青夜ほの甘い畳の匂いを嗅ぎながら、鯉登はまんじりともせず布団の上へ横たわっていた。
灯りを落としてからは、もうどれくらい経っただろうか。少なくとも、寝付いた時には未だときおり聞こえていた表通りで歌う酒飲みたちの遠い声音が、しんと静まりかえっているように感じられるほどには――夜も、更けてきているに違いない。
久しぶりにとった市中の宿は、飯も、風呂も申し分なく、ついでだと一緒に取ってやった杉元や谷垣には――とりわけ、宿の良し悪しなどわからないであろう杉元には――勿体のないほど、上等なものであった。畳張りの部屋に清潔な布団。ここに辿り着くまで数回の野営までをも経験した身としては、有難い限りであるはずだというのに、鯉登はどうにも寝付けずにいる。そうして、目をうとりと閉じては結局寝入ることがかなわず、ごろん、と、子供のような寝返りを繰り返していた。
3553