薮蛇独特な刀身の剣が煌々と燃える炎を纏う。
(あー、これは怒ってンな…)
本人は押し殺しているつもりであろう怒りは、分かりやすく炎へと反映されていた。
隣に並び相対する敵への注意は怠らないままエルモートは考えを巡らせる。
かの炎帝の怒りの理由は多分おそらく己にある、と思われるのだが
(…ドレだ)
思い当たる節しか無くて困る。
エルモート自身には何て事ない些細な行動が、パーシヴァルの逆鱗を掠めることは多々あって。
正直なところ気をつけようがないとすら思っている。
(俺にはどォでもいー事なんだがなァ)
魔術師でありながら前線を好む質なのも、傷を負うのを厭わないことも、自分よりも仲間に生きて欲しいと思うことも…。
前に一度団員を庇ってひどい怪我をした時に「後生だから」と泣きつかれてしまったので以前よりは気にしているつもりではいる。
(つってもなァ)
戦闘中など本能的に動いてしまう時などはどうしようもないと思う。
余所事を考えながらも的確に敵への迎撃を行い数を減らしていると
「…ローエンヴォルフ!」
ゴオと勢いよくあがった火柱が残党を焼き、戦闘は終了した。
とどめの炎擊を放ったパーシヴァルが得物を鞘に収めるのを横目で確認しつつそれとなく距離を詰め、戦闘の緊張を解くように息をつくのを見届けてから努めて何でもないように声をかける。
「…なァ」
「どうした?」
こちらを向かずに言葉だけで応える騎士はまだなにか思うところがあるらしい。
「なァに皺寄せてンだよ」
つんつんと自らの眉間を指差して険しい顔を指摘する。まだるっこしいのは好きじゃない。何かがあるなら言って欲しい、改善するかは別として。
「あぁ…」
そこを押さえるように手甲を纏う手が顔を覆い、はぁ、と分かりやすく大きなため息をついた。
小言の気配を察知しエルモートが少しだけ身構えていると
「この間、駄犬に言われたことを思い出してしまってな…」
「ン?」
予想外の呼び名が出てきたことに思わず声が漏れてしまった。
少し唸りながら言うパーシヴァルには気づかれなかった様で、そのままヴェインへの愚痴が続く。
「…アイツはあれでいて腕が立つのがまた腹立たしいというか」
(誉めてンだか貶してンだか…)
とりあえず自分のせいでは無かったらしい事に安堵し、ぶつぶつと呟かれる話を聞き流す。
「パーシヴァル、ヴェインの事で怒ってたの?」
戦利品の確認を終えたグランが2人の会話に合流する。流石というか、いつもと違う仲間の様子にはしっかりと気がついていたらしい。
「そォらしいぜ?俺はてっきり…」
ついそう言ってしまってからエルモートははた、と言葉を飲みこんだ。
「……てっきり?」
今度はしっかりと聞こえていた様で普段より低くなった声がじとりとした眼光と共にエルモートを捉える。
その眼光から逃げるようにじり、と後退りしようとするエルモートをグランが逃がさないとばかりに捕まえる。
「なッ…!」
「1回ぐらいちゃんと怒られた方が良いよ?」
にこりと年相応の笑顔でグランが無邪気に笑う。
しかし、目が笑っていない。
「てっきり、何だ?エルモート?」
「…な、何でもねェって!」
「もう話したんだと思ってたよ」
パーシヴァルとグランとに板挟みにされたエルモートは、少し離れた所で困ったようにこちらを見ていたアンナへと助けを求めたが
「ご、ごめんなさい」
「…ジゴージトクッテヤツダナ」
アンナが隠れるように盾にしたカシマールがため息混じりに言い放ち、肩を竦める様な仕草をする。
「観念するんだな」
先ほどよりも怒りのこもった炎を揺らすパーシヴァルの説教は、エルモートの大きな耳が下がりきるまで続く事となった。