頃には夫は陰気でいつも苛々している女に嫌気がさし外の女と寝るばかりで、女を抱いてはくれませんでした。また、息子もまだ小さく手が掛かり、暮らしに手一杯で子供を増やす余裕はありませんでした。なんとか誤魔化して産んだところで夫が家庭をかえりみてくれない事は明白でした。

    女は誰にも秘密で村の外れに住む産婆の家でひっそりと子供を堕しました。

    痛む腹を抱えながら人目を偲んで夫と息子の食事を用意するためにのろのろと歩む家路ほど惨めなものはありませんでした。




    以前、女が埋葬地近くを通りかかった時のこと。

    薄く霧のかかった中、埋葬地へひっそりと歩いてゆく人の影がありました。それはよく見ると赤毛の女でした。手にはモーリュの花を持っていました。
    赤毛の女は埋葬地の真ん中あたりで立ち止まると、その場に花を置き、何をするでもなく静かにしばらく佇み、そっと立ち去りました。
    女がその花へ近づくと、最近のものらしき枯れた花があちこちに置いてありました。
    なかには赤毛の女の家の近くの花畑にしかない花もありました。

    その後も野花を手折り埋葬地に赴く赤毛の女を見たことは一度や二度ではありませんでした。

    村中の男たちの誰もが、赤毛の女には鼻の下を伸ばし、いい格好をしようと下心からやれ自分の畑の野菜だの川魚だの仕留めた水鳥だのを差し出したり、親切にしました。赤毛の女は一人一人に笑顔で丁寧にお礼を言い、男たちはその可憐な笑顔にさらに鼻の下を伸ばしました。女の夫も例外ではありませんでした。

    その男たちの誰かひとりでも、死んだ夫ただひとりに生涯の愛を誓い添い遂げようとする女の高潔さと深い愛を理解できるでしょうか。心に空いた愛する者の形をしたがらんどうの痛みをそのままに抱え続ける孤高の強さを。悲しみを。愚かですらある純心を。

    白く燻る埋葬地に佇む気高く寂しい背中と鮮やかな赤毛が、女の目に焼き付いて離れませんでした。



    今年も薪にかかる税が上がりました。
    人々を惑わす異端の者が年々増えている影響で薪の需要と値段が高騰しているせいです。風の噂によると女の故郷でも「魔女」が出て燃やされたとのことでした。

    女はふと、自分が大地に還ったあと夫は、息子は、あの赤毛の女のように自分の死を悲しみずっと想ってくれるだろうかと一瞬考え、考えるまでもないことだと自嘲しました。

    当分大地に還らなさそうな夫は今も昔も女を大切にしてくれません。

    老いてくたびれた女に言いよる男はもう誰もいません。

    恩知らずの息子からの手紙はとっくに途絶えていました。




    本当は気づいていました。

    赤毛の女がいつもにこやかに読み上げていた息子からの手紙の便箋が自分が送るものとそう変わらない安物であることを。
    父に似て愚鈍で母に似て偏屈な学のない辺境出の年増の安い給料の男と結婚し子を成したい町の女などいないこと。
    浮気症の夫が他にも村の女達と寝ていることも。
    読めずとも本当は女も気づいていたのです。

    息子の手紙の内容がいつも同じこと。

    息子は村に帰ってくる気は無いこと。

    この閉鎖的な「村」に嫌気が差し出ていったこと。

    その「村」の中には自分も含まれていること。


    誰も自分をここから連れ出してなどくれないこと。


    そして何より女は許せませんでした。
    赤毛の女が女の息子の心のこもってない手紙を読む時、心の底から息子が母の身を案じ故郷に帰りたいと本気で思っていることを。

    自分がそうであり息子もそうだから。

    それが一層腹立たしかった!


    あの子供離れした全てのヴィータを私を馬鹿にした目をしたいけすかないあの女の息子は、タダで入った王都の学校を優秀な成績で卒業し王都の高給職に就き、いずれ母をこの息詰まる辺境の村から華やかな王都へと呼び寄せ、そして母と同じように美しく若く心の善良な娘を娶り美しい子を成し、その愛くるしい子をあの女は歳をとってもまるで清らかな少女のような屈託ない笑顔で抱き、世界で一番の幸せ者の顔をするのだろう。そして息子夫婦と孫に囲まれ看取られながら幸せな生涯に幕を閉じるのだろう。よくできた寓話のように。


    女は羽ペンを取ると、粗い漉きの紙に強い力でインクを滲ませながら歪な字を綴りました。




    しんも んかんさま へ



    わたし の むら まじょ がい ます




    fin







    ーーーーーーーーーーーーーーーー


    【本編より長いかもしれないあとがき】

    個人的設定メモがてら怒涛の設定追撃弁解タイム

    •女の勉強前の識字レベルは日本語で言うと辛うじてひらがなとカタカナレベルで、読める箇所だけでも時間がかかり文章全体の把握が困難 書くのはもっと難しい

    •カイムのお母さんが生まれ育った町はイメージとしてデカラビアが育った町くらいの規模
    そこまで大きくもないし学校の偏差値も特に高くないが、普通に学校があり望めば性別関係なく行けて、蔵書は多くはないけど図書館があり誰でも借りれて、品揃えは多くはないけど新書の本屋も古本屋もある
    カイムのお母さんも特に高い水準の教育を受けたわけではないけど、学校がない辺境では女が「学校」に行って学を納めたという時点でレアだしエリート扱い
    (ちなみにデカラビアは生まれ育った時代と環境が違ったカイムのアナザーだと思ってます)

    •男たちの描写が透明化されているのはわざとです 男すぐ透明化される問題

    •季節順で書いたけど1年の内に起こった事というより、数年かけて起こった一連の出来事を抜粋して書いた感じです これから【冬】の時代に突入します

    •この話の翌年くらいに冷害が起こり食糧不足で情勢が不安定になり魔女狩りが激化、火炙りの際に薪を大量に消費するため薪の値段が高騰、山や森から切り出す際も今まではお目溢しされていたが木の重量に対し重い税がかけられるようになり人々は困窮し、冬季の死亡者数が増加した ベルナールの地域も似たような感じだった
    ちなみに作中の女もカイムのお母さんが連れ去られた後に魔女狩りに遭わずとも情勢の混乱と困窮で死亡した可能性が高い
    堕胎をしていた産婆の女も魔女狩りで焼かれたので出産時の死亡率も上がったし危険な中絶で命を落とす女も増えた

    •冷害で地域一帯が不作になり炭鉱への出稼ぎが増加、無理な採掘をしたため大規模な落盤事故が起き、村の若い男たちが何人も亡くなったり行方不明扱いになりでますます村は困窮した

    •カイムの家は花畑寄りで、産婆の女は埋葬地寄りの立地のイメージ
    死産や中絶で亡くなった赤子を埋めやすいのと、中絶を望む女が見つからず来やすいように埋葬地の村はずれ近くに居を構えている
    そこへ花畑の花を持ってカイムのお母さんが夫の眠る埋葬地へ足を運ぶ 生と死が入り混じる

    •アジト入居初期、シバと協力関係になりアジトを借りるにあたり個々のメギドと形ばかりとはいえ王宮側と契約書を交わすことに→貴重な整理整頓が得意で書類仕事経験者(ヒント:母親探し)の初期メンツのカイムが各メギドに契約書にサインを貰う仕事担当に→ガープは元奴隷剣闘士の出自でも最低限の読み書きはできるが、契約書類など難しく細々した文章が苦手なのでカイムに代わりに読んでもらえないか嫌味覚悟で頼む→皮肉のひとつでも言われると思ってたら案外すんなり読んで内容を噛み砕いて教えてくれて拍子抜けする、というプロローグからのこの話になる流れだった
    (ちなみにこの時の名残とアジト常駐組である事から定期的に新しく軍団に入ったメギドの報告などでこまめに王宮に連絡役として足を運びシバと顔を合わせる回数が多かったので、6章で足音だけで「カイムか?」とシバに言われたり、デカラビアイベでシバの側に居たのかな〜と思ってます 実際王宮に頻繁に出入りして権力者に対し無礼のない振る舞いをできるマメな大人祖メギドがカイムくらいしかいないし こじつけ)

    •弊アジトではカイムはメギド確定ガチャで来てくれて、最初期からガープワントップ編成でガープとカイムがよく一緒に出撃してたので、仲良しでは無いけどよく戦闘で一緒になるという弊アジト設定 ミドガルズオルムもフォルネウスも一緒に倒した仲
    思えば2人とも母親から愛情を受け守られて育てられた2人だね 今気づいた 2人とも母親亡くなってるし

    •実際の宗教が絡む魔女狩りでも、キリスト教から見て目障りな経験則の薬草学による医療や占いやカウンセリング業を行い人々の支持を得て地位を確立している女性を排除し、人々をキリスト教に誘導する目的もあったらしいので、カイムのお母さんもリタもそういう人々の悩み相談を聞くカウンセラー枠を意識して描写されているのかな〜と思っている
    でもさすがにそれらのお礼の品だけではシングルマザー生活が成り立たなさそうなので、そこに学を活かした代筆代読業と行商との交渉役(田舎ヘイト72%増)、独自のティンクチャー作り(薬草学)とオリジナル設定を足し魔女みを強くしました
    あの女は怪しい媚薬を作って男を誑かしている(告発)

    •ちなみに悪魔の鏡イベでカイムがソロモンのために取り分けた特によく焼けたキッシュに乗せるつもりだったトリュフも昔『悪魔の媚薬』とか悪魔の食べ物とか言われてて全私が狂いました

    •カイムの生家、ドライフラワーとかそれから作ったポプリもあってめちゃくちゃお花のいい匂いしそう カイムのお花好きはどこから?お母さんから(号泣)

    •ティンクチャー(チンキ)やポプリは、村の人たちは高く買ってくれてると思ってたけど実際にはキャラバンや行商に結構買い叩かれており、町での相場を知ってるカイムのお母さんがこの地域にしか生えてない希少な花やハーブを使ったレア度の高い品の納品数を確保するかわり買取額を上げるよう交渉した(負け犬のバラードイベの銀細工叩かれ村並み感)
    村人の特に女性陣には感謝されたが、それを面白く思わない村人のお母さんヘイトポイントが加算された

    •カイムは田舎から脱出する為と母親を町へ呼び寄せるため好きでもない本を読み勉強を頑張っていて、そのままいってたら老女が想像した通りの未来になっていたので、カイムのエリート出世街道を阻止し幸せルートを滅したという点では老女大勝利
    ただあのまま何事もなく卒業し王都で仕事をしていたらカイムは3章時点でフォトンバーストに巻き込まれて母や妻子諸共死んでた
    または召喚を受けてなくても特性:被ダメ15%減でカイムだけなんとか辛うじて生き残っても、自身も血まみれの重症で家族の血溜まりの中で茫然と立ち尽くすというどのみち未亡人エンドになってた

    •ちなみにカイムが入学し審問官になるべく中退した王都の学校はシャックスとマルファスが行ってる学校と同じなので2人のOB(個人設定)
    2人には伝えないが、2人が学校の先生や校舎や学校あるある話をしているのが聞こえてくるとひとり「あの購買まだあれ売ってたんだ」とかなってる でも誰にも言わない(そういうとこだぞ)

    •質問箱よりフォトンの肥沃な地域では人々の健康状態が良く寿命が長いというのと、転生メギドは無意識にフォトンを体に集めているので若々しい見た目の人が多い(背の高い女性転生メギドが多いのもこの影響?)とあったので、お母さんのクッキー作戦でも村の子供たちと遊ばず、おそらく村を出る前はずっとお母さんと一緒にいたカイムの影響でお母さんもフォトンの影響を受けていたせいもあり年より若々しい設定があった
    遺伝的に背が高い方だったとはいえフォトンの影響で村の子供たちの中で1人だけやたらグングンと背が伸びやたら栄養状態が良さそうなカイムと、元々の雰囲気や体質やフォトンの影響で大きな子供のいる年齢とは思えない若々しい今でいう美魔女お母さん 田舎において異端の母子すぎる
    と考えてたので、ウェンディゴイベで若返りの薬として長命者じゃないただの若作りのヴィータの肉も食ってた発言見て真っ先に「時代が時代ならカイムとカイムのお母さんヤバくない?」となった

    •カイムのお母さんが焼くクッキーは町にいた頃にそこの人気洋菓子店の人から特別にレシピとコツを教えてもらい、その後試行錯誤したお店顔負けのサクッホロッとした型抜きクッキーで、田舎風の煎餅のような硬いクッキーが主流の村に革命を起こし、村の子供たちの間で大人気となった それが余計一部の村人のコンプレックスと癪に特効で刺さった

    •女が代読代筆のお礼として持っていった親の水鳥の肉とその卵(中で雛鳥が育っている)を茹でたものを、子カイムは食べなかった

    •女の息子は本来筆マメではなかったが、カイムのお母さんの美しい字といい匂いのする便箋で手紙が来るので(内容は結婚はまだか孫はまだか攻撃)、女っ気のない暮らしのオアシスとして母親を通じてカイムのお母さんと文通をしているつもりでたまに手紙を出したが、母親から続々届く直筆の怨念じみた鬼催促手紙攻撃に辟易してガン無視するようになった。
    その後縁を切ったか母親も魔女狩りのどさくさで亡くなり音信不通になり、村にも一生帰らなかった。

    •作中どんな渡り鳥かぼかしてますが、モデルになった基本的に生涯お互いだけでペアを組み一生添い遂げ繁殖するコウノトリのつがいと、亡くなった夫を生涯愛し再婚せず夫の眠る地に留まるカイムのお母さんをかけてます つまりカイムにもかかってます(狂)


    老女にフォーカスし書きましたが、あくまで老女の告発はきっかけではありますが決定打ではなく、色々と重なってしまった要素の内のひとつです。
    ちなみに決定打はカイムのお母さんに笑顔で親切にされ「俺のことが……好き……?//////」と勘違いし盛り上がった男が「子持ちで年増の中古女だけどまだ若くて美人で全然イケるし、女ひとりの身は大変だろうし子供には父親が必要だから俺が父親になって養ってやるし俺との子供たくさん作ろうな?(確定事項)(息子は邪魔だしいけすかないので邪険にする気満々)」と結婚を迫り断られ(ちなみにカイムのお母さんは主人を忘れられない旨説明しこれ以上ないほど丁重にお断りした)、激昂した男が「あの女は清らかな顔をして人を誑かす『魔女』だ」と吹聴、降ってわいたゲスなゴシップに表向きカイムのお母さんに好意的だったが粗探しをしていた村の住人達が「やっぱりあの女には裏があったか」と便乗し糾弾されたカイムのお母さんは自称審問官に連れ去られた感じだと思います。
    あとちょっと金と権力のあるおっさんの愛人にしてやるとか、地域の中でも影響力のある男からの俺の息子グソックと結婚させてやる(自分の息子の「嫁」に手出す気満々)とかの「男」からの申し出を断ったパターンもありそう。
    この世で女の一番の罪は殺しでも強請りたかりでもなく『男の面子を潰す事』なので。

    ただ、実際の末期の混乱期の魔女狩りはともかく、実際の異端審問は結構書類仕事で審問の内容を記録に残していたようなので(自称審問官がどこまで記録してたかは謎ですが)、
    冷害による食糧不足が起こり、史実の魔女狩り同様に飢えと寒さで情勢が不安定になり魔女狩りが加速、地域全体が混乱状態に陥り、記録の管理も杜撰だったりどさくさでうっかり消失したり改竄されてたりとどっかの日本みたいになったせいと、片道何日もかかる王都の学校へ行きしばらく村を離れていたせいでカイムも母親探しに手間取り数年かかったのかなと思いました。
    カイムが作ったキッシュの発祥地であるアルザス•ロレーヌ地方も長年フランスとドイツの領地の取り合いや戦争で混乱してたらしいですし。

    異端審問の波と冷害による不作と家畜の病気が重ならず、食べる物や気候に困らなかったらカイムのお母さんに迫った男の逆恨みの訴えも「あの人があんたになびくもんかい!」とみんな笑って聞き流したかもしれません。
    たぶん村のみんなカイムのお母さんが眩しすぎたんだと思います。放たれる光が強ければ強いほど影は濃くなるので。
    あまりにも胡散臭いくらい善良で裏表が無さすぎて誰にでも手を差し伸べるから、自分の常識の範疇から逸脱していて気味が悪くて、でも周囲の手前なんの欠点もないカイムのお母さんの悪口を言って発散もできず鬱憤が溜まってたところへ降って湧いたゴシップ。男の勘違いだと薄々気づきながらカイムのお母さんの「裏」だとされるものに飛びついて、自分は『そっち側』じゃない保身アピールの為にもみんなでカイムのお母さんを吊り上げたのかなと思います。あの女を自分達のコミュニティから追い出せば平穏が訪れるという虚像にすがって。彼女を追い出しても次は自分の番なのに。

    あと老女が字が読めるようになって色々と見え知ることで地獄が加速するのは、「知る」事の残酷さ、人は知り区別をするようになることが悲劇に繋がるという罪人イベの中のカイムの言葉にも掛かってます。
    抑圧された女が自分を抑圧する構造や男を批判せず手近な目の前の同じ女を刺す。よくある地獄です。
    でも実際の異端審問や魔女狩りもそういう残酷な差別構造の問題が土台にあり、デカラビアイベのカンセみたいな日常に転がってて誰の中にもある素朴な排他感情や差別や妬み嫉み僻みが土台でもあり骨組みでもあるので。
    (余談ですが「妬(ねた)み」も「嫉(そね)み」もどっちも「女」がつくのがいかに男尊女卑な世界で字の読み書きができる知識階級に男がのさばり男が字を考え男が文化を作り継承してきたのかわかりますね)
    (ちなみに女の部首がつく漢字はネガティブな意味や嫁や姑など「家」の中のポジションを示す字が多く(言葉も「女々しい」とかネガティブな物が多い)、男はそもそも男が部首の字自体が少なく、言葉も「雄々しい」とかポジティブなものが多いです よっ!儒教と家父長性と男尊女卑の合わせ技!!)

    あと今回は
    カイムのお母さんが作っていたキッシュやクッキーはバターを使う→日持ちしないバターが安定して手に入った可能性→マルチネちゃんとこレベルじゃないにしてもイナカーンのように畑仕事の延長で牛を飼って酪農もやってた?→カイムとお母さんに美味しいものいっぱい作って食べてほしいから食べ物のバリエーションを持たせたい
    という流れとCカイムのキャラストの田舎背景のイメージもあり、めっちゃ豊かではないけどそこそこ食べ物には困らないのどかな田園地帯を舞台に考えましたが、大きな湖と川に挟まれた霧深い泥炭地の湿地帯にあるもっと陰鬱な村バージョンの話もやりたいです。

    もっと言うと渡鳥の時期の主なタンパク源が親鳥と雛鳥しかなくて子カイムが曇る話とかもやりたいです!


    以上です。

    ここまで読んでくださった物好きな方ありがとうございました。
    小説に不慣れで異端審問や魔女狩りの知識も非常にざっくりしたものなので粗も目立つでしょうが生温かい目で見て下さると幸いです。(遅)


    【参考元】
    Bフルーレティ キャラスト1話
    男が商売で失敗するのは珍しくないが、女が商売をするのは一般的ではないという記述
    →元ネタがあるとはいえ、ヴァイガルドの特に辺境は男尊女卑の傾向が強い可能性

    Bアクィエル キャラスト1話
    辺境では学校が一般的ではなく、ソロモンも学校に行ったことがない記述
    Cアンドラス キャラスト
    故郷の村から町の医学学校へ進学した記述
    フィロタヌス
    カウントダウンで学校のない辺境を周り勉強を教えている記述
    →自称異端審問が蔓延る辺境にカイムの偏差値に合った学校なさそうだから王都、または王都近辺の大きな町の寮のある学校へ経済的に学費免除の特待生で入学した可能性が高い
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    もず❤️‍🔥

    PASTカイムの故郷のモブ女視点の話「美しい村の話」https://poipiku.com/3805122/8157818.html のパイロット版のような昔書いた短編が出土したので載せます
    罪人イベを経た今となっては完全に無いルートの話です
    漫画のプロットのつもりで書きだして途中で方向転換したので冒頭にその名残があります
    この後異端狩りで親を亡くした「悪魔の子供」を引き取るヤバ孤児院編に突入します
    ある道化の独白私はカイム
    御身にお仕えする事を、お許しください

    私は辺鄙な辺境の村で生まれ育ちました
    内気で病弱な私は近所の憎たらしい餓鬼ども、失礼、子供たちに馴染めず仲間外れにされていました

    カイムの母「あなたたち ちょうどクッキーを焼いたの よかったら食べて?」
    近所の悪ガキ「………」
    カイムの母「うちのカイムをよろしくね」
    黙ってクッキーを持っていくガキ「………」

    クッキーを食べたガキ「! うまっ!!」
    サブレー「うちのかーちゃんのよりうめぇ!!」

    サブレー「ただいま!」
    サブレーの母親「おや そのクッキー誰からもらってきたんだい?」
    サブレー「カイムのおばさん!すげーうまい!」
    サブレーの母親「………そう」


    母ひとり子ひとり 生活は楽ではなかったが、母はよく他人に施した
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