チャリティー企画、と司令部からの通達があった。
各セクターヒーローがひとりひとつ。私物をオークション形式で出品し全売上金額を各セクターに平等に分配寄付し今後の街の整備等に活用してもらう社会奉仕活動企画と説明を受けた。
特別価値のある私物もなく需要があるかは知らないが、酔った勢いとディノのプレゼンに乗って買ってしまったまま使っていなかった腕時計を出品した。各出品にそれぞれサインを付ける指示によって、ルーキー達含めまぁそれなりに入札はあるようだった。
勿論ダントツ人気はジェイのトレーニングウェアが飛び抜けているが。
「…そういえば」
ブラッドは何を出品したんだ?
すいすい、と携帯の画面を動かして検索する。
「…まじか」
ブラッドの私物出品も、腕時計だった。
確か一度使用しているのを見た…気がする。
ベルトが少し長くて調節したいが中々時間が取れない、と言っていた…気がする。
文字盤の色合いがブラッドの髪色に近くて印象的だった…気がする。いや、印象的だったから覚えていた。
そんなやり取りを交わした腕時計が出品されている。
別にオレがプレゼントした訳でもない、ただ一方的に覚えていただけの腕時計なのに。
もや。
湧き上がる感情に、いやいやと否定するが気持ちとは反対に出品ページをブックマークに入れる。
いや、別にそういうのじゃねぇし。
「………やっちまった」
手元にあるのは、流れるような文字で書かれたブラッドのサインと腕時計。
匿名配送の為、誰が落札し何処に届けられたか表面上は分からないのが幸いだ。勿論システムを確認すればすぐにバレるのだが特別不正をした訳ではないからまぁバレないだろう。
そっと腕に着けてみた腕時計は光の反射部分がバイオレットに輝き、やっぱりブラッドの髪色に似ていると思った。ブラッドが長いと言っていたベルトも自分には丁度良かった。
「…でもなぁ…」
着ける訳にはいかないだろ。
ブラッドに見られてもうるさいし、ブラッドのファンに見つかっても面倒だ。
それなりの金額を支払ってまで手に入れた使わない腕時計。
理由は簡単だ。
その感情の名前を自覚するとむず痒くなり、腕時計とサインはベッドサイドの引き出し一番奥へと仕舞った。
その直接にブラッドから着信が来るもんだから、一度深呼吸してから通話ボタンを押す。
「…なんだぁ?」
『手料理が食べたい』
「そりゃまた急だな」
『私用で近くまで来ていた。必要な物があれば買っていく』
「いや拒否権はねぇのかよ」
『買う物がなければあと15分程で着く』
「あー…あり物で作るからまっすぐ来いよ。文句は受け付けねぇからな」
『わかった』
「…なんか機嫌いい?」
『…普通だが』
「あっそ。そんじゃまた後で」
『あぁ』
なんとなく、ブラッドの声色が柔らかい気がしたけど特に思い当たる節もなく、まぁ機嫌がいいに越したことはないか、と手短に通話を終わらせてキッチンへと向かう。
和食は作れそうにないが、作り置きをして冷凍しておいたハンバーグをベースに何かアレンジしようか。煮込みハンバーグもいいし、和風ダレを作ってかけてもいい。
冷蔵庫を開けて頭の中でメニューと手間と時間を計算する。
ハンバーグと言えば、チャリティーオークション終盤にジュニアが、クソメンターの腕時計の価格が急に伸びてきた、って騒いでたな。
オレも一応メジャーヒーローだからな、とその場では笑ったが、今思うとたかだかノーブランドの腕時計にモノ好きも居たもんだ。
「まぁ、腕時計を出品して腕時計を落札したオレ程じゃねぇか」
壁掛け時計で残りの時間を確認し、冷蔵庫を閉じて料理に集中することにした。