baked sweet potatoシュンッ、と扉の開く機械音がする。
いま共用スペースには自分一人しかいない。シャワーを済ませ内容のないテレビを流しながら缶ビールを煽り、メンタールームにもルーキールームにも誰も居ない自由を肴にしていたのだが、誰か帰ってきたのだろうか。
「おー、おかえり…?」
ふわ、と香る甘い香りに違和感を持ちつつ入口に視線を向けると予想を外した人物が立っていた。
「失礼する。…一人か?」
「お、おぉ…」
ディノはアッシュとスパーリング中、フェイスとジュニアはそれぞれ別々ではあるがライブとイベントで出払っている。そう伝えている間に目の前のテーブルへ謎の茶色い袋が置かれて意識が逸れる。どうやら甘い匂いの元はコレみたいだが…
「…なにコレ」
「ボルテージマックスピットファイ焼き芋だ」
「ごめんなんて?」
「ボルテージマックスピットファ」
「いや繰り返さなくていいから」
情報量が多すぎる。
ゴソゴソと袋から1本の焼き芋を取り出すと半分折って手渡してくる。これは受け取らないと話が進まないやつだ。
「午後からチームで屋上の落葉清掃を行った際に作った」
「ブラッドが?」
「オスカーが落葉を集めたところに、ウィルが折角だからとサツマイモを持参し、アキラが火を付けて」
「ブラッドは?」
「何かあれば俺が責任を持つ」
「つまり何もしてない、と」
「…こうして手分けして焼き芋をお裾分けしている」
ノースへはウィルとアキラが、イーストへはオスカーが、そしてウェストにはブラッドが持ってきたという訳だ。
「…芋に合う酒もあるけど、一杯飲んでく?」
「丁度今日の仕事は終わったところだ。長居は出来ないが…芋半分に合う分だけ頂こう」
多分断られるだろうなと思いながらも、癖みたいになってしまった誘いを投げかければ意外な返答が帰ってきた。
「お、おお。じゃあ座って待ってろ」
確か酒棚の奥に秘蔵のブランデーが残ってたはず。菓子作りにも使われるブランデーは甘みの強いサツマイモにも合うだろう。
大人しくソファーに座るブラッドを横目に見ながらグラスの用意も…と思い、片手に焼き芋を持ったままだった事に気付く。
ブラッドが何も手を出さず、仕事とは関係ないはずなのに黙認して作った焼き芋。
それを肴に、断られなかった酒の席。
少し前までは考えられなかったブラッドの変化に笑みが零れる。
行儀が悪いと小言が飛ぶかもしれないが、ブランデーとグラスを両手それぞれに持つ為…と、緩んだ口元を隠す為に焼き芋を口にくわえる。
よく火の通った暖かな甘みも、たまには悪くない。