カーバンクル・ガーネットパーシヴァルが正式に騎空団に身を置くことを決めた数日後。
買い出しに向かうグラン達にパーシヴァルも街の視察も兼ねて同行し、あれこれと買い込み散策を終え艇に戻る頃には日も傾き始め空は薄い黄色へと変わり始めていた。
「おかえりなさ~い!」
甲板からこちらに気づいたルリアが手を振り声をかける。それにグランが手を振り応え、小さな包みを持ったビィがぴゅうと一足先に飛んでいく。
「ルリア~!美味そうなもん一杯買ってきたぜ~!」
そう言いながら遠ざかるビィとすれ違いに、ルリアの元から小さな影がパーシヴァル目掛けて飛んでくる。
ふわりとパーシヴァルの頭上に降りたそれは、グラン達に出会い行動を共にしていた時に何度か見た召喚獣カーバンクル・ガーネットだ。
「すっかりパーシヴァルさんに懐いちゃいましたね」
頭上の小さな獣が嬉しそうに喉をならす様子に、合流したルリアが微笑む。
「火を使う奴が好きなんだろ?」
火属性の召喚獣だもんな!とビィが言う。
「頭に乗るのはやめて欲しいんだがな…」
そう溢し頭上を見やれば、カーバンクルはきょとりと首を傾げ宝石の様な目をぱちぱちと瞬いた。
頭にカーバンクルを懐かせたまま、グランや団員達と語らいながら甲板を歩いていると前方から扉の閉まる音が聞こえ、次いで人影が現れる。大きな杖を携えフードからエルーンの紅い耳を覗かせたその人影は背を向けている為かこちらには気づいていない様だった。
「あ」
その人物に気づいたグランが声を上げたのと同時にパーシヴァルの頭に乗っていたカーバンクルが翼を広げ、人影に向かいびゅんと飛んでいく。
「…うわっ!なンだ?!」
ほぼ体当たりに近い勢いで飛び付かれたそのエルーンは驚き声を上げた。
「エルモートさん!ごめんなさ~い!」
はわはわと駆け寄っていくルリアに、じゃれつくカーバンクルを宥めながら振り返るエルモートと呼ばれたエルーンは、グラン達の持つ荷物に目をやる。
「買い出しかァ?」
「そう、ちょうど今戻った所。エルモートは?」
グランに問われたエルモートはニヤリと笑い
「俺様はコレだ」
と手にしたランタンを揺らして見せた。
「そろそろ暗くなるからなァ」
どこか愉しそうに聞こえる声で言い、フード越しに橙色の空を仰ぐ。エルモートの肩に乗りすり寄っていたカーバンクルがきゅうと応えるように鳴いた。
「…お前はルリアんトコに戻れよ」
もふもふと懐く小さな獣に口ではそう言いつつも無理に離しはせず好きにさせている。
一見した限りではならず者の様な格好も相まっていかにも怪しげな印象だが、どうやらそのままの人物では無いらしい。
「そうだ、紹介しとくね!新しく仲間になったパーシヴァル!」
グランがそう伝えると赤い髪のすき間から覗く猫の様な金色の眼がちらりとパーシヴァルへと向けられる。
「同じ属性だから仲良くしてあげてね」
「…あぁ」
にこにこと笑顔で言うグランとは対照的にエルモートは面倒臭そうに短く相槌をうち、ふいと視線を逸らした。あまり好意的には思われなかったらしい。
「今夜、最近入った人達の歓迎会するのでエルモートさんも来てくださいね!」
「…気が向いたらなァ」
歓迎会へと誘うルリアにカーバンクルを渡してそう返した後、ひらひらと手を振りエルモートは船首へと向かって歩きだす。
猫背気味の背中が少し遠くなった頃にルリアに抱かれたカーバンクルが腕を抜け出し、エルモートの後を追う。
「随分とあの者に懐いているんだな」
ふわふわとエルモートの周りを楽しそうに飛び回る小さな召喚獣を見ながらそう溢すと
「エルモートの火はあったかいからねぇ」
少し大人びた顔でグランが笑い
「優しい火が大好きなんだと思います」
にこにこと嬉しそうにルリアが続ける。
そうかぁ?とビィだけが少し怪訝な顔をしていた。
夕焼けに夜の色が滲み、件のエルーンの姿は闇に溶けるように見えなくなる。
いつかその炎を見る事が出来るだろうかと、パーシヴァルは少しだけ期待を膨らませ、火が灯り始めた甲板をグラン達と共に歩きだした。