キミが断ち切ってくれたから 観測拠点、エルガド。どれほど遠くへ行くのだろう、と不安と僅かな期待と安堵に溜め息にも似た息を吐いた、あの日が懐かしい。
「やあ、愛弟子!」
今日もどうしてだかエルガドに居る、敬愛する教官殿は爽やかに挨拶してくれるけれど。
「……どうも」
本当は俺だって同じように返したい、けれど出来ない、この想いは絶対に表に出さないと決めている。それなのに里に居た頃よりもずっと近い距離で、いっそ過保護なまでに構ってくるから。
これは俺だけが悪いんじゃない。
必死で言い訳を探してぐるぐる回る頭を抱えて離れようとした、その腕を掴まれて硬直してしまう。
「愛弟子」
やめろ、呼ぶな。そんな優しい目で、声で、呼ばないでくれ!
「っ、ん…」
勢いで重なった、唇。やってしまった、と血の気が引く俺と、もっと先まで行けと囁く獣が五月蝿い。
「愛弟子」
「っ……あんた、が…あんたが悪いんだ!」
八つ当たりにも程がある、よくわかっていた。けれどどうしようもなくて、俯いて視線を逸らしてただ怒鳴り散らした。
「あんたが悪い、俺は、ずっと忘れようとしてきたのに!どうして今更こんな…っ」
「ごめんね」
ハッと顔を上げれば、慈しむような優しい琥珀が俺を見ていた。
「言っただろう?キミが淵源を討ったおかげで、前程忙しくなくなったって。だからね、俺も、素直になろうかな、って」
「……は?」
「ねえ、キミ、俺を好いてくれているだろう?師弟としてだけじゃなくて、性愛の対象として」
「っ…!」
「あのね、愛弟子…俺も、キミが好きだよ。キミになら、俺の全部、あげてもいいな、って…思うんだ」
「……教官、それ…は…」
「うん。俺と恋人同士になって下さい」
駄目かな、と眉を下げるその人の、その唇をもう一度塞いだ。