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    ちあり

    普段は素敵作家様の素敵鯉月を貪っています。
    たまに鯉月界の底辺で文字を打っています。
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    ちあり

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    壮年鯉月のお祭りに乗っかります。

    #鯉月
    Koito/Tsukishima
    #壮年鯉月
    eighthLunarMonth

    おいしいごはんをいただきます函館での右腕宣言以来、月島は公私共に私の右腕として過ごしている。
    私が第七師団に所属してからずっと補佐をしてくれてはいたが、あの日から月島は変わった。
    金塊争奪戦直後は後始末に追われて忙しい日々だったが、私に対する表情が柔らかくなったのが目に見えて分かった。
    争奪戦の最中でも息抜きにメンコで遊んでいる時にはいたずらっぽい表情をしたことはあったが(特にコタンで上官命令を下した後は顕著だった)、この男もこんな顔をするのかと感心したものだ。
    心から私を想っていることが表情から伝わるのは嬉しかった。
    一方で、中央の奴らや私たちに敵対する奴らには、陰でとんでもない悪態をつくこともあった。
    子どものころは悪童と呼ばれていたらしいから、きっとこちらが本来の月島なのだろう。
    後始末も終わり、私が陸軍大学校に行くことが決まってからは、二人の関係に私的なものが加わった。
    平たく言えば、恋仲になった。
    軍務の時は相変わらず模範的な軍人だったが、私邸に呼んで二人きりになれば、そこにいるのは私のことが大好きな愛おしい男だった。
    一見するといつもの月島なのに、その表情が、言葉が、態度が、仕草が、これまでの月島とは違うのだ。
    私を甘やかしてくれることもあれば、ちゃんとしなさいと優しく叱ってくれることもある。
    仲が深まるにつれて離れがたくなっていったが、聯隊を任せることが出来るのは月島以外にいなかったから、身を切る想いで旭川に置いて行った。
    それだけに、東京の下宿まで来てくれた時は、それはそれは熱い時間を過ごしたものだ。
    陸大を首席で合格して原隊復帰してからは、二人きりの時間がより濃密なものになった。
    離れて過ごした反動で、ひとつ屋根の下で暮らすようにもなった。
    更にはかつての反逆者という汚名は返上されていたこともあり、自らの権限で月島を副官として傍に置いた。
    月島自身もそれを望んだ。
    「あなたを支えられるのは私だけなので」
    「月島ぁん」
    自信満々な顔で胸を叩く月島を、思わず抱きしめた。
    月島が部下たちとの間を取り持ってくれたおかげで、私は自分のすべきことに集中することが出来た。
    月島は私を立てて、「皆があなたの慕うのは、あなた自身が人を惹きつける魅力を持っているからですよ」と言ってくれたが、月島なしでは今の私は存在しえなかった。
    そして、函館での右腕宣言から二十余年。
    いつの頃からか家では私を「音さん」と呼ぶようになった基は、すっかり私を尻に敷いていた。
    あくまで私を立ててはくれるが、言葉や仕草で私を上手く操縦しているように思う。
    きっと夫は夫(つま)の掌で転がされているのが、夫夫円満につながるのだろう。
    「音さん、ちょっといいですか?」
    居間で座布団を枕にして寝転がっていると、割烹着姿の基が障子を開けて部屋に入ってきた。
    私の前に正座すると、財布を目の前に差し出してきた。
    これは、日用品や食料品なんかを買う用のお金が入っている財布だ。
    「なんだ、基?」
    「味噌を切らしてしまったんです。買ってきてもらえませんか?」
    「さっき帰ってきたばかりだというのに、もう私を家から追い出すのか?」
    今日は休日だというのに、陸大時代の同期に呼び出されて朝から夕方まで付き合わされていた。
    女中が実家に帰っているから久々にずっと一緒にいられると思ったのに、同期には悪いがとんだ災難だと思った。
    起き上がって基の肩を掴んで揺らしたが、その手をやんわりと外された。
    「私は久々の料理で手一杯なんです。お一人で行ってきてください」
    「なぁん、はじめぇ……」
    だからこそ一緒に行きたいと甘えるように手を握っても、上目遣いでその手に財布を握らされてしまう。
    「音さん、おなかがペコペコでしょう? おいしいご飯を作ってお待ちしております」
    「買い物くらい一緒に、」
    「私の作るご飯、大好きですよね?」
    にっこりと笑って手を握ってくる夫(つま)に勝てるわけもなく、私はおとなしく玄関へと向かった。
    「すぐに帰ってくるからな!」
    「お早いお帰りをお待ちしております。……音さん」
    「まだ何かあるの、か……」
    扉に手をかけたところで呼ばれて振り返ると、そこには先ほどまでとは全く違う基がいた。
    「今宵は長く過ごしましょうね」
    「なっ……」
    私に閨のすべてを教え込んだ男の、誘う瞳。
    その瞳が私を狂わせる。
    直接言葉にしなくても、この男が何を言いたいのか伝わってきた。
    「……こ、今夜は寝かさんから覚悟しろ!」
    「はい、楽しみにしております」
    余裕の笑みが、憎たらしくも愛おしい。
    また負けたと思わされながら、急ぎ足で味噌を買いに向かった。
    (きっと、「可愛い人だ」とか思っているのだろう)
    可愛いと思われるのは悔しいけれど、ご機嫌な基を見られるのは悪くない。
    歩いて五分の店で味噌樽を買い、行きよりも軽い足取りで家へと戻る。
    「帰ったぞ!」
    「おかえりなさいませ」
    パタパタと玄関まで出てきた基は、予想通りご機嫌な顔をしていた。
    こんな顔が見られるのも、夫の特権というものだ。
    味噌樽を受け取った基は、私の顔を顔を見るとフフッと噴き出した。
    「人の顔を見て笑うとは失礼だな」
    「すみません。あなたに勝ったつもりだったんですけど、機嫌のいい私を見て嬉しそうにしているあなたを見たら、何でもしてあげたいなって思ってしまって。結局、私はあなたに勝てないみたいです」
    ちょっと困ったように笑うその顔は、私が好きで仕方がないと言っていた。
    なんて可愛い男なんだ!
    ますます好きになってしまう。
    「これからも末永くよろしくお願いしますね」
    「それはこちらの台詞だ」
    この男が夫(つま)で本当に良かった。
    大きな尻を撫でる手をつねられながら、二人で台所へと向かった。
    今日もすべて、おいしくいただきます。
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