⚠️キャプション必読⚠️「先生、もう寝たら?」
「ねーまーせーんー」
「そっか」
顔を埋めているせいで、五条先生の声はくぐもっていた。それでもきちんと聞こえた声に頷いて、やわらかい髪をよすよすと撫でる。
ヘッドボードに背を預けて胡座をかいた俺の足に、五条先生はうつ伏せに頭を乗せていた。両腕は俺の腰にがっちりと回されている。
出張から帰るなり、これだ。今日はお疲れモードらしい。
本当は疲れているなら早く寝て欲しいし、先生だって見るからに眠そうだ。体はいつもよりあったかいし、声にも覇気がない。
それでもふかふかのベッドが待っている自分の家ではなく、狭い備え付けのベッドしかない俺のところに一番に来てくれた。それが、嬉しくないはずもない。
唇の端っこをむずむずさせながら、俺はますます先生の頭を撫でた。
「先生」
「寝ないってば」
「それは分かったけど、おっぱい吸う?」
「吸う」
俺の腹にぐりぐりと額を押しつけていた先生の顔が、ぐりんと上がる。青い目が、真っ直ぐに俺を映した。
これまで顔を暗がりに置いていたせいか、瞳孔は開き気味だ。彫刻のように整った顔立ちをしている先生の真顔は、綺麗すぎてちょっと怖い。
けれど、俺だって結構。いや。かなり恥ずかしい気持ちを堪えて、この提案をしたのだ。
これで笑い飛ばされていたら、しばらくは立ち直れなかったかもしれない。
ちなみに元気な時の先生は、「なーに? 乳首かわいがって欲しいの?」なんて意地悪そうに笑うはずだ。元気な時に聞いたことはないからこれは俺の想像だが、きっとそう。まず間違いない。
そんなことを考えていると、真顔のままの先生が早く、と視線だけで俺を急かす。覚悟を決めて、俺は部屋着のシャツをぺろんと捲った。
「ほい」
「吸いづらい。横になって」
「もー、注文が多いなぁ」
言いながら、膝の上からようやくどいてベッドに横になった先生の隣に、俺も向かい合う形で転がる。とはいっても、目的が目的だけに、先生の頭は俺の視線のちょっと下だ。
とっとっとっ、といつもよりも早く打つ鼓動の音は、きっと丸聞こえだろう。
俺の平たい胸のあたりでごそごそしていた先生だったが、しばらくするといい位置を見つけたらしい。シャツを捲り上げたままのむき出しの肌に、生温い吐息がかかる。
「……んっ」
やがて、ふわふわにやわらかい唇が、俺の乳首に触れる。次の瞬間にはちゅう、と優しい力で吸われた。思わず肩が跳ねる。
けれど、エッチの時にはどう動いているのか全く分からないくらい器用に俺をいじめる舌が、今夜はおとなしい。それこそ赤ん坊がするみたいに、ちゅうちゅうと乳輪のあたりを吸うだけだ。
歯を立てたりもしない。ただ俺の背中に縋るように手を回して、夢中になって俺の平たい胸を吸っている。
五条先生は、俺よりずっと大人の男の人だ。最強の呪術師でもあった。
みんなが先生を頼りにしている。それだけの力が、この人にはあるからだ。
そんな先生が、俺の脂肪なんてまるで乗っていなければ、ほんのオマケみたいに小さい乳首を吸っている。それが、俺にはかわいくて愛おしくて仕方がなく見えた。
「先生、いい子だね」
「……」
「最強だって人間だもん。頑張ってばっかだと、疲れちゃうよな」
「……」
小作りな頭を優しく腕に抱えて、俺は邪魔をしないようにそうっと声をかける。返事はないし、いらない。俺が先生を労りたいだけだった。
「よしよし」
「……」
「大好き、五条先生」
「……」
俺の告白に、背中を抱く腕にぎゅっと力が込められる。かわいい。本当に赤ちゃん返りしてしまったみたいな年上の恋人に、ありもしない母性がくすぐられたような気がした。
大きな赤ん坊の頭を撫でて、ふわふわの髪に頬を寄せる。
「せんせ?」
しばらくよすよすあやしていると、ふいにちゅぽんと音を立てて先生の唇が乳首から離れる。次いで聞こえたのは、返事ではなく穏やかな寝息だ。
俺に抱きつき長い脚を窮屈そうに折りたたんだまま、けれど穏やかな顔をして先生は眠っていた。
先生の唾液に濡れた乳首が、空気に触れてすうすうする。
「もー、俺勃っちゃったじゃん」
小声で文句を言うが、それでも先生はぴくりともしない。普段なら飛びついてきそうなものなのに、よっぽど疲れていたのだろう。
先生にその気がなかろうと、好きな人に乳首を吸われて勃起しないはずもなかったが、ここで叩き起こすほど鬼にもなれなかった。
俺はそっと先生の腕を外してシャツの裾を下ろすと、すばやく部屋の電気を落とす。
「んん……」
「ここにいるよ」
抱き枕がなくなって不満そうな先生の腕の中に戻ると、むずがるような声はすぐにおさまった。
「朝、パンツ汚したら先生のせいだかんね」
恨み言を呟いてから、俺は広い胸に擦り寄って目を閉じる。元々寝つきのいい俺は、それなりにムラムラしつつも、結局あっという間に眠りに落ちていった。
好きな人の体温とにおいの安眠効果はすごいのだ。
──翌朝、俺のパンツが汚れたかというと、パンツは無事だった。理由は、興奮が収まったからではない。
先に起きたらしい先生が、寝ていた俺のちんこを咥えていたせいだ。
「昨日のお礼」
寝ぼけ眼の俺に向かってにっこり笑った先生は、先走りなのか唾液なのか分からない体液にまみれたちんこを、容赦なく喉奥まで飲みこんだ。じゅるじゅると全くかわいくない音を立てながら熱い粘膜に甘やかされてしまえば、ただでさえ寝起きで無防備だった俺はひとたまりもなかった。
「大好き、悠仁」
濡れた唇をぺろりと舐めた先生は、すっかりいつもの大人の顔を取り戻していた。そんな先生を涙目で睨むが、結局それも長くは続かない。
赤ちゃんみたいな先生もかわいかったが、どこまでいっても俺はこの人が好きなのだ。元気を取り戻したことを喜ぶことはあっても、それに腹を立てることなんてできなかった。
「俺も大好き」
結局朝からシーツに沈み込んだ俺たちは、どろどろのぐずぐず爛れた午前中を過ごす羽目になるのだった。