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    bar928_kuzuha

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    キスブラ版ワンドロライ
    第100回『一番好きなシチュエーション』

    「ん〜〜〜…」
    「…」
    「あ!…ぁ〜?」
    「……」
    「いや、う〜ん…」
    「…うるさい」
    背後から唸り続けるキースに、流石に我慢出来なくなり振り返りながら声を掛ける。
    本日は久しぶりにキースの手料理で夕食の約束をしており、あとは会議報告を纏めれば定時で仕事を終えられる…といった所で、キースが会議室まで迎えに来た。仕事の邪魔はしないから、と視界外になるように後ろのデスクに座ったまではいいが、暫くして唸り声が聞こえてきた。
    振り返った先には、何やら紙を広げて唸るキース。その紙には見覚えがあった。
    「…広報部からの質問用紙か」
    近日発売予定のヒーロー特集が組まれた雑誌内に掲載される、いくつかのQ&A。
    「そー。恋人と過ごすなら一番好きなシチュエーション、ってのが埋まらねぇ」
    「…提出期限は明日だったはずだが?」
    「まだセーフだろ」
    「貴様はいつもそうやって期限ギリギリに行動するから内容がおざなりになったり再提出の必要が」
    「あーもう!小言が多い鉄壁の恋人が手料理食べて顔緩めてる時って書くぞ!」
    「………」
    「ほらほらお前はお前で仕事を終わらせろって」
    「…せめて唸り声を抑えろ」
    「へーい」
    面倒くさがられて妙にストレートに書かれても添削が面倒だ。それに、キースが言うように先に自分の仕事を終わらせればキースの方を手伝えるし効率的だ。
    一度ゆっくりと目を閉じて集中のスイッチを入れて目を開く。キースが何やらまた唸っていたが、もう気にならなくなっていた。


    報告書を書き終えて時計を確認すると、先程から十五分程が経過していた。メールに報告書を添付し提出をすれば、定時まであと十分余裕がある。
    キースの方を振り返れば、質問の解答用紙とは別の用紙にいくつか箇条書きがしてあった。

    『手料理を食べて表情が明るくなった時』
    『周りには見せていない疲れとかを見せてくれた時』
    『夜のドライブ』
    『なんだかんだ言いながら迎えに来てくれる』
    『何かに集中してる時に邪魔したくなる』
    『傍に居るだけで喋らなくてもいい』

    これは、『誰か』に対する好意そのものだ。
    「…やっぱダメだよな」
    用紙から顔を上げると、拗ねたように照れたキースが真っ直ぐに見つめてくる。
    普段口には出さないが、なんとなく汲み取っていた好意を形にして見せられるだけで、顔が熱い。
    「…当たり前だ」
    「だよなぁ」
    「ニヤつくな」
    「このシチュエーションも好きなんだけど書けねぇなあ、って」
    くつくつと笑うキースの顔はからかいを一切含まないものだから怒るに怒れずに沈黙を返せば、今度は声を出してキースは笑った。
    「…最後のこれは、まぁ、許容できる」
    「最後の?」

    『傍に居るだけで喋らなくてもいい』

    キースらしいといえばキースらしい。
    特定の誰かが居るとも感じられにくい。
    ただ、キースを知る者からすればそれが容易いことではない特別な事。
    「そんじゃ、これにするか」
    さらさらと書かれる文字を黙って目で追う。
    いまこの瞬間も好きなシチュエーション、ということになるのだろうか。
    書き終わり、広報部へ提出に向かう途中にキースが思い出したように「そういえば」と口を開く。
    「ブラッドはどんな内容で書いたんだよ」
    「俺は…」
    既に提出済みの内容ははっきりと覚えている。
    「忘れたな」
    「おいおい絶対嘘だろフェアじゃねぇ」
    「別に、お前の内容を教えろと言った訳じゃない」
    「カ〜ッ、そういうとこだぞ!」
    「気になるなら雑誌の発売を待つことだな」
    「絶対口割らせてやるからな」
    「やってみろ」
    「夜覚悟しろよな」
    「望むところだ」
    他人から見れば、小競り合いをするようなやり取りも二人の間ではじゃれあいのようなもの。

    『気兼ねなく話をしながら共に歩く』

    キースの答えとは正反対のシチュエーション。
    正反対でありながら反発する訳でもない二人の時間は、これからもどんなシチュエーションでもその時が一番になるのだろう。
    何よりも『二人で共に過ごすこと』が一番好きなシチュエーションなのだから。
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