喫茶室にてのどかな午後。
グランとパーシヴァルは依頼の打ち合わせの為にサンダルフォンが営む喫茶室に来ていた。
「うーん、ひとまずこんな感じかな…」
「そうだな」
依頼に合わせて属性ごとに団員を編成していく。
団長であるグランの、こなさなければならない責務の一つでほあるが、時々こうして有志に意見を貰ったりもしている。
「終わったのか?」
2人分の珈琲をトレイに乗せたサンダルフォンが声をかける。
「何とかまとまったよ。ありがとうパーシヴァル」
「他でもない家臣の頼みだ、気にするな」
散らかったテーブルの上を片付けつつ礼を言うグランに珈琲を受け取りながらパーシヴァルが返す。
「持つべきものは頼れる団員だねぇ」
そう言いながらテーブルに置かれた自分の珈琲にぽとりぽとりと角砂糖を落とす。
家臣と団長、相反する様なその立場もグランはどこか楽しんでいる様だった。
「ミルクは要るか?」
「ありがとうサンダルフォン」
にこにこと人懐こい笑顔で差し出されたミルクを受け取り珈琲へと注いでいく。沢山の団員を率いてもどれだけ人を助けても所々年相応なのを微笑ましく思い、サンダルフォンはカウンターへと戻っていった。
薄い茶色に色を変えた珈琲を一口飲んでから思い出したようにグランが話を切り出す。
「そういえばエルモートとはどうなの?」
「どう、とは?」
対して黒いままの珈琲を飲むパーシヴァルは質問の意図を問い返す。
「上手くいってるのかな~って」
仲間を想う気遣いと軽い好奇心。
心配はしてないんだけど、と信頼を添えつつも気になることは気になるらしい。
「問題ない」
「それは良かった」
簡潔に返したパーシヴァルにグランはにこりと笑顔を返す。
「最近はだいぶ素直になってきたしな」
「あれ?惚け話?」
「聞きたいんだろう?」
少し不敵に笑いながらパーシヴァルはエルモートの話をし始める。
よく笑う様になったとか、贈り物を受け取ってくれる様になったとか、側にいるとふよふよと揺れる耳が可愛らしいとか。
「もう少し我儘を言ってくれてもいいんだがな」
「ふぅん」
自分で聞いておきながらグランは生返事を返し、チラリとカウンターに居るサンダルフォンの方を見る。残り僅かになっていたのであろう珈琲を飲みきり、マグをテーブルに置いてから
「だってさ、エルモート」
その席からは姿が見えないはずの人物へと声を投げれば、カウンターに隠れたサンダルフォンの足元でガタタと大きな音がした。
「…そこに居たのか」
その音を聞きつけたパーシヴァルが席を立ちゆっくりとカウンターへ近寄ってくる。
「探したんだぞ」
柔らかく言いながらカウンターの内側を覗きこみ、隠れるように丸まったエルモートを見付ける。
「…分かってて、やってンだろ」
悔しげに見上げる赤いエルーンの顔は赤く染まり羞恥に震えてすらいた。
「どうかな」
ふふん、と得意気に笑い、カウンターの椅子へと腰を下ろす。
「仲直りは早い方が良いと思うよ」
空になった2人分のマグカップをカウンターに置きながらグランが言い、ねえ?とサンダルフォンに同意を求める。
俺を巻き込むなと言いたげな視線を返しつつ、足元に座り込むエルモートに目をやる。
「…見つかったなら、かくれんぼは終わりだな」
「匿うつもりも無かったろうがァ」
ぺたりと耳を下げ恨み言のように低く吐き出すエルーンに、それはそうだろうとため息を吐く。
「昔から痴話喧嘩は犬も喰わんと言うだろ?」
「痴話っ…!」
「サンダルフォンが言うと年期が違うね」
エルモートがそうじゃないと口にする前に関心した様なグランの声が重なる。
そのやり取りに笑いながらパーシヴァルはコンコンとエルモートが隠れたままのカウンターを叩く。
「エルモート」
「…ンだよ」
「出てこないならこのまま惚け話を続けるぞ?」
おかしな脅し文句ではあったが件のエルーンには効果があったようで、のそりとエルモートが立ち上がりパーシヴァルを睨みつけたが
「…エルモート、耳まで赤いよ?」
羞恥と少しの怒りで頬を染めたエルモートに思わずグランが溢す。
「俺のっ耳は、元から赤ェ!!」
膨らんだ赤い耳でそう言い返しながら、ドスドスと床を踏みしめるようにしてエルモートはカウンターから出ていく。
「世話になったな」
サンダルフォンにそう告げてからパーシヴァルはエルモートの後を追い喫茶室を後にした。
2人が出ていき喫茶室に残ったグランはふふと笑いを溢す。
「お前も気づいていたんだろ?特異点」
赤い騎士から逃げた赤いエルーンがここに居たことに。
「そりゃね」
けろりとした顔で悪びれもなく応える。
「…もし、出てこれない様だったら目の前でひっぱたいてやろうと思ってさ」
2人が去った出入口の方を見たままそう告げた顔は真剣そのもので、内にある強い信念の様なものが滲む。
「そういうんじゃ無くて良かった」
安心したように言ってからグランは深い安堵のため息と共に肩の力を抜き、カウンターの椅子に座った。
「甘めでいいな?」
新たに煎れた珈琲にミルクを入れ角砂糖を3つ沈める。
「わぁ、ありがとう!」
労いに素直に礼を言う笑顔はすでにいつもの人懐こい彼のもので、やはり不思議な人間だとサンダルフォンは改めて思うのだった。