光り溢れる夜団長であるグランを乗せてイルミネーション光る街を駆け抜ける最中、ふと通りかかった路地で向かいから歩いてくる見慣れたエルーンの姿を見つけてスピードをゆるめる。
黒いフードから赤い耳をのぞかせて、雪も積もる冬の夜だというのに相変わらずの風体。
「エルモート!」
後ろに乗っていたグランがぶんぶんと手を振りながら声をかければ、赤い耳がぴこりと跳ねて街を眺めていた視線がこちらを向く。
「団長サンに、ショウじゃねェか」
だいぶ機嫌が良いようでいつもは鋭い金色も柔らかく笑み、声も少し明るい気がする。
「エルモートは買い出し?」
よいしょ、とケッタギアから降り駆け寄った団長がエルモートの抱いた紙袋に気付く。
「ン?あぁ、調味料が切れちまってな」
今日は朝から厨房で忙しなく動いていた彼の姿を思い出す。火を存分に使えるからとこの時期は毎年そうらしい。
「そっちも随分楽しそうだなァ?」
単車を押してきたショウに何時もの顔で笑いながら言い、流れるような動作で雪で少し濡れた髪に触れる。急に近づいた距離に驚く頃にはふわりと暖かな手に頭を撫でられていた。
「?!」
「寒ィんだから気を付けろよ」
炎の魔法の気配を感じ、どうやら濡れた髪を乾かしてくれているのだと気づく。ショウの方が背が高いので自然と上目遣いになる目線に何故か息が詰まり、何も言えなくなったショウはされるがままに頭を撫でられる。
「おし、乾いたな」
撫でていた動作の最後にぽんぽんと頭を優しく叩き、エルモートは団長へと向き直る。
「ほら、団長サンも」
「うん」
グランはもう慣れたものの様で、言われる前からすでに頭を差し出していてエルモートも迷いなくふわふわと頭を撫でている。
その様を視線の端で捉えつつ先程の出来事を反芻して咀嚼する。
(いや、いやいや待て)
今頃になって心臓がどきどきと鳴り出し、頬が熱を持つ。
(普通、きっと普通の事なんだ)
そう言い聞かせてもどうしてか嬉しくて、手のひらを思い出すように自分の前髪に触れる。
「悪ィな、セット?崩れちまったか?」
ショウの仕草に気づいたエルモートが団長を撫でながらギザギザの歯を見せて悪戯っぽくニヤリと笑う。
「…no,problem」
「ン?」
「問題ないって」
小さく溢したからか、いつもの癖で独特な言い回しだったからか聞き返された言葉を団長が伝え直す。
髪は問題ない。問題はそこじゃない。
そう思っても伝える言葉も気持ちも出ては来ない。
「あんまり遅くなるンじゃねェぞ」
グランの髪を乾かし紙袋を抱え直したエルモートはじゃあな、と2人とは反対の方へと歩き始める。
「先公」
居なくなってしまう前にと思わず掛けた声は少し上擦ったような気がする。
「…Thanks」
感謝を伝えたショウに簡単な相槌を返してエルモートは今度こそ背を向けて歩いていった。
その背中が人混みに紛れるまで眺めてから
「僕らも行こうか」
グランがにこりと笑顔を見せてショウに声をかける。魔法で乾かされたグランの茶色の短髪はいつもより少しふわふわとしていて、もしかしたら自分の髪もそうなっているのだろうかと思いまたつい髪に手がいく。
「ラッキーだったね!」
「?」
グランがニコニコと笑いながら嬉しそうに言うのに思わず首をかしげる。
「エルモート、あれあんまりやってくんないんだよ」
暖かくて気持ちいいよね~、とグランはのんびりと笑う。
「…そうか」
団長が居たからか、もしくはほんの少しでも想われているのか…確かな事は本人にしか分からない事だけれど。
じわじわと暖かくなる胸の辺りを一度ぎゅっと握ってから、団長を後ろに乗せてショウはまたイルミネーション溢れる夜へと疾走り出した。