オレンジサイダー⚠️原作軸ではありません!Not折出
デクくんが女体化してます!
かっちゃんがデクくんを「緑谷」と呼んでます。
モブがめっちゃ出てきます。出番は序盤だけです。
以上のことが大丈夫でしたらどうぞ!
――――――
「そっち行ったぞ爆豪!」
「ハッ、まかせろや!」
「うわっ!ちょ、嘘だろ!?」
「負けんな竹田ー!」
「よくやった爆豪!」
「そのまま入れろー!!」
俺が向かったことで慌てた相手から、軽々と奪ったサッカーボール。他の奴らに取られないよう、前に前に、蹴り続ける。ボールを持つヤツは狙われる。だが、追うより追われる方が自分の性にあっているのか、俺は試合の時大体ボールを持っていた。一度持ったボールは誰にも渡さねェ。そのままゴールまで一直線に走り、立ち塞がるキーパーとの読み合いになる。右か、左か。相手がどちらに出るのか、お互いに睨み合う。そして、ゴールキーパーの視線が緩んだ一瞬を見逃さずに、シュートを決めた。
……はずだった。俺の足から離れたボールがネットに入ることはなく。ゴールを形成するポールにガンッと弾かれて、どこか遠くへと飛んで行ってしまった。
「!?」
「あ~あ、やったな爆豪」
「普段外さねぇのに珍しいじゃん」
「点数開きすぎて一度外したくらいじゃなんともねぇのマジ何なん?」
「まじで才能マンだよな、爆豪!」
「チッ、うるせぇ」
「あ、外したから拗ねてる~」
「かわいいとこあるやん」
「ボール取ってくっから、さっさと試合戻れや!」
「よろ~」
「よし、アイツ居ない間に巻き返せ!」
「おい、戻ってきたとき負けてたらぶっ殺すかンな!」
「善処しま~す」
代わりのボールを出して、俺を抜いたメンツで試合が再開した。たぶん、戻ったら負けてンな。そもそも今まで、ほぼ俺1人で得点を取っていたのだ。あまり期待はせず、早く見つけて戻ろう。飛んで行った方向には、確か園芸部の花壇があったはずだ。そこに突っ込んでないことを祈りながら、ボールが飛んで行った方向へ走る。だが、神は俺の願いを聞く気はなかったようだ。
段々近づく花壇の真ん中に、普段はない白に黒の模様がついた塊が見える。その塊はどう考えても、俺が蹴ったボールだった。
まじでやっちまった。綺麗に整列する花を散らすようにサッカーボールはめり込んでおり、修復するには休み時間だけでは到底足りそうになかった。
どうしたもんか。とりあえずボールを抜いて、へこんだ土を埋めて平らにする。しかし散った花をどうこうすることは出来ず、一番近い花屋は何処だったか、考えていた時。
後ろから、少し高い声が聞こえた。
「爆豪くん?」
「オァッ!?」
「あっ、驚かせるつもりはなかったの、ごめんね」
「あ、あぁ、大丈夫だ…問題ねェ」
「普段僕以外いないから珍しくて、つい声掛けちゃった」
そう言って目の前の女はえへへ、と眉を下げて笑っていた。緑のもさもさとした髪と、くそダセェ黒縁メガネ。確か、同じクラスの……
「緑谷……?」
「え?」
「わり、名前間違ってっか?」
「あっ、ううん!合ってるよ!」
「なんだよ、間違ってンのかと思ったわ」
たぶん、俺が名前知らねぇと思ってたんだろうな。「名前を呼ばれるとは思わなかった」と、そばかすの浮かぶ顔にありありと書かれていた。流石にクラスメイトの顔と名前くらいは知っとるわ。だが、普段自分はカースト1位と言われる、所謂「陽キャ」に分類されるグループにいるため、そう思われても仕方ない部分はあるのかもしれない。
「あはは、ごめんね。それで、爆豪くんはどうしてここに?」
「あ~、実は……」
園芸部の花壇を、壊しちまったと正直に話したら、緑谷は少しの間ポカンとしていた。だが、ふっと柔らかく笑うと、「平気だよ」と言いながら安心させるように肩を叩かれた。
「何で平気だってわかンだよ。めちゃくちゃ怒るかもしれねぇだろ」
「大丈夫だよ。その園芸部、僕だから。今もその花壇の手入れにきたところだし」
「そうだったンか。荒らしちまって、悪かった。この花壇、俺にも直させてくれ」
「えっ、別に1人で平気だよ!よくあることだし」
「こんだけ綺麗に世話されてる花壇を壊しちまったんだ。むしろ手伝わせてくれ」
「あ、じゃあ、お願いしようかな……」
緑谷には遠慮されたが、そのまま引き下がる訳にはいかない。俺の勢いに押されたのか、結果的に手伝いを受け入れてもらうことが出来た。
彼女が持ってきた園芸道具を借りて、他の花を傷つけないように、折れた花を抜く。ババアの園芸を手伝ってたのが、こんな所で生きるだなんて思わなかった。
抜いた花をそっと地面に置く。折れちまったこいつらはどうなるんだろうか。このあと処分するであろう緑谷に、行く末を尋ねた。
「ん~、花弁が綺麗なまま残ってる子は押し花にするけど、花が散っちゃった子は捨てるしか無いかなぁ」
「そうか。……押し花にしたやつ、貰ってもいいか?」
「えっ、いいけど」
「似合わねぇって思ってんだろ」
「あ、いや、まぁ……うん」
「俺がやっちまったこと、覚えておきてェんだよ」
「ふふ、意外と真面目なんだね」
「どういう意味だよ」
テメェが奪っちまった生命を忘れんな。ババアがそう言ってたから、忘れないように持っておきたいと思った。
綺麗なまま折れた花と、散ってしまった花を丁寧に分けていく。散ってしまった花は緑谷が新聞で包んで、どこかへ持っていってしまった。数本手元に残った、折れた花を壊れないよう持ち上げて、トレーの中へと移動させた。
「ごめんな」
花弁を優しく撫でながら、謝罪がポツリと零れた。もう少し花壇を整えておこうと、シャベルを手にしたところで、聞き慣れた声が俺を呼んだ。
「爆豪ー!何してんだー!そろそろ昼休み終わるぞ!」
「あーーー、すっかり忘れてたわ。俺もう少しやってくから、先教室戻ってろ」
「なになに?花壇?」
「俺が蹴ったボールが入っちまったんだよ」
「なんだ~、それくらいなら俺もよくやるぜ?」
「どうせ誰かやるだろうし、置いとけばー」
教室に戻る途中だったのか、一緒に遊んでた奴らが花壇の周りにワラワラと集まってくる。踏まれないようにトレーを拾い、早く戻れと手を振った。付き合いの長い何人かは、俺の言いたいことを察し、他の奴らを巻き込んで教室へと足を向けた。
「はいはい、分かったよ」
「一応先生には言っとくな」
「緑谷も遅れるって、言っとけ」
「何で緑谷?まぁいいけどさ」
「はよ戻ってこいよ~」
「わかっとる」
もうそんな時間だったのか。彼女が帰って来る前に片付けをしてしまったほうがいいかもしれない。去ってく友人たちにひらひらと適当に手を振り返して、散らばった園芸道具を拾い集める。道具をバケツに入れてまとめたところで、緑谷がパタパタと戻ってきた。
「遅れてごめんね~、あとこれ戻すだけだからもう大丈夫だよ」
「一緒に持ってく。バケツ重いだろ」
「別に大丈夫だよ!」
「いいから、トレー持っとけ」
「あっ!ありがとう」
「イイエ」
体を屈めてバケツを持とうとしたところで、胸ポケットに入れていた鍵が滑り落ちた。カチャンとなって落ちた鍵には、昔から好きなヒーローのキーホルダーが付いていて。柄にもなくキャラ物を付けているのがもの恥ずかしい。スグに拾ったが、見られたかもしれない。そろりと彼女の様子を見ると、プルプルと体を震わせていて。笑い始めたら頭を殴ってコイツの記憶を飛ばそう。そうしよう。そう思っていたのだが、握った拳の出番が来ることはなかった。
「~~ッ!それ!オールマイトだよねっ!?」
「あ、あぁ」
「しかも、七年前にヒーロー展限定で発売されてたランダム商品のシークレットバージョン!!僕も欲しくて買いに行ったんだけど、通常バージョンしか出なくて!!何で持ってるの!?もしかして、あの時当てたの!?爆豪くん、いつもくじ運良いもんね!!いいなぁ~~!!」
「お、おぅ……」
今までに聞いたことの無いほど、緑谷が喋っている。こんなに話すやつだとは知らんかった。一息で言われた言葉の端々から、オールマイトが本当に好きなんだとわかる。なまじグッズが多いだけに、これがシークレットだと分かるやつはそういない。こいつなら、オールマイトについて話してもいいかと思わせる熱量が、そこにはあった。尻ポケットから定期入れを出し、そのデザインを見せる。
「なァ、これ知ってっか?」
「もちろん!!この間やってたデパートとオールマイトのコラボ商品だよね!!オールマイトの初期のヒーロースーツの柄を模した定期入れで、数量限定販売だったやつ!!再現度が高すぎるってバズって、数十分で完売しちゃって……!たまたま買えて、僕も同じやつ使ってるよ!!」
「そうそう。マジであの時は買えんかと思った」
「すっごく混んでたよね~。オールマイトが人気なのは当たり前だから仕方ないんだけど!」
キーンコーンカーンコーン
まずい、授業が始まるチャイムだ。オールマイト談義に花を咲かせすぎたかもしれない。定期入れを仕舞い、バケツを抱え直す。チャイムを聞いて慌てて駆け出した緑谷を追いかけるように走る。
「なァ!放課後、園芸部行っていいか?」
中途半端な花壇の続きと、押し花を貰いに。そう口では言ったけれど、それはただの口実で。ただ、彼女ともっと話したかった。
「もちろん、いいよ!」
走りながら振り向いた彼女は、眩しいくらいに笑顔を浮かべていて。
生まれて初めて、女のことをかわいいと思った。