知恵の幽霊 知恵の殿堂へ出入りする人間の顔は大体把握している。それは何年も教令院に所属しているアルハイゼンにとってはごく自然なことで、ゆえに、見慣れない顔を目にしたときはこれもまた自然と視線を奪われる。
若草よりも青みを帯びた長い髪が揺れるさまを見た。振り返ったさきにいたのはアルハイゼンの知らない男だった。歳の頃はアルハイゼンに近しく、衣服から学生でないのは見てとれた。髪と同じく長い黒衣と金の装飾は伝統の衣装に似た型をしている。不審だった。知恵の殿堂へ出入りできるのは学生か教令院の関係者のみで、後者だとしてもあんな、膝を立て頬杖をつきながら書物を読み耽るなんて態度をとるはずもない。ここは未来の賢者の目で溢れている。
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