携帯へ送られてきた住所にキースを迎えに行けば、テーブルに小さな袋が1つキースと並んでいた。
「おい」
「わりーわりー、助かった〜」
「これは何だ」
「いーからいーから」
「良くはない。財布がないなら調子に乗るな」
「頼んじまったモンはキャンセル出来ないんだからいーだろ?小言は車で聞くし、ここで言い合っても非効率的だろぉ?」
袋を掴んで会計に向かうキースの言い分も一理ある、と口を噤む。確かにここで言い合いをしても店に迷惑をかけるだけだ。車内での注意項目が増えるだけで見逃すつもりはないが。
「ちゃんと金は返すって」
「…当たり前だ」
手短に会計を済ませて車へと向かう。
途中、エリチャンを見ていたのだろう市民から手を振られたりして笑顔を返す。
「時間外でも対応大変だなぁ」
「誰のせいだ」
「オレでーす」
「…」
注意項目が増えたな、と口には出さずに車に乗り込む。
シートベルトを締めて、エンジンをかける。シフトレバーをドライブに入れて走り出すと、早速キースが隣でガサゴソとテイクアウトした袋を漁り出す。
「結局、何を買ったんだ」
「ん」
ドリンクカップにストローを刺して渡された物を一口飲む。シュワッと弾ける喉越しにジンジャーやスパイスの香りが鼻を抜けていく。
「クラフトジンジャーエール。あそこのカフェの看板ドリンクだとよ」
中身を確認せずにそのままキースももう1個のストローに口を付ける様子から、キースも同じものを飲んでいるのだろう。
そのままキースは再度ガサガサと袋に手を入れて、今度は何やらパイのような食べ物を口元に差し出された。食べろ、ということだろうか…。
半円型に閉じられたパイを一口頬ばれば、肉の旨みと玉ねぎの甘みが口に広がる。
「…コーニッシュパスティか」
「そ。食べれそ?」
「頂こう」
今度は自分のペースで食べれるようにと手渡される。少し行儀が悪いがここにはキースしか居ない。片手で食べながら車を走らせることにしよう。
「どーせ、またプロテインバーとコーヒーで仕事漬けだったんだろ」
「…」
「空きっ腹にコーヒーばっか入れてると胃が荒れるぞ」
「…ふふっ」
「なんだよ」
「いや、いつもと逆だと思ってな。まさかキースに小言を言われるとは」
「あー…別にそういう訳じゃねぇけど…」
ごにょごにょと言い淀むキースは照れ隠しなのかストローに口を付けて一気に飲み干してしまう。ズズッと音を立てたドリンクカップをホルダーに差し込んで、背もたれに深く背を付ける。
「次はブラッドの小言を聞いてやるよ」
「…小言を聞く態度ではないと思うが?」
「財布忘れた事と、勝手にテイクアウト頼んだ事と、エリチャンに居場所書いて時間外対応させた事と…あとなんだ?」
一つ一つ指折り数えながらこちらの様子を伺ってくる。
「こんだけ小言があれば、真っ直ぐタワーに帰るには時間が足りねぇよなぁ?」
どうやら、このドライブの時間を引き伸ばすのが目的だったらしい。
「…直接俺に迎えを頼まなかった事も、だ」
酔った時は素直に連絡を寄越すくせに、と添えると、キースは驚いたように数回瞬きをした後に空になったはずのドリンクカップに手を伸ばしてズズッと音を立てた。
息抜きと呼ぶには少し不器用なドライブを楽しませて貰う事にしよう。炭酸とパスティに小言を添えて。