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    薄荷🌿

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    三部後・スタ承未満の話

    スタプラさんにしっかり自我がある。じめっぽい。明るくはない。

    君のせいじゃあない | 薄荷 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17460334

    君のせいじゃあないまた悪夢を見た。内容は覚えていない。しかし飛び起きた時の冷や汗が尋常ではなかった。落下感とも違うその恐怖に、承太郎の脳裏にはカイロでの戦いが過ぎった。心臓を酷く跳ねさせながらも視界に広がる暗闇に目を凝らし、ここが日本の自宅である事を認めると安堵と苛立ちが混ざったため息が漏れた。そしてふと横を見ると、勇猛なスタープラチナが承太郎を見下ろしていた。無意識に呼び出していたのだろうか。

    「悪い」

    承太郎がごく小さい声で呟くと、スタープラチナは姿を消した。
    あの五十日を共にした仲間の死は承太郎の深いところへ傷をつけた。しかし彼はそれを引きずらなかった。その傷を癒そうとはしなかったが、自ら傷口を広げるようなこともしなかった。彼らの死を理由にしていつまでも自分が腐っているのは彼らへの冒涜であると承太郎は考えた。深いところについたこの傷は風化も治癒もさせない。ましてや言い訳になど決してさせるものか。承太郎はそう自分に誓ったのだ。

    そして、承太郎は悪夢にうなされた。初めはあの旅から帰ってすぐのこと。二度目はそれから五日後、三度目は三日と経たず、四度目はその一週間後。四度目が昨夜の話で、五度目がたった今だ。法則性はない、心当たりも全くなかった。それどころか、少し疲れて布団に沈むように寝付いた夜なんかに悪夢は襲ってきた。深い眠りの中で突如背筋に氷を入れられたような恐怖に飛び起きる。しかしそんな時は必ずスタープラチナが横にいた。その姿を見て、承太郎はやっと心をおちつけることが出来た。

    有り体な言葉で言えば、死がトラウマになっているのだと思った。承太郎は仲間を目の前で看取るということが一度と無かった。全てあとから知るのだ。そこに自分がいたならば。彼と最後にした会話は何であっただろうか。
    この傷は自分が思っているよりずっと深いのか、承太郎は頭を悩ませた。いつまでもこうしてうなされている訳にはいかない、自分には前へ進む義務があるのに、自分は進むことが出来るというのに。承太郎は自分を見失う寸前まで悩んでいた。

    承太郎は冷や汗で湿った肌着を脱ぎ、布団のわきに放った。肉体的な傷が刻まれた身体を起こし、箪笥の取ってに手をかけた。暗闇だろうと慣れた自室ではなんてことはない。引き出しから着替えを取り出し、それに腕と頭を通した。胴まで布を下ろしながら布団に戻る。

    「……スタープラチナ」

    たくましい影が承太郎の前に現れる。その表情は無機質だが冷酷ではない。承太郎の分身とも言える彼だが、手放しに表裏一体と決めつけるには不透明な部分もあった。それでも承太郎にとっては体の一部のようなもので、他人には絶対に言えないことも言える気がした。

    「……」

    あくまで言える“気がした”だけで、実際その口は重かった。承太郎は頭をがしがしとかき、眉根を寄せて俯いた。そしてしばらく沈黙が流れた。スタープラチナは自分より幾分低い承太郎の頭を見つめていた。承太郎はまだ黙っていたが、突き刺すまでの視線を感じとると腹を決めてぽつりぽつりと零した。

    「寝て、くれるか……一緒に」

    承太郎はとうとうその顔はあげなかった。しかしスタープラチナには十分伝わったようで、それを言うや否や抱えあげられた。

    「っ!?」

    その余りの早さに、承太郎は言葉で伝えたのが馬鹿らしくなった。考えてみればそもそも声にして伝える必要はなかったのではないか。今までだって黙っていても伝わっていたではないか。どうやらこの頭は寝ぼけていたらしい。気づけば布団に寝かされていた承太郎は、思わず無い学帽を下げる仕草をした。そして傍に立つスタープラチナを横目で見た時、あることに気づいた。
    スタープラチナには承太郎の思うことが言葉にしなくても伝わるのだから、彼はハナから承太郎の考えが分かっていたはずだ。それならば承太郎が俯いて口を閉じたり開いたりしていたあの時間はなんだったのか。まさかとは思うが俺がまごついてるのを見てからかっていたんじゃあないだろうな。承太郎はスタープラチナを怪訝な目で見上げた。





    「っなにしやがる」

    スタープラチナは大きな手で承太郎の瞼を覆い、布団を掛けた。いいから寝ろとでも言いたげな振る舞いであった。その大きな手を顔から剥がそうと承太郎はしばらく抵抗したが、その手もスタープラチナ自身も全く動じなかった。承太郎は舌打ちをしてから自分の手を離した。

    「……分かった寝るから、退けろ」

    すると瞼から重みがなくなり、承太郎は布団の横に腕を組み胡座をかいたスタープラチナの姿をみた。彼は目をつぶり少し俯いていて、人間が寝入る体勢のようだった。スタンドも眠るのか、それともそれらしい真似をしているだけなのか。そういう細かいことが気になる性質の承太郎だが、二日連続で悪夢に叩き起されていたからか徐々に眠りに落ちていった。




    「何処だ、ここは」

    承太郎が目を覚ましたのは自室ではなかった。部屋ですらない、ただ真っ白な空間が広がっていた。自分が今なにに足裏をつけて立っているのかも分からない。

    「スタープラチナ」

    訳の分からない空間にいるのにも関わらず承太郎が落ち着いているのはスタープラチナが目の前にいるからであった。ここは夢の中らしい。スタープラチナがそう伝えてきた。スタープラチナの口がそう動いた訳では無い、しかし承太郎には分かった。

    「俺がお前を出したまま眠ったから、夢の中にいるってことか?」

    あの旅の間、ふたりはいつも同じ方向を向いていた。しかし今の承太郎とスタープラチナは向かいあわせで立っている。承太郎はそれがすこしむず痒かった。そして学帽のつばを下げたとき、自分がいつもの長ランを纏っていることに気づいた。夢ならばそんなこともあるかと考えていた時、スタープラチナがこちらに何かを云わんとしているのが分かった。承太郎はそれを聞いとり、眉をひそめた。

    “ーーー”

    「なにを謝ってんだ」

    スタープラチナが謝った。それが“ごめん”と言ったのか“すまん”なのか“悪かった”だったのかは分からない、ただ承太郎には精神を介して伝わった。しかし謝られる心当たりはない。いや、ひとつだけあった。承太郎は目の前の勇猛な男を睨みつける。

    「手前ェ、自分の力不足だったなんて傲ってんならタダじゃあおかねーぜ。そりゃあいつらに対する侮辱だ。運命を変えるなんて力は俺にもお前にも、」

    “ーーー”

    スタープラチナが“違う”と云った。
    承太郎はそれを聞いて、いま自分が言ったことに対して舌打ちをした。墓穴を掘らされた気持ちになった。いま自分がスタープラチナが並べ立てた言葉は、以前から自分に対して思っていたことなのだ。傷口を広げまいと考えないようにしていたことだった。無理やり封じ込めた感情だった。

    「それを掘り返しといて手前ェ、“違う”だと?おちょくってんのか。さっさと言ってみろ」

    並の人間なら竦み上がる語気だが、スタープラチナが動じることはない。彼は承太郎に一歩また一歩と近づいた。そして間合いに入ると、逞しい手を承太郎の胸の真ん中に当てた。承太郎はやるせない怒りのようなもので頭がいっぱいだったが、自らの半身が伝えようとするのを遮ることは無かった。その代わり決して目は離さなかった。そしてだからこそ気づいた、目の前の猛々しい志士が僅かに恐怖していることに。承太郎は驚き、同時にある事に思い当たった。

    「なにビビッてんだ。続けろ」

    承太郎は真剣な顔で発破をかけた。スタープラチナは何も云わない。しかしその瞳を承太郎の目から自身の手に移した。その手は承太郎の胸の上にある。一呼吸おいて、大きな手は承太郎の身体へ沈みこんでいった。

    「っ……」

    承太郎は息を飲んだ。
    まるで心臓を掴まれた心地に、いや文字通り掴まれているのだ。実際には包まれていると言った方が正しいかもしれない。しかし冷静に物を考える余裕はない。冷や汗が吹き出してきた。命の危機だと本能が叫んだ。いま自分の心臓は、目の前の男の大きな手の中にある。そいつは俺の青ざめる顔を見て、

    「謝るな」

    先回りして言えば、スタープラチナは何も言わなかった。しかし今度は手を引き抜こうとしたので、それも止めるように言った。しかしその命令は聞かなかった。大きな手が胸から引き抜かれると同時に、俺は情けなく膝をおった。スタープラチナはそれを急いで抱きとめ、俺はこいつの腕の中に収まった。

    “ーーー”

    「謝んなっつったろうが」

    “ーーー”

    「ン……。てっきり悪夢なんだと思ってたぜ」

    スタープラチナは承太郎の身体に回した腕の力をゆるめなかった。
    カイロの戦いを思い出した。あの時はあれが一番正しい選択だった。自ら心臓を止めて欺く、油断を誘う。実際に次の攻撃へ流れを作れた。その際のスタープラチナに躊躇いは感じなかったし、俺も今ほど冷や汗が止まらないなんてことは無かった。そこは文字通り命懸けの戦場で、いまさら悠長にビビっている場合ではなかったということか。しかしいま考えてみれば、酷な命令だったのかもしれない。
    承太郎はスタープラチナを抱きしめ返した。

    「悪かった。無茶なことやらしたな」

    “ーーー”

    「てめーだって謝っただろうがよ」

    そして、スタープラチナはゆっくりと詳細を伝え始めた。承太郎は大きな身体に腕をまわしたままその言葉を受けとめた。

    静かに寝入る承太郎をみると、二度と起きないのではないかと不安になった。心臓を動かさなければと焦燥に駆られた。そうして心臓に触れるとそれは動いていて、同時に承太郎が顔を青ざめて起き上がる、それを見ると申し訳なく思う以上に承太郎が生きていることに安心した。それなのに不安は消えず、段々と膨れ上がっていった。

    承太郎はそれを聞き終わると柔らかく笑った。そしてまわした腕に力を込める。スタープラチナは自分の胸に暖かく強い鼓動を感じた。

    「これでもわかるだろ。もう飛び起きるのはごめんだぜ」

    少し身体を離し、目を合わせた。スタープラチナの瞳が輝いたようにみえた。

    “ーーー”

    「違ェよ、起きてる時にだ。なんべんもやってりゃ体に染み付くもんだろ」

    “ーーー”

    「ン。ジジイとかの前ではやるんじゃあねえぞ」

    承太郎は笑った。
    するとスタープラチナがとびきり強く承太郎を抱きしめた。その一瞬、承太郎はあの輝いていた瞳が潤んでいた気がした。スタープラチナは何かを訴えるように段々とその力を強めた。承太郎は喉から間抜けな声を出して、背中にまわした手でスタープラチナを叩いた。しかしその腕は大してゆるまなかった。

    「おい!スタープラチナ!」

    承太郎が怒鳴ると、スタープラチナは何も言わず力を弛めた。その拍子に承太郎が抜け出す。一歩離れた承太郎がスタープラチナと目を合わせた時、スタープラチナの言葉が雪崩のように舞い込んできた。

    そんなに悲しい顔をしないでほしい。そんなに大人びた顔をしないで。甘えてほしい。背負いすぎて潰れてしまわないか心配。重荷になりたんじゃあない。潰れそうになった時は周りに伝えてほしい。頼りにして欲しい。

    承太郎は面食らってしばらく固まった。そしてようやくその言葉を噛み砕いたかと思うとこう応えた。

    「てめーのことは、十分頼りにしてる、ぜ」

    それを聞いて、スタープラチナは承太郎を再び抱きしめた。そして腹の中で呟いた。全然わかってくれていない、と。

    「おい、スタープラチナ……?」

    承太郎は訳が分からない様子で、手持ち無沙汰の手を広い背中にまわした。スタープラチナは何も言わなかった。しばらくして彼は覚悟をした、承太郎を傷つける覚悟を。そして彼を抱きしめたまま、慰めの言葉をかけるのだ。

    “ーーー”

    承太郎はその言葉に目を丸くした。そして慌てて起き上がる、そこは布団の上だった。まだ低い日の光が部屋へ注いでいる。
    夢から覚めたのか、いやそんなことはどうでもいい。
    承太郎はスタープラチナを呼んだ。スタープラチナが布団の横から彼の目の前に移った。承太郎はスタープラチナを見上げた。その瞳と目を合わせると、頭の奥が痛んだ。スタープラチナはただ静かに承太郎を見ている。承太郎の頭の中ではスタープラチナの最後の言葉が何度も駆け巡っていた。

    「てめぇ、どういうつもりで」

    その声は震えていた。承太郎は驚いて顔を下げたが、スタープラチナの手が顎を掴んで上げた。承太郎の顔を包んだ大きな手が濡れていく。その喉からはひきつるような音がした。承太郎は目を閉じた、唯一の抵抗だった。

    「っ……んなこと、思ってねぇ、って、傲慢だっつったろーがっ……あいつらは、あいつらのっ……」

    エメラルドの瞳がふたたび姿をのぞかせた。頬を包む親指が雫をひとつ拭うと、今度はふたつこぼれた。

    「それはおれがっ……どうこう、できることじゃあっ……」

    力なく投げ出されていた手が、大きな背中に少しずつ吸い寄せられるように持ち上げられた。すると大きな手が脇の下からすくうように彼の体を抱き留める。今度は逞しい肩にいくつもの雫が落ちた。

    「できっことが、あったかよ……、そんなんあったら、あったらっ、おれは、」

    小さく跳ねる背を大きな手が撫でた。

    「くそ……なんとか言いやがれ、てめぇだっておれだろうがっ、……、てめぇだって、さびしいんだろうがっ、泣けよ……ずりーぜ、くそっ……」

    スタープラチナは黙ってその背中を撫で続けた。
    承太郎はその深い傷を癒すことも忘れることもしない。しかし見つめることを覚えた。見つめることで傷はふたたび痛み始めるが、その涙を拭くものがいればまた前に進むことが出来る。
    ひとつの人生を歩むふたつの精神は、死の恐怖からお互いを守りながら生きていく。

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