ぺら、とページをめくる音が部屋に静かに響く。
活字の代わりにエフェクトの効いた効果音や擬音が飛び交い、登場人物の表情や構図で物語に緩急を付けていく。
小説や映画ともまた違う表現に物語の内容もさることながら、コミック独特の技法に興味が惹かれてしまう。
1冊読み終わり余韻に浸りながら本をデスクに置いた。そのまま次の巻に手を伸ばしかけて、違和感。
「もー終わりか?」
ベッドの方から突然聞きなれた声に思わず肩が跳ねて首を向ける。
「お、珍しく驚いた顔」
「…キース……」
ニヤニヤと笑みを浮かべるキースを睨むが、キースは気にもとめずデスクサイドに立ち積み上げられた本を1冊手に取る。
「ってかブラッドがコミックを読むとか珍しいな?」
パラパラと捲るキースは全く興味がなさそうだ。
普段であれば確かに自分からは手に取らないだろう分類に入る。
「先日のCFFでのグレイ達の活躍からこの作品の話題が出ることが増えたから、知らないでは少々場を濁してしまう事もある」
「ほー…勉強熱心なことで」
「アキラもグレイからコスプレに誘われたとかでコミックを読めと顔を合わせる度に言われ、セクター共通の話題だ、チームワークの為だと言われては断りきれないだろう」
「へぇ…そういやジュニアも似たような事言ってたな」
「エリチャンでも俺達を含め誰にどのキャラが似合うとかでも盛り上がっているらしい」
「ふーん…」
キースは捲っていた本を無造作に元に戻すと、またベッドサイドに戻る。
どうやら邪魔をする様子はないらしい。
次の1冊に手を伸ばしたところで体が淡い緑色に包まれた。
そのまま抵抗する事も出来ずにキースの腕の中に収まる。
「…おい」
「いやいやいや、気付けよ」
緑色の光が解除されても、がっちりとキースの腕に包み込まれて身動きが取れない。
「興味ねぇし、来客がいる中で普通そのまま続き読もうとするか?1冊読み終わるまで邪魔しないで待ってただけで十分だろ」
後ろから抱きしめたままぐりぐりと頭を首筋に擦り付けられて、くすぐったい。
「…共有部屋だ、オスカーが」
「さっきアキラとスパーリングしてるの見たし、使用許可1時間延長してた」
「…ウィル」
「 は明日まで休暇で実家だろ。昨日談話室でレンと話してるのたまたま聞いた」
「……」
ちゅ、ちゅ、と耳や首筋に軽く唇を落とすキースにため息が出る。
「ため息はねぇだろ」
「普段からそれくらいの意欲を見せろ」
「就業時間外の小言は受付対象外でーす」
くるりと体の向きを変えられ、キースと対面になる。
すこしむくれた顔が可愛い。
「最近全然時間合わねぇし…チームワークも大事かもしれねぇけど、恋人とのスキンシップも大事だと思わねぇ?」
ちゅ、とおでこに唇が触れる。
触れた所からじわりと熱が広がるような感覚があるが、共有部屋ということもあり自制という文字を頭に浮かべる。
「…シないぞ」
「流石にここじゃヤらねぇよ」
ヤりてぇけど、と耳元に熱っぽく囁かれてぴくりと体が跳ねる。ニヤ、と笑うキースに本日2度目の睨みを向けるがやはりキースは気にもとめない。
「…で?スキンシップは?」
「…仕方がない、30分だけだぞ」
「ありがたきしあわせ〜」
そのまま横に倒れ込み、いよいよキースの唇が自分の唇に触れる、と思ったら寸前で止まる。
「…?」
「なんだかんだブラッドも期待してんじゃん。かわいいやつ」
「なっ」
文句が口から出る前に唇で塞がれた。それもしっかり舌を絡め取られて。
スキンシップの範囲で終わらせられるようにしっかりと自制しなければ。
次々と降る唇の熱に浮かされないようにとは思うが、久しぶりのキースの匂いや感触に自制心が揺らぐ。
「…なんなら、いまのうちに場所変える?」
自制心と欲望。
誘惑への返事は即答出来ずに、保留にした。