最速の再会 電車を降りてからまた少し走って、授業にはちゃんと間に合い帰りに何となく繁華街へ足を向けた。
「……使ってくれるかな」
そういえば期限も枚数も確認せずに渡してしまったけど、大丈夫だっただろうか。特に目的がある訳でもないからふらふらして、目に止まったのは件のコーヒーショップ。行ってみようかどうしようか、と迷って足を止める。
「あ、あの…!」
控え目に呼び掛けられ、振り返ると今朝会ったばかりの彼の姿。
「あ…」
「あ、すみません声、掛けちゃった…」
「いや、用がある訳でもないしいいよ。あ、チケット使えた?」
「あ、そう、そうだチケットなんですけど…」
ごそごそと取り出したそれは、まだ使われていないらしかった。
「期限、ちょうど今日で…。ドリンクとスイーツと、ふたつずつみたいなんで、その、よかったら、一緒に行きませんか」
「…え」
「あっいえすみません急に!」
「あ、ごめん違うんだ、その…誘ってもらえるとは思ってなくて」
慌てる様子がちょっと可笑しくて、可哀想な気もして、でもちょっと嬉しくて。
「…俺でよかったら、一緒に行っていいかな」
「はい!」
ぱっと明るくなるような、花が咲いたような笑顔が眩しい。こちらもつい釣られて、笑みが浮かんだ。
まだ遊びに誘える程仲良くなれた友達も居なくて、だけどせっかく貰ったものを無駄にするのも嫌だったし、でもひとりで行くには少し敷居の高いオシャレなお店。そんなだから、どうしよう、と思いながら向かった先で見付けた白に思わず声を掛けてしまった。
「…俺でよかったら、一緒に行っていいかな」
急に誘ってしまったのに、そんな風に柔らかく微笑んでくれたものだから、嬉しくなってしまった。だからだろう、歳上の、それもこんな風に綺麗な人は今まで身近に居なかったから緊張してもよさそうなものなのに、普通にしていられたのは。加えて申し訳無さそうに小さく「実は初めて入るんだ」と教えてくれたから、思わず笑ってしまったせいもあるんだろう。
きちんと商品名を唱えるのを聞いて、だけどこれは無理だな、と諦めてメニューを指して注文し、空いていた席に向かい合って座る。
「わざわざ読み上げなくてもよかったんだな…」
「あっ、いやでもなんていうか俺のは参考にならないというか…」
ほんの少し気まずい空気を誤魔化すように、ストローでかき混ぜた中身を啜る。
「……!」
美味しい。しばらく無言で飲んでしまって、それに気付いたのは笑われてからだった。
「美味しそうな顔するね」
「そ、うですかね…」
「敬語じゃなくていいよ。…あ、名前も言ってなかったな、ごめん」
「あっいえ俺こそ…」
自己紹介をし合って、連絡先なんかも交換してしまった帰り道、別れ際に振り返ってくれた白い髪がやけにキラキラして見えた。
こんなに早く再会するとは、と思いつつ辿る帰り道、反芻するのは楽しい時間。初めて同士で入ったショップは思ったほどには冷たくなくて、少し面白かった。また一緒に行けるだろうか、それとも別のどこかがいいだろうか。
都会も案外悪くない、と歳下の友人が出来たことに喜ぶ気持ちが胸を占めて、少しだけ寝付きが悪かった。