審眼知らないフレンズに東を見せたら月経重そうと言われて書いた健全杉東「ちょっとコンビニ寄るよ」
僕は同乗者たちの同意を待たず、ロードサイドのコンビニにハンドルを切る。
「どうした、また便所か」
「腹の調子悪いのか杉浦」
助手席に座る海藤さんが怪訝そうにすると、後部座席の海藤さんがデリカシーの無い事を大声で言う。
「サイテー、セクハラ」
「なあに言ってんだ野郎のくせに」
ガハハという豪快な笑い声を背中に、僕はそそくさと車を後にした。
今月は少し早く来た。比較的規則正しいほうだけど、それでも予定日と2、3日のずれはある。ぎりぎりまだ大丈夫だと思ったから、最低限の用意しか持ってきていない。生理用品だけならコンビニで調達出来るが、痛み止めはそうも行かない。ナビでドラッグストアを探したけれど、ここは田舎の郊外でそう言う店は見つからなかった。
八神さんから「難しい仕事が入ったから手伝ってくれるか」なんて誘われて軽々に来ちゃったけど失敗だったかもしれない。がっくりと肩を落としながら、トイレの個室で汚れた生理用品を替えてため息をつく。
でも、今更一人降りる気はない。僕の能力が必要なのだと頼りにされた期待を裏切りたくないと、僕はベルトをきつく締めた。
「杉浦」
コンビニの出入口で、東さんから声を掛けられる。
煙草でも吸っていたのか、しかし彼らヘビースモーカー達は車の中だろうがお構いなく喫煙する、わざわざ降りる必要も無いのではと訝しんでいると腕を引かれた。
「何?なんかあったの?」
我々のワゴンとは反対側に連れて行かれて戸惑う。何か怒らせたかなと少し焦っていると、東さんはくるりと僕の方を向いて手を出した。
「コレ。あと運転代わる、お前助手席乗れ」
そう言って手渡されたのは、暖かいお茶のペットボトルと白い錠剤だった。摘まんでパッケージ裏を確認すれば、市販の痛み止めで、僕はハッとして東さんの顔を見た。
「八神も兄貴も、そこらへんの気遣いは全く期待できねえから自分で気をつけろ。ったく、真っ白い顔しやがって見てるこっちがハラハラする」
言葉は乱暴だったが、それが照れ隠しなことくらい分かってる。
いつから気が付いていたのか、どうして薬が欲しいと分かったのか、尋ねたい事は沢山あったが、僕は胸がつかえて「ありがと」としか言えなかった。
「ひーがーしーさーんー!」
「うるせえな!そんなでかい声出さなくても聞こえるわ!」
先日の仕事も無事終わり、数日開けて僕はシャルルを訪れていた。この時間ならいるなぁと当りを付けて来たらビンゴ、彼はスタッフルームで煙草をふかし仕事をしていた。
僕は断りなく彼の隣に腰を掛けると、猫のようにもたれ掛かる。
「うわ、重、なんだよ、邪魔だよ」
押し返してくる東さんに一層じゃれつきながら、僕はポケットから掌サイズの箱を取り出した。パッケージには市販の痛み止めの名前、先日東さんから貰った物と同じものだ。それを東さんの手に握らせる。
「こないだはありがと」
僕が礼を口にすると、東さんは気まずそうに目を逸らす。少し恥ずかしいのか頬が僅かに赤くなる。
「いや別に……ってかわざわざ返さなくても、」
一個だけだし、たまたま持ってただけだしと、モジモジしている彼に、僕は「ううん」と横に首を振った。
「返しに来た訳じゃなくって」
「は?」
「預けに来た」
「あ?」
手渡したパッケージをひっくり返すと、僕の名前が油性ペンで書かれている。驚いている彼にニッと笑いかけて、彼の手を薬のパッケージごとぎゅっと握った。
「持っててよ、東さんも使っていいからさ」
「え?お前自分で持ってろよ!」
「ヤダー、ボク絶対忘れるもん。東さんに預けておいた方が確実だから持っててよ」
「いや、馬鹿!ふざけんな!俺を便利に使うんじゃねえよ」
ぎゃあぎゃあ怒ってパッケージを返そうとする東さんをヒラリヒラリと軽くかわす。
こんな事を言っていても、きっとまた僕が青白い顔をしていれば、そっとその薬を手渡してくれるんだろうなと想像出来て、僕は表情が緩むのだった。